アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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再会編(ヒューSIDE)

魔の森②

 俺はアイテムボックスに入っている調理器具を出す。前世のIHコンロそのものだ。もちろん電気がないから魔石を使った魔道具だ。
 今の時代、魔道具の大型のコンロやオーブンは宿屋やレストランの大きいところなら普及し始めているが平民はいまだに薪や炭をつかった竈を使っている。
 このコンロは俺のお手製で、同じ仕組みのもっと質を落とした汎用品(別の職人が作った)はアルデリアにある俺の商会を通じてぽつぽつ売っている。
 小型製品なのだが大型コンロよりお高い。本当に必要なのは冒険者や行商人、軍隊だろうけど、そこにはまだ届いてない。

 封建時代の真っただ中。平民の収入は俺が勇者のパーティーにいたころから、そう変ってはいない。
 俺の故郷、アーリウムではやっと、俺のダッドの領に普及したところだ。
 ハディーが慎重で、技術を簡単に供与しない方針だからだ。
 魔道具は信用できる顧客にしか売っていないからな。しかも魔法陣は秘匿のブラックボックス。分解したら壊れる仕組みだ。

 コンロに鍋をセットして、水とコンソメで作ったスープの素を入れた。
 具は鶏と野菜。沸騰して、少し煮込めば終わり。お手軽スープだ。
 それにパンを添えて差し出した。

「はい、出来たよ。スープとパンしかないけど、一応肉も野菜も入ってるから!」

 夢中で食べている姿に口元が緩んだ。可愛い。
 完食した彼は俺の方をちらっと見てくる。お代わりしたいと訴えていた。
「ん? お代わり?」
 スープのお代わりと、すでに無くなっていたパンのお代わりも添えて出す。
 ぱあっと彼の顔が輝いた。胃袋はつかめたらしい。
「美味しそうに食べてくれるね。作った甲斐があるよ」
 食べ終わった器にスープの汁もない。パンで拭って食べてくれた。
 料理人冥利につきる。
 調理器具を片付けて器に浄化の魔法をかけて仕舞う。
 さて、ご飯を食べたら寝る時間だ。もう暗くなってきた。

 索敵魔法に魔物や獣の姿はないが、これは多分、龍のせいだろうと思う。明日には戻ってくるだろうから、警戒は必要だろう。魔素の濃い魔の森だから、用心に越したことはない。
 ここはテントを出して寝たいところだが、どうしようか。彼の寝ている間だけ使って、起きたらないことにしよう。そうすれば、気付かれないで済む。

「それで見張りなんだけど。交代で3時間づつ、でどうだろう。僕が先に見張りに立つから、メルトはあとで頼むよ。何かあったらすぐ起こすから」
 そういう俺に心配そうな顔をしつつも、メルトは大人しく寝てくれたのだった。
 用心のためか彼は帯剣していた剣を抱いて寝ている。

 よし。テントを張ろう。

 何度かリニューアルはしているが、先だっては完全リニューアルで、初めての客がメルトだ。
 ベッドを大きくしておいてよかった。メルトがのびのび体を伸ばしても、余るくらいだ。

 さて、起きないようにメルトをベッドに運ばないとな。
「転移」
 メルトの肩に触れて中へ転移した。ベッドの上だ。お互いに浄化を掛けて靴を脱がした。防具はさほど付けていないから、そのままだ。剣を抱えてるのは仕方ないか。

「おやすみ、メルト」
 背を向け合うようにして寝た。
 いや、寝ようとしたが、隣に気になるフィメルがいて寝れるわけがないことを俺は初めて知った。

(やばい、ドキドキして眠れない)

 そうしてしばらく眠れずに悶々としていると、メルトの寝言が聞こえた。うなされているようだった。
「……いや……だ……」
 絞り出すような悲痛な声に俺は起き上がって、メルトを見た。

 脂汗を受かべ苦しそうな表情を見て、胸が痛む。悪夢を見ているだろうことはわかる。しかしこんな表情を浮かべるような悪夢を見るなんて、尋常じゃない。

「……や……ろ……さ……るな……ッ……あ……」

 俺は、そっと額に手をやり、精神安定の魔法をかける。汗を浄化魔法で取り去って、頭を撫でた。
「大丈夫。怖いことはもう起こらない。安心して」
 ゆっくりと語りかけた。うなされる表情が段々と穏やかになって、安らかな寝息になった。

