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第一章
霧
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霧は、執拗に追いかけてくる。
夜遊びは見つからない様に。
それが一族の教えだ。
もちろん彼は気を付けていたつもりだ。
けれど、初めて出来た彼女とのデートで浮かれていたのかも知れない。
敵に見つかってしまった。
運悪く、敵と遭遇した時には、まず睨む。
これで、敵が怯む事がある。
怯んだ隙に、逃げる。
スピードが命だ。
もちろん敵だって、簡単には逃げさせてくれない。
勢いよく迫ってくる霧から、逃げる。
霧は猛毒だ。
逃げきれない……。
彼は、最後の力を振り絞って、羽ばたいた。
一瞬、彼女の姿がみえたような気がした。
「あ~怖かった」
女が安堵の声を上げる。
「ゴキブリって、飛ぶから気持ち悪いよな」
男はそう言って、何枚にも重ねたティッシュを強く握った。
同じ部屋の片隅で、彼女は力を振り絞っていた。
彼が、彼女とは別の方向に飛んだのは、彼女を守るためだ。
霧を自分だけに向けるため。
自分を守るために、人間に向かっていった雄姿を思いながら、彼女は一人で卵を産んだ。
ゴキブリの中には、交尾をしなくても、メス一人で産卵できる種類がいる事を、あの人間の夫婦は知らない様だ。
夜遊びは見つからない様に。
それが一族の教えだ。
もちろん彼は気を付けていたつもりだ。
けれど、初めて出来た彼女とのデートで浮かれていたのかも知れない。
敵に見つかってしまった。
運悪く、敵と遭遇した時には、まず睨む。
これで、敵が怯む事がある。
怯んだ隙に、逃げる。
スピードが命だ。
もちろん敵だって、簡単には逃げさせてくれない。
勢いよく迫ってくる霧から、逃げる。
霧は猛毒だ。
逃げきれない……。
彼は、最後の力を振り絞って、羽ばたいた。
一瞬、彼女の姿がみえたような気がした。
「あ~怖かった」
女が安堵の声を上げる。
「ゴキブリって、飛ぶから気持ち悪いよな」
男はそう言って、何枚にも重ねたティッシュを強く握った。
同じ部屋の片隅で、彼女は力を振り絞っていた。
彼が、彼女とは別の方向に飛んだのは、彼女を守るためだ。
霧を自分だけに向けるため。
自分を守るために、人間に向かっていった雄姿を思いながら、彼女は一人で卵を産んだ。
ゴキブリの中には、交尾をしなくても、メス一人で産卵できる種類がいる事を、あの人間の夫婦は知らない様だ。
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