4 / 6
4
しおりを挟む
∮
親戚関係で、ひとりっ子の私を猫可愛がり……いえ違いますね。
公爵家の方々は私を取り合っていました。
男勝りでドレスよりパンツスタイルだったアメリア様以外に娘はいないため、公爵家のメイドも含めた皆さんで私を着飾っていたのです。
もちろん、一度着たドレスや小物は私の帰宅と共に我が家に運ばれてきました。
そのため、私の衣装代は伯爵家から支払われたことはありません。
そのお礼も兼ねて、学園に通学するランドルフを我が家でお預かりしたのです。
アメリア様も、生まれたばかりの私にひとめぼれしてしまい、「私が騎士になって守るのぉぉぉ!!」と叫んだ八歳。
次期当主の勉強の傍ら、公爵家の騎士隊長に突撃して直接手習いを受けて騎士隊員と共に汗を流した九歳。
学園に入学した日に言いがかりをつけた第一王子を模擬剣で王子の矜持だけでなく傲慢な精神まで叩き壊した十歳。
学園中の令嬢たちから慕われ、学園中の子息たちから嫉妬されたものの、充実した学園生活。
公爵家の、それも次期当主相手に誰も手も足も口も出せないまま迎えた卒業の日。
第一王子も含めて、アメリア様に集団プロポーズして、たったひと言で玉砕したのは私の代でも有名な話です。
「明日、結婚いたしますの」の言葉を最後に学園を去ったのですから。
アメリア様の結婚相手は在学中に2年間の交換留学生として滞在していた帝国の同級生。
帝国でも「女の分際で」と言った男子学生たちを再起不能なまでに叩きのめしたそうです。
「鉄剣を手に集団で襲いかかって、全員がアメリアに利き腕の骨を砕かれたんだよ」
アメリア様の旦那様曰く、地面に伏した男子学生たちの中で息を乱すこともなく凛々しく立っていたアメリア様は不思議そうに小首を傾げて仰ったそうだ。
「帝国では徒党を組んで襲う行為が正しい騎士道精神であり、女である私に返り討ちになるほど弱くても騎士になれるのでしょうか?」と。
それも、アメリア様が手にしたのは日傘。
日傘には傷ひとつついていなかったそうです。
「あら、石突が傷つきましたのよ。お気に入りでしたのに」
件の男子学生たちは騎士科から追放されたそうです。
当然ですね、日傘を差した女生徒に20人ほどの騎士科の学生が鉄剣で襲ったのですから。
騎士道精神を持たない者に剣など持つ資格はありません。
彼らがアメリア様を襲ったのも、同じ交換留学生として加わった男子学生に試合で負けた際に「自分より強い同級生がいる」と聞いたから。
「時間と場所を指定して下さったらお相手させていただいたのですが」
アメリア様の仰る『お相手』とは、騎士道に沿った型通りということです。
帝国では「公爵家の次期当主のため、ただ守られるだけでなく自身でも身を守れるように育てられたのだろう」と称賛されたようです。
∮
主役は朝から自分磨きに忙しい。
もちろん磨くのはメイドたちであり、私は大人しく磨かれる大理石だ。
磨かれ終わると今度は着せ替え人形。
メイドたちの腕の見せ所である。
こうしてできた私は、誕生日パーティーの主役としての下準備が整った。
「来てるよ、招かれざる連中が」
「ご縁のなかった方々に祝っていただきたくありませんわ」
伯爵子息は婚約を断ったことを言い出せなかったのでしょうか、それともご両親が信じなかったのでしょうか。
ですが、確認の問い合わせもひと言の謝罪でもあるかと思っておりましたが、本日までございませんでした。
ですから、こちらは『礼を欠く行為』を理由に最低限のおつきあいに縮小いたします。
あちらの関係者は全員『参加お断り』となっているのですが、アドモス伯爵がああですので、婚約者候補から降りたことをご存じなかったのでしょう。
下手に騒いで、正規の参加者に顔と名前を知られてブラックリストに加えられるより、黙って引き下がられたようです。
お祝いの品だけ置いて帰られた方もいらっしゃられるそうです。
そちらの方には直接お礼を言えませんから、のちほどお礼状をお送りしましょう。
「せっかく公爵家とのご縁を足がかりに顔と子どもたちを売りだすチャンスでしたものね」
パーティーに参加される高位貴族に名と顔を売り、あわよくば子息令嬢の婚約者に我が子を据えることが出来れば、という甘い考えだったのでしょう。
「父と兄がひと睨みさせたら黙って帰って行ったよ」
公爵家の現当主と次期当主補佐に睨まれては明日から生きていけませんからね。
「あら、私に教えて下されば良かったのに」
ボディーガードとして私の側に付き添っていてくれたアメリア様が大変残念そうな声をあげられました。
私の婚約者に指名してもらおうと、パーティー会場の控室にやってくる子息がいます。
中には断られたら既成事実をつくろうと目論む不埒な考えの子息も。
ですが、私に付き添っている次期公爵様を前にして、「誕生日のお祝いを申し上げます」とだけ告げて去っていきました。
