神さまは生贄がお嫌いなようで

都茉莉

文字の大きさ
5 / 5
番外:ゆずりは抄

身代わりのゆずりは

しおりを挟む
 雨の降らない日が何日も続いている。
 段々と森の恵みが減っていく。
 井戸が枯れ、水もほとんど湧かなくなった。

 ーー村民の普通は壊れていった。

 ゆずりはの家系は村の名士だ。代々村を守り導き、ーーいざというときには土地神に生贄を捧げてきた。
 その役目は土地神ホズミの好む清らかな乙女が担うことになっている。そうやって、何代も前にも危機を乗り越えたと伝えられている。

 そして昨日、ゆずりはの姉が生贄として旅立った。

 村を守る立派なお役目。神の御許へと向かう名誉。教えられてきた通り。
 けれど、姉の、さくやのいない家はどこか物足りない気がした。
 寂しいと思うのはいけないことだ。さくやは村のためにおつとめしているのだから。
 賢くて綺麗な姉はきっとホズミ様に気に入られている。それで、村にいるよりも精のつくものを食べさせてもらっているのだ。

 そう、信じていたのに、信じていたから姉を見送れたのに、ホズミ様から届いた一通の文が願いを否定する。

 見たこともない上等な紙に黒々とした墨でしたためられ、静謐な香がほのかにかおる。
 品のいい見てくれに反して書いてあったことは衝撃だった。

 土地神ホズミは健在であること。日々の信仰に感謝していること。生贄の少女は受け取れないこと。送られてきた少女に非はないこと。近々送り返す予定であること。云々。

 ゆずりはは愕然とした。姉の何が不満だというのか。
 さくや以上に生贄を担える人は村にはいない。少なくともゆずりはに心当たりはない。

 もちろん、この文に仰天したのはゆずりはだけではない。一族の大人たちも上から下への大騒ぎだ。
 特に爺さん婆さんなどは生贄を捧げれば全てがうまくいくと信じて疑わなかったものだから、受取拒否だなんてどうすればいいかわからず三途の川に沈みそうな勢いだ。
 ああでもないこうでもないと檄を飛ばす大人たちに、ゆずりはは言い放った。

「僕が代わりに生贄となりましょう」

 しんと静まり返った皆の視線がゆずりはに集まる。
 彼は、さくやのように美しく笑んでみせた。

「ホズミ様は少女の贄に飽きたご様子です。次点で候補となるのは子どもでしょう? ならば、僕がいっとうふさわしい。そうは思いませんか」

 兄弟の中で一番さくやに似ているのはゆずりはだ。一番懐いていたのもゆずりはだ。
 大事な姉が不当に扱われている。神といえどあまりに横暴ではないか。
 ゆずりはは衝撃が一周回って怒っていた。
 なんとしても直接文句を言ってやりたかった。

「いやしかし、望むものを示されていないんだ。また追い返されなどすれば村に未来はないぞ」
「であれば、ほかに案をお出しいただきたいものです」

 否定する大人を一刀両断。
 姉の笑顔で武装したゆずりははいつも以上にキレキレだった。

「何も差し出さずとも未来がないのには変わらないでしょう?」

 そう丸め込んで、ゆずりはは、姉を否定した人でなしに会う権利、基生贄になる権