アーリウムの大賢者

佐倉真稀

文字の大きさ
44 / 115
ラーン王国編ー見習い期間の終わりー(メルトSIDE)

ロステと昼飯

しおりを挟む
 翌日、普段着で(単なるシャツとズボン。一応短剣は腰に差している)裏門に向かった。
 裏門の前でウロウロしているロステがいた。
 なんだあれ、見世物小屋のクマか。
 一瞬帰ろうかと思ったが、約束したから仕方ない。

「…待った?」
 グルンと勢いよくロステが振り返った。なんだか服が真新しい。
「い、いま来たところだ!」
 なんで声が裏返ってるのかよくわからないな。
「行こう?」
 促すとぎこちなく歩き出したロステに続いて、俺も門を出た。
 裏門から平民の飲食店が立ち並ぶ通りに出る。お昼には少し早い時間だ。
 そこかしこから美味しそうな匂いが漂ってくる。途端にお腹がなって、さすがに恥ずかしくなった。

「何が食べたい?」
 そこはさすがに突っ込まずにロステは俺に聞いてきた。まあ、定食屋なんてそう、バラエティには飛んでないんだけど。俺はすかさず、肉!と答えてロステの苦笑を誘った。

「わかった。がっつりな感じの昼食ってことで探してみるよ。」
 フィメル向きの割とこぎれいなところとか、職人向けとか、客層によって色々あるが、ロステの選んだところは正騎士がよく訪れるという、「森の子鹿亭」。
 ボリュームがあって、しかもそこそこの値段で、美味しいというところだった。あとで気がついたのだが、そこは第一騎士団長が宴会を開いてくれた店だった。夜は居酒屋になるらしい。

 中に入るとまだ昼には早いのか、あまり客はいなかった。若いフィメルが注文を聞きにくる。
「オススメは野うさぎのロースト。単品で鶏肉の煮込み。オススメはパンがつくよ。パンは一回お代わりは無料。」
「じゃあ、オススメ3つ。煮込みも一つお願い。」
 ロステが注文する。どう聞いても多い。でも、店員は嬉しそうに頷いて奥に注文を通しに行った。
「あ、ローストは2つメルトのだから。煮込みも全部食べられたら食べていいよ?」
 よし。ロステはいい奴だ。
 すぐに注文の品がでんと置かれて美味しそうな湯気を立てていた。

「どうぞ。遠慮なく。」
 ヨダレを垂らしそうな俺にロステはそういうとカトラリーを持った。
 俺はパンを手にとってそれにローストを挟んで、かぶりついた。塩とハーブの味付けで、ジュワッと肉汁が広がる。俺はあっという間に食べてしまって、パンをまた手にとって挟んで食べるの繰り返しになった。パンもお代わりをして、煮込みのソースにつけて余すところなく食べきった。

「美味しかった。ありがとう、ロステ。」
 俺は思いっきり笑顔でお礼を言った。
「ど、どうい、致しまして?」
 ロステは真っ赤になるとどもるんだな。あがり症とかだったか?
 帰りは満腹のお腹をさすりつつ、ゆっくりと寮に戻る。

「戻ったら鍛錬だな。約束だったよな?」
 食い気味に言ったらロステの目が丸く見開かれた。
「メルトは本当に鍛錬が好きだな。」
 感心したような声に俺は頷いた。
「強い騎士になるのが夢だからな。新年の行進に参加できるようになりたいんだ。」
 ロステは驚いた顔で俺の方を見た。
「…なに?」
「い、いや。メルトがそんなに話すところって、あまり聞いたことがなかったから。」
 なんだと?話す必要がない時に無駄話をするわけないだろうが。腹が減る。
「…そう?」
「いや、なんか嬉しいな~」
 何故俺がよく話して上機嫌になるのかわからん。ロステは変わっているな。