彼らの家名は記録されており、後ほど公爵家から抗議文が届くでしょう。
次男の婚約者ですから、私。
公式発表はこれからですけどね。
「お手を、私のお姫様」
差し出された手に微笑んで重ねた。
外では何やら騒いでいる声が途切れ途切れに届く。
婚約をしないと選択したことで受けるマイナス要素をようやく知ったようですね。
ですが、あなたが選んだことですよ。
「発表後が楽しみだね」
「公爵家の後ろ盾を甘く見てオイタするヤツは…………イタイ目にあっちゃうゾ❤️」
ああ…………アメリア様の目が輝いています。
「公爵家からの盛大な婚約祝いよ。ありがたく受け取ってね❤️」
その請求書を突きつけられるであろうアドモス伯爵家の皆様。
それもこれも、あなた方のご子息がお決めになられたことですわ。
ギリギリ没落を免れることを祈っておりますわ。
親戚関係で、ひとりっ子の私を猫可愛がり……いえ違いますね。
公爵家の方々は私を取り合っていました。
男勝りでドレスよりパンツスタイルだったアメリア様以外に娘はいないため、公爵家のメイドも含めた皆さんで私を着飾っていたのです。
もちろん、一度着たドレスや小物は私の帰宅と共に我が家に運ばれてきました。
そのため、私の衣装代は伯爵家から支払われたことはありません。
そのお礼も兼ねて、学園に通学するランドルフを我が家でお預かりしたのです。
アメリア様も、生まれたばかりの私にひとめぼれしてしまい、「私が騎士になって守るのぉぉぉ!!」と叫んだ八歳。
次期当主の勉強の傍ら、公爵家の騎士隊長に突撃して直接手習いを受けて騎士隊員と共に汗を流した九歳。
学園に入学した日に言いがかりをつけた第一王子を模擬剣で王子の矜持だけでなく傲慢な精神まで叩き壊した十歳。
学園中の令嬢たちから慕われ、学園中の子息たちから嫉妬されたものの、充実した学園生活。
公爵家の、それも次期当主相手に誰も手も足も口も出せないまま迎えた卒業の日。
第一王子も含めて、アメリア様に集団プロポーズして、たったひと言で玉砕したのは私の代でも有名な話です。
「明日、結婚いたしますの」の言葉を最後に学園を去ったのですから。
アメリア様の結婚相手は在学中に2年間の交換留学生として滞在していた帝国の同級生。
帝国でも「女の分際で」と言った男子学生たちを再起不能なまでに叩きのめしたそうです。
「鉄剣を手に集団で襲いかかって、全員がアメリアに利き腕の骨を砕かれたんだよ」
アメリア様の旦那様曰く、地面に伏した男子学生たちの中で息を乱すこともなく凛々しく立っていたアメリア様は不思議そうに小首を傾げて仰ったそうだ。
「帝国では徒党を組んで襲う行為が正しい騎士道精神であり、女である私に返り討ちになるほど弱くても騎士になれるのでしょうか?」と。
それも、アメリア様が手にしたのは日傘。
日傘には傷ひとつついていなかったそうです。
「あら、石突が傷つきましたのよ。お気に入りでしたのに」
件の男子学生たちは騎士科から追放されたそうです。
当然ですね、日傘を差した女生徒に20人ほどの騎士科の学生が鉄剣で襲ったのですから。
騎士道精神を持たない者に剣など持つ資格はありません。
彼らがアメリア様を襲ったのも、同じ交換留学生として加わった男子学生に試合で負けた際に「自分より強い同級生がいる」と聞いたから。
「時間と場所を指定して下さったらお相手させていただいたのですが」
アメリア様の仰る『お相手』とは、騎士道に沿った型通りということです。
帝国では「公爵家の次期当主のため、ただ守られるだけでなく自身でも身を守れるように育てられたのだろう」と称賛されたようです。
∮
主役は朝から自分磨きに忙しい。
もちろん磨くのはメイドたちであり、私は大人しく磨かれる大理石だ。
磨かれ終わると今度は着せ替え人形。
メイドたちの腕の見せ所である。
こうしてできた私は、誕生日パーティーの主役としての下準備が整った。
「来てるよ、招かれざる連中が」
「ご縁のなかった方々に祝っていただきたくありませんわ」
伯爵子息は婚約を断ったことを言い出せなかったのでしょうか、それともご両親が信じなかったのでしょうか。
ですが、確認の問い合わせもひと言の謝罪でもあるかと思っておりましたが、本日までございませんでした。
ですから、こちらは『礼を欠く行為』を理由に最低限のおつきあいに縮小いたします。
あちらの関係者は全員『参加お断り』となっているのですが、アドモス伯爵がああですので、婚約者候補から降りたことをご存じなかったのでしょう。
下手に騒いで、正規の参加者に顔と名前を知られてブラックリストに加えられるより、黙って引き下がられたようです。
お祝いの品だけ置いて帰られた方もいらっしゃられるそうです。
