番号のない戦闘人形少女は、人類救済の鍵となるか

一式鍵

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暴走する人形たち

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 世界は、この惑星――地球テラ――は、もう瀕死だった。気の遠くなるほど遠い過去に分かたれた、地球人テラリア月下人ルナリア、そして僕たち地球人同士が、いつ終わるとも知れない戦いを続けていたからだ。

 僕は自律型戦闘人形オートボーグドールと呼ばれる兵器の開発者の一人だった。戦争は彼らによる代理戦争の様相を呈していた。

 だが、僕たちの戦争はある日突然終わる。人間たちの共同体コミュニティ、その多くが一夜にして崩壊したのだ。

 僕の住んでいた都市も例外じゃなかった。僕たちが完全に支配下に置いていたはずの自律型戦闘人形オートボーグドールたちが、を攻撃したのだ。僕たちは戦争のそのほとんどを彼ら自律型戦闘人形オートボーグドールに頼り切っていたから、自ら戦う術を知らなかった。その居住地が最前線になってでもいない限り、は銃を撃ったこともないだろう――そんなていたらくだった。

 そして悪いことに、僕は自律型戦闘人形オートボーグドールの開発者であり、僕の住んでいた都市は自律型戦闘人形オートボーグドールの量産拠点の一つだった。

 結論から言うと、僕のホームタウンも、襲撃からわずか数時間にして廃墟と化してしまった。

 僕は飛行機の中でそのニュースを聞いた。信じられない思いだった。飛行機は着陸予定だった空港を避け、首都近郊の巨大な空港に降りた。空から見ると、空港内の戦闘の痕跡がはっきりわかった。だが、この空港は――珍しいことに――が勝利したらしい。空港ターミナルといくつかの滑走路を犠牲にして。

 僕は地上に降り首都の研究所に到着するなり、首都の開発者チームのメンバーとの会合ミーティングを開いた。状況は最悪だった。自律型戦闘人形オートボーグドールたちの支配地域が秒単位で広がっている。地球テラ全土に配置されていた自律型戦闘人形オートボーグドールが一斉に暴走したのだから当然だ。人類は例外なく危機的状況に陥っている。

 研究所の地下会議室――冷たい壁、冷たい床、冷たい天井、そして冷酷な情報を映し出す投影式スクリーン。

 チームのメンバーは一様に青白い顔をしていた。きっと、僕も。僕は彼らに意見を求められたが、首を振るばかりだ。被害がこうも広範囲に渡ってしまっていては、対策のしようがない。自律型戦闘人形オートボーグドールは人類の生み出した究極の汎用兵器だ。重武装のが十人いても、自律型戦闘人形オートボーグドール一体にすらかなわないだろう。

「主任、その」

 一人が僕を呼ぶ。というのは僕の肩書だ。

WLTワルトシリーズはどうでしょう」
「あれはまだ実戦投入できる段階にない」
「しかし、自律型戦闘人形オートボーグドール、とりわけSYNシンシリーズに対抗できるのはWLTワルトシリーズ以外にはいないのではないかと……」
「でも理論値カタログスペックだよ」

 僕は首を振る。たしかにWLTワルトシリーズなら、現行最新にして最強であるSYNシンシリーズと互角以上に戦える可能性はある。でも、まだ彼女らは実戦試験をしたことすらない。

「主任、しかしどのみちこのままでは」

 焦る気持ちはわかる。それにこのままでは確かに滅亡を待つだけとなる。WLTワルトシリーズでダメならば、人類は――少なくともここにいる僕たちは――終わりだ。

「わかった。WLTワルトシリーズ、001ダブルオーワンから012オートゥエルヴまで起動させよう」
「いきなり全機ですか」
「逐次投入ほど無駄なことはないよ」

 僕はそう言ってから、彼女らの眠る部屋に移動した。

――――

 12人のWLTワルトたちは首都に侵入したSYNシンシリーズ全34機を葬り去った。首都にも大きな被害は出たが、WLTワルトたちがいなかったら完全に廃墟になっていただろう。

 僕たちはWLTワルトたちをたたえた。

 しかし、状況の好転はそこまでだった。

 再び多くのSYNシリーズを含む自律型戦闘人形オートボーグドールたちが首都に襲来した。当然のようにWLTワルトたちは飛び出して行って彼らを撃破し始めたのだが、僕たち開発者はすぐに異変に気付いた。

 WLTワルトたちがを攻撃している……?