 宿舎に戻り、着替えて鍛錬場に向かった。軽く準備体操をして体をほぐす。
 しばらくしてロステが来た。
 ちゃんと練習着に着替えている。
「ロステ、体解したら、模擬戦しよう。」
 木剣を手に取り縦に振るう。手に馴染むものを選んで、広めの場所に立つ。目を閉じて思い描くのは理想の剣。
「よし、メルト、いいぞ。」
 閉じていた目を開ける。ロステは敵だ。叩き潰さなければいけない。そんな暗示をかける。
 俺は剣を下げたまま、体に力を入れず、どんな状況にも対処できるようにする。
 ロステは中段に構えて振りかぶって近づいて来た。
 俺はそっと剣を当てて滑らせて勢いを殺す。そのまま体を脇によけてロステが進む勢いのままに進ませて後ろを取る。そのまま首筋に当て、一本。
「ロステ…」
 弱いんじゃないかな?というのは飲み込んだ。
 団長と比べたらいけないか。ましてや理想の剣筋となんて。せめてリンド先輩くらい…。まあ、贅沢なのかなあ?
「も、もう一回!」
 それから何度か打ち合って、模擬戦形式ではすぐ終わってしまうので、演舞の型をなぞる方法に変えた。
 しばらくそうしていたら、見物人が集まって来た。
「ロステーガンバレー!」
「一矢報いろー!」
 外野がうるさくなって来た。
 そろそろやめどきかなあと思いつつ、足元がお留守になっているロステの足を払う。そのまま服を持って体を落として、ロステは仰向けに地面に転がった。ぽかんとした顔をしている。
「…野営の時も思ったけど、体術、全然ダメ。」
 それだけ言って手を叩いて埃を落とす。

「今日はありがとう。じゃ。」
 手を振って、部屋に戻ろうと背を向ける。
 後ろからはざわざわとした野次馬の声が聞こえた。
(なんか盛り上がってるなあ。ああいうところはメイルのいいとこで悪いところなんだよな。俺ついていけないし)
 遠くからロステが俺を呼ぶ声が聞こえたような気がしたけど、気のせいだと思ってそのまま戻った。

「あ、メルトーロステと出かけたんでしょ。どうだった?」
 なぜかミランが部屋にいた。ベッドに寝っ転がって、お菓子を食べていた。ビスケットだ。
「お菓子!」
「第一声がそれか!!あげるよ。もう。」
 ビスケットをもらって早速口に放り込んだ。
 美味しい。甘いものってどうしてこんなに美味しいんだろう。甘いと言っても、高級な砂糖は高すぎて手が届かないから、こう言ったビスケットは材料自体の甘さが出るように焼いているのだ。
 あとは天然の果物とか、これからの季節だと焼き栗とかがいい。

「んー、ご飯は美味しかったけど、ロステは弱い。もっと強い奴とじゃないと鍛錬にならないというか…」
 聞いているミランの顔がだんだんと笑いをこらえきれないという顔になってしまいには笑い出した。

「そうだね。まあロステは絶対、メルトには勝とうとしないだろうけど、メルトが稽古したいのはちゃんと自分を鍛えてくれる人なんだろうね。」
 俺にロステは勝とうとしない?なんでだろう?
「まあ、正騎士になればいっぱい強い先輩方がいるからそれを楽しみにしたら?」
 ひいひいと息を漏らしつつ、ミランはビスケットを半分くれて二人でお茶を飲みながら話をした。
 俺はちゃんと話せるのに。とロステに心の中で毒を吐いた。


 それからロステが、体術を頑張って訓練していると聞いた。
 向上心があるのはいいことだと思った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ロステと周りのメイル達の会話

「ロステ、お前、メルトにコテンパンじゃないか。」

「う…」

「どうせ真剣な顔も可愛いとか考えて身が入らなかったとかだよな。メルト強い奴の方が絶対好きだぞ?」

「…う。」

「とりあえず体術鍛えろ。」

「ううううう」


しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...