そちらの方には直接お礼を言えませんから、のちほどお礼状をお送りしましょう。
「せっかく公爵家とのご縁を足がかりに顔と子どもたちを売りだすチャンスでしたものね」
パーティーに参加される高位貴族に名と顔を売り、あわよくば子息令嬢の婚約者に我が子を据えることが出来れば、という甘い考えだったのでしょう。
「父と兄がひと睨みさせたら黙って帰って行ったよ」
公爵家の現当主と次期当主補佐に睨まれては明日から生きていけませんからね。
「あら、私に教えて下されば良かったのに」
ボディーガードとして私の側に付き添っていてくれたアメリア様が大変残念そうな声をあげられました。
私の婚約者に指名してもらおうと、パーティー会場の控室にやってくる子息がいます。
中には断られたら既成事実をつくろうと目論む不埒な考えの子息も。
ですが、私に付き添っている次期公爵様を前にして、「誕生日のお祝いを申し上げます」とだけ告げて去っていきました。
彼らの家名は記録されており、後ほど公爵家から抗議文が届くでしょう。
次男の婚約者ですから、私。
公式発表はこれからですけどね。
「お手を、私のお姫様」
差し出された手に微笑んで重ねた。
外では何やら騒いでいる声が途切れ途切れに届く。
婚約をしないと選択したことで受けるマイナス要素をようやく知ったようですね。
ですが、あなたが選んだことですよ。
「発表後が楽しみだね」
「公爵家の後ろ盾を甘く見てオイタするヤツは…………イタイ目にあっちゃうゾ❤️」
ああ…………アメリア様の目が輝いています。
「公爵家からの盛大な婚約祝いよ。ありがたく受け取ってね❤️」
その請求書を突きつけられるであろうアドモス伯爵家の皆様。
それもこれも、あなた方のご子息がお決めになられたことですわ。
ギリギリ没落を免れることを祈っておりますわ。
162
あなたにおすすめの小説
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
冤罪で処刑された悪女ですが、死に戻ったらループ前の記憶を持つ王太子殿下が必死に機嫌を取ってきます。もう遅いですが?
六角
恋愛
公爵令嬢ヴィオレッタは、聖女を害したという無実の罪を着せられ、婚約者である王太子アレクサンダーによって断罪された。 「お前のような性悪女、愛したことなど一度もない!」 彼が吐き捨てた言葉と共に、ギロチンが落下し――ヴィオレッタの人生は終わったはずだった。
しかし、目を覚ますとそこは断罪される一年前。 処刑の記憶と痛みを持ったまま、時間が巻き戻っていたのだ。 (またあの苦しみを味わうの? 冗談じゃないわ。今度はさっさと婚約破棄して、王都から逃げ出そう)
そう決意して登城したヴィオレッタだったが、事態は思わぬ方向へ。 なんと、再会したアレクサンダーがいきなり涙を流して抱きついてきたのだ。 「すまなかった! 俺が間違っていた、やり直させてくれ!」
どうやら彼も「ヴィオレッタを処刑した後、冤罪だったと知って絶望し、時間を巻き戻した記憶」を持っているらしい。 心を入れ替え、情熱的に愛を囁く王太子。しかし、ヴィオレッタの心は氷点下だった。 (何を必死になっているのかしら? 私の首を落としたその手で、よく触れられるわね)
そんなある日、ヴィオレッタは王宮の隅で、周囲から「死神」と忌み嫌われる葬儀卿・シルヴィオ公爵と出会う。 王太子の眩しすぎる愛に疲弊していたヴィオレッタに、シルヴィオは静かに告げた。 「美しい。君の瞳は、まるで極上の遺体のようだ」
これは、かつての愛を取り戻そうと暴走する「太陽」のような王太子と、 傷ついた心を「静寂」で包み込む「夜」のような葬儀卿との間で揺れる……ことは全くなく、 全力で死神公爵との「平穏な余生(スローデス)」を目指す元悪女の、温度差MAXのラブストーリー。
元婚約者が愛おしい
碧井 汐桜香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。
王家の賠償金請求
章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。
解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。
そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。
しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。
身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。
『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる