短編集

アーエル

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タイトルなし

4-2


私がフミヒトに書かせた謝罪文と共にこの遺書も私の手元にあります。
マスコミからお金を積まれて公開してほしいと頼まれましたが断っています。
遺書を見せて回るなんて、精神を疑われるようなマネはしません。

警察からも「証拠として提出してほしい」と言われて拒否しました。
私信です。
断ることはできます。


「協力するのは市民の義務だ」

「私文書を脅し取らないと犯人を立件できないと仰いますか? 弁護士がICレコーダーを証拠として提出したのに? 警察に協力するのは義務? じゃあ、ネットで確認しましょう」


協力を強要したとして公式に謝罪してもらうことになりました。
ヘンですね、ポケットに入れていたスマホが音声を拾っていましたわ。
「証拠がない」と嘲笑ってたから、録画になっていた映像をSNSで公開。
音声だけがはっきり残っていました。
警察は始末書だけで済まそうとしたものの抗議が殺到していたことで、脅迫罪で書類送検。
民事で訴えて慰謝料も頂きました。
 
図々しい?
いえいえ、私の音声の投稿が拡散されて、それを拡散した人たちの投稿削除だけでなくアカウント停止までしたことで、さらに火がつきました。
SNSの運営側は謝罪してアカウント停止の解除をしたけど、「権力に屈した」と叩かれて慰謝料請求合戦が始まっています。



アサカさんの元夫は自殺に追い込んだとして捕まりました。
自殺教唆罪。
その前に侮辱罪など口論中にも数々の罪も重ねていたため、『未必の故意』が認められて殺人罪が適用されました。


「弁護士同席で気が大きくなった」


そう自供したそうです。
弁護士という圧倒的な(その場では)最高権力者を味方にしての圧力が認められて数年の実刑。


「そんな性格だから元嫁に逃げられたんだ」


そう叩かれているのを知っていたのだろう。
仮釈放後、彼は声をかけた友人全員から相手にされず。
親兄弟からも相手にされず。
それは仕方がないだろう。


『別れた妻が若い男と幸せになろうとしたことに嫉妬して自殺に追い込んだ』


それがとして拡散されていたのですから。
否定しようにも、本人は檻の中。
訂正したくても……本人が知ったのもまた檻の中だった。
騒げば騒ぐほど、世間は面白がっていた。





数日後、遺体が見つかりました。
私が住んでいた家が火事になり、男性の遺体が見つかったのです。
…………あの日、フミヒトとアサカさんの家に押し入ったアサカさんの元夫。
彼に同行していた弁護士が、私の退去後の家に住んでいました。

偶然だったようです。
たしかに私とその弁護士とは一度も会ったことはなかったので。
駅に近いこともあって通勤に便利だったけど、離婚して退職。
心機一転で引っ越したのです。
そこに、引っ越してきたのが弁護士だった、と言うわけです。

男は仮釈放後、私への復讐に家を放火した。
まさか、私は引っ越していて、新しい住人がいたなんて知らなかったそうだけど。
あの事件から何年経ったか、わかっていないのか。
それとも、だけが止まったままだったのか。

近所の防犯カメラで彷徨いている姿が見つかって事情聴取。
そこで私の家を燃やしたと嘲笑いながら自供。

しかし、私はすでに引っ越していたと知り慌てた。
あの家には間違いなく在宅していることを室内の明かりで確認していたのだから。
だから、寝静まった深夜に火を放った。

さらに、新しい居住者が自分の弁護士で、遺体で見つかったことを知る。


ネットでは、自分の不利になる自殺教唆の証拠(ICレコーダー)を警察に提出した報復で殺害した、とまことしやかに拡散されている。
私のことが表に出ないのは、私は円満離婚した後の事件だったから。


私がフミヒトの不倫を知ったあのとき。
後ろから声をかけてきたのはこの男だった。
不倫の証拠となる写真をプリントアウトして自分に寄越せ、金ならいくらでも払ってやる。
そう言っていたらしい。

私はショックで聞いていなかったけど。


「『その気になったら連絡してくれ』って、名刺を鞄に入れたじゃないか!」

「知りませんよ、そんなこと」


私は裏切りを知ったあの日、キスの写真と共に「相手を連れて帰って来い」とメールしたのだから。
そして、2人に直接スマホで撮影した写真と動画を突きつけて問い詰めた。
フミヒトは不倫をみとめた。

けっして私に飽きたわけでも、嫌いになったわけでもなかった。
ただ私という存在が『愛する人』から『家族』という括りにかわったことが原因だった。

アサカさんが、夫や家族から不妊を疑われていたことを知っていた。
そのため「まさか妊娠するとは思わなかった」らしい。

その点については、遠慮なくボコらせてもらった。
妊娠する、しないに関わらず、避妊は男の義務なのだから。


「離婚一択!!」


私のその宣言にフミヒトは回避しようと試みたものの、それはアサカさんに対して不誠実だとなじった。
この話し合いにはフミヒトの両親と姉、アサカさんの両親と兄夫妻が同席した。
その場で用意した離婚届にサイン。
サクッと慰謝料の支払いに関しての取り決め。
フミヒトは当面の荷物を持ってビジネスホテルへ。
(すでに不動産屋の営業時間が過ぎていたため)


三日後には両家から慰謝料が支払われたため、証拠写真を削除デリート
それをフミヒトとアサカさんの前で行ったのです。
もちろん、ゴミ箱に移っただけの写真が復活しないように完全に削除したのも、ちゃんと確認してもらいました。

その翌週になって、「証拠写真が欲しい」と言われたのです。
すでにこちらは解決済みのため削除しちゃいましたからねぇ。
離婚済みのため、フミヒトのこともアサカさんのこともですし。

私から手に入れる予定だった証拠写真がないため、アサカさんの不倫が実証できず。
……まさか、妊娠という重大な証拠があるなどと信じていた男たち(男とその両親)が思い至ることもなく。
逆に自分の行っていたDV(ドメスティック・バイオレンス)の証拠がスマホでいくつも録音されていたことでとして訴えられた。

そのため、自身の慰謝料と相殺で示談となった。
ただ、会社では『妻からDVで訴えられた』ことが問題視されて閑職に異動。
さらに自殺教唆で実刑を受けたことで解雇。

仮釈放で出てきても、住むところも仕事も失っていたのだ。
頼りだった家族は彼の身元引受人になることを拒否していた。
それも仕方がないだろう。
彼の起こした事件のせいで、家族はバラバラになったのだから。

風化し始めていた前の事件を蒸し返すように起こされた放火殺人事件。
仮釈放中だったこともあり、今度は出所も出来ないだろう。




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