 というより、彼女らは、自律型戦闘人形オートボーグドールも無差別にしていた。その結果、首都の九割が灰になるまでに数時間とかからなかった。WLTワルトたちは僕たちの命令を完全に無視していた。最優先で実行されるはずの停止信号も受け付けない。

 僕は単身研究所の最下層に移動し、限られた者にしか開けられない扉を開く。

 青白い室内の中央には巨大な箱のような物が置かれている。僕以外の研究者は「棺桶」と呼んだりするけど、その度に僕はイライラしたものだった。

 箱の上半分はクリスタルガラスで覆われていて、その中には金属の装甲を纏った一人の女性が眠っていた。

 WLTワルト-00xノーナンバー――。彼女はは13番目のWLTワルトだ。の扱いで予算を通している。しかしその実態は、暴走してしまった12人のWLTワルトの雛形でもあり、つまりは0番目プロトタイプなのだ。そしてたった一機のWLTワルト-0ゼロシリーズである――その事実は僕を始め限られた者しか知らない。

 数分前に、政府がこのWLTの00xノーナンバーの破壊命令を出した。彼女を確実に破壊できるのは、今生き残っている開発メンバーの中では僕しかいない。しかし彼女は僕が生み出した最高の自律型戦闘人形オートボーグドールだ。彼女はまだ目を覚ましたことはないけど、雛形たる彼女がいなければWLTワルトシリーズを作ることはできなかった。そしてその12人の妹たちが見せた比類なき戦闘能力を見ても、この00xノーナンバーの威力は明らかだった。

 だけど、彼女も暴走するのでは――その危惧は確かにあった。

 そもそもなぜ、突然自律型戦闘人形オートボーグドールたちが暴走したのかがわからない。月下人ルナリアの新技術かもしれない。だとしたら、00x彼女を起動するのは危険だと言えた。

 だけど僕には彼女を破壊するなんてことはできない。政府からその命令が出た時にはすでに、僕は決意していた。彼女をと。もしその結果、彼女も暴走するというのならそれまでだ。うまく行けば御の字だ。僕らは、そんな分の悪い賭けに全額ベットしなければならない。今やそれほどまでに危機的な状況にあるのだ。

 ――というのは建前だ。

 僕は彼女の目を見たかった。その声を直接その口から聞きたかった。艷やかな黒髪に包まれた顔に、ほんの僅かでも感情を見せてほしかった。

「ワルト、起きて」

 僕はいくつかの物理スイッチをONにし、手順に沿ってコマンドを入力していった。

 どうやっても彼女は今までは物理的には起動しなかった。そのまぶたを開けたことはなかった。

 僕が操作していた端末が突然。同時に、ワルトの眠る箱が輝き始める。クリスタルガラスの天井が小さな擦過音と共に開いた。

 僕は慌ててその箱に駆け寄った。箱の中から声が響く。

『稼働限界は、1億6000万秒』
「……約五年?」
肯定イエス

 ワルトは目を開けていた。その顔は十代の女性をモデルにして構築されていた。黒褐色の瞳は仄かに青く輝き、艶のある薄い桃色の唇はわずかに開いている。他のWLTワルトシリーズと全く同じモデルであるにも関わらず、この00xノーナンバーからはもっとこう、生々しさのようなものさえ感じられた。金属の装甲さえなければ、誰が見てもと見間違えるだろう。それほどまでに彼女の瞳には力があった。

「ワルト」
『イエス、私はWLTワルト-00xノーナンバー
「いや、君の名前がワルトなんだ」
『私はと呼称されるという認識で良いですか、先生ドクター

 同僚の研究者たちは僕のことをチャットの中でだけ先生ドクターと呼ぶ。彼女は何故かそれを知っていたということか。いや、今はそれはいい。

 この部屋の入口に多数のの兵士が集まってきたからだ。隊長らしき男が怒鳴った。

WLTワルトシリーズは、全機破壊命令が出ていたはずだぞ!」
「彼女がいなければこの都市は灰になるぞ、完全に!」

 僕は兵士に怒鳴り返す。しかし兵士たちは命令を遂行することしか考えていないようだった。

「部屋ごと爆破してや――」

 兵士はそれ以上何も言えなかった。他にも五名の兵士がいたが、全員が激しい銃撃を受けて肉塊と化した。SYNシンシリーズの内臓火器の発射音だということはすぐにわかった。もうここまで侵入を許していたということか。

 僕はそんな悲惨な光景と危機的状況を前にしても、不思議なほどに冷静だった。

「ワルト、頼めるかい?」
『了解しました。破壊対象を確認しました』

 ワルトは右手に格闘用杭打ち機パイルバンカーを出現させる。左手にはナノマシンで構築された拳銃が現れる。

先生ドクターは防衛行動に注力してください』

 そう言われて、僕はおとなしく部屋の壁際まで後退する。自律型戦闘人形オートボーグドール同士の戦闘に手を出すなんて、そもそも自殺行為だ。

 WLTワルト-00xノーナンバー、いや、ワルトは一瞬だけ僕を振り返る。その時、入り口にSYNシンシリーズが顔を覗かせた。表情のない、血まみれの奈落のような顔だった。

 ワルトは左手の拳銃をくるりと回して、高らかに宣言した。

戦闘行動を開始しますスタート・コンバット・アクション

 による反撃の狼煙のろしが上がった。
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