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「違います、お父様! 私ではなくフェリアとエバンスの」
「お前は自分で『エバンスと婚前交渉をした』と話した。それは国王陛下の耳にまで届いていたんだ! フェリアではない、エバンスとセリーナの二人だ!!!」
そして書類ケースから取り出されたのは、魔導具で撮影されたと思しき二人が身体を重ねているように見える写真の数々だった。
セリーナも、そして実家で同じ写真をみているエバンスにもその写真の場面に心当たりがあった。
ペインティングを取ろうとして、逃げようとするエバンスの足の上にセリーナが座っている姿だ。
肩に手を置いたその姿は、誰がどう見ても『行為の最中』にしか見えない。
「わかるか! こんなものが昨日一昨日のお茶会やサロンで広められ、今朝もあちこちで出回っていたんだぞ!」
セリーナはやっとフェリアが『恥ずかしい』といって寮からでてこなかった理由がわかった。
噂を聞いたか写真をみたであろうフェリアは、自分が逃げ出した後にセリーナとエバンスが関係を持ったと信じたのだろう。
「違います、これは」
「お前がフェリアとエバンスをくっつけて甘い汁を吸おうとしていたことは気付いていた。しかし、それももう徒労に終わった」
「待ってください、お父様」
「いまさら意味がないんだよ」
父親の言葉にセリーナは声が出ない。
父がセリーナの魂胆を知っていたこと。
それなのに意味がないとまで言われた。
「王命だ。セリーナ、お前はエバンスと婚姻をさせることとなった」
「ま、って……ください。私は来年、ルドルフ様と」
「こんなことをしておいて」
「私はエバンスと疚しい関係ではありません!」
「そんなことは関係ない! お前たちが言い訳のできない写真を残された以上、たとえお前のいうことが事実だとしても信じてもらえるか!」
「い、や。いやよ……。ルドルフ様と一緒になるって、私たち、来年には一緒に」
セリーナは首を左右に振って拒否をするが……これは王命である。
自分の幸せを夢見て、妹に自分の欲望を押し付けた。
その結果がセリーナ自身に返ってきただけである。
「ルドルフ、いやソルバイト子爵家とは婚約の解消で締結した。慰謝料はコウロベッガー侯爵家が支払うセリーナの支度金をそのまま支払う」
「いやよ! 私はエバンスなんかと結婚なんかしない! 私はルドルフ様と」
「妹に望まぬ結婚を押し付けて、自分だけが幸せになれると思っているのか!」
「フェリアだって貴族よ! 家のために、私のために犠牲になるのは当然よ!!!」
「お前の主張が正しいというなら……セリーナ、お前も貴族の娘だ。サンドビエッター侯爵家当主リエンダが命ずる。我が家のためにコウロベッガー侯爵家の公娼になって奉仕しろ。セリーナ、今までご苦労だった。以降はサンドビエッター家とは縁が切れ、二度と結ばれることはない」
「いや、いやです!」
セリーナは泣き喚くが、その身はすでに指一本動かすことはできない。
先ほどの命令でサンドビエッター家と縁が切れてしまったのだ。
『言霊』とよばれる、古くからある神聖な魔法。
ここにいるのはセリーナ・サンドビエッターだったものだ。
これから先、コウロベッガー家から迎えがきて、馬車に乗せられて……寝室から二度と出られない。
立場によっては、使用人たちの快楽用に……
そこでセリーナは気付いたのだろう、先ほどの命令を。
エバンス個人の妾でも公娼でもない。
侯爵家の公娼ということは、家族だけでなく、使用人だけでなく、お客様の相手だけでなく……
『いかがわしい夜宴』にだされて……不特定多数の慰み者とされることを。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
「セリーナ、お前がフェリアにそうなることを望んだんだ。フェリアに望んだ未来をその身に受けよ。それが王命だ」
扉をノックされた。
それはセリーナの新たな旅立ちの時間が来たことを意味する。
そしてセリーナはコウロベッガー家へ連れていかれて、嫁という名の公娼になった。
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