 ほっとして、俺も寝る。起床アラームの魔法を明け方にセッティングした。
 メルトより早く起きた俺は素早く元の状態に戻すと、何食わぬ顔をして朝食の準備をした。

 森に動物が戻ってきて、鳥のさえずりが聞こえた。

 明るくなってくると、メルトが目を覚ました。
「おはよう。眠れた? 特に何もなかったよ?」
 目を擦るメルトに浄化の魔法をかけた。そっとスープとパンを差し出す。
「昨日の残りで悪いけど」
 何か言いたそうにしていたメルトは結局何も言わずに朝食を平らげた。
 俺とメルトは森をアルデリア方面(と信じて)へと向かうことにした。もともとメルトが向かうつもりだった村はデッザに向かう途中にあった。

「魔物との交戦は避ける方向で行くけどいいかな?」
「ああ、なるべくならそのほうがいいだろう。体力は温存しておきたい」
「りょーかい。じゃあ、この先は右側に進路をとろう」
 警戒しながら歩いているから、余り会話はしないがいやな沈黙ではない。

 マップを確認しながら歩くが、まだマップはグレー部分が多いままだ。歩くとそれがカラーになる。索敵魔法も同時に展開しているから、光点が現れるとそれが何かわかる。
 大抵の光点は魔物だが、俺の魔力に気付くと逃げてしまう。
 今回は交戦を避けるということで、隠ぺいはしない方向で魔力を垂れ流した。食料になる獣まで逃げてしまうのが一長一短なのだが、長丁場になる場合は疲れない方がいいと思って、威嚇している。

 そんな中、たまに近くに来た鳥を狩ったりした。メルトは獲物を見てびっくりしてたようだけど。
 血抜きは覚えたが、解体は苦手で、魚は三枚におろせるが鳥やイノシシは捌きたくない。
 料理に使う時は仕方なく捌くけど。慣れない手つきだけど料理スキルのせいか、ほどなく終わった。その解体した鳥を使って夕食にした。

「ヒューは凄い魔術師だな」
「はい? 僕、メルトに会ってからほとんど魔法使ってないと思うんだけど」
「こんなに美味しいモノを作るのは魔法に違いない」
「大げさだよ」
 作ったのは照り焼きだ。醤油の香ばしい香りと砂糖の照りが美味しそうだ。我ながら。
 メルトの口にあったようで、夢中になって食べてくれた。彼はパンに何でも挟んで食べるのが癖のようだったので、照り焼きサンドを作った。
 たっぷりのレタスと、マヨネーズもトッピングした。

「これも食べてみて。照り焼きサンドね」
「やっぱり魔法だ。どれもこれも、食べたことのない味だ。凄く美味い」
 メルトがキラキラした目で俺を見る。顔が赤くなった。
 俺は今凄く照れていると思う。
「あ、ありがと。嬉しいよ」
 そうして食べているとふと、メルトは俺が食べるのを見ているのに気が付いた。メルトの手元にはもう、サンドはなかった。
「ヒューは少食だな」
「え。普通だと思うよ?」
「もっと食べないと大きくなれないんじゃないか? ほら、食べた分、身になっているぞ?」
 メルトが腕の服をまくって、力こぶを見せた。

「凄い! なんて理想的な肉の付き具合!」
 つい叫んでしまった。
 マッチョすぎず、細いという感じでもない、綺麗なつき方。肩の三角筋との稜線は綺麗な曲線を描いてる。そこから大胸筋に移るのだが、胸板が厚い。しかし脂肪は乗っていないようで、いかにストイックに訓練したのかがわかる。実用的な筋肉って奴だ。
 思わず食い入るように見てしまった。若干、メルトが引き気味になった気がする。やばい、引かれた?
 俺の好みの筋肉の付き方。メルトの髪の色も目の色も、好きな色だ。理想過ぎて……。

『ヒュー、幸せだった。……ありがとう。ヒューはちゃんと、素晴らしいパートナーを見つけて、幸せになって老衰で亡くなって欲しい。あ、ヒューの子供もみたいかな。これは俺の遺言だよ。約束だ、ヒュー。指切り……』

 一瞬、祥也の最後の言葉が頭をよぎった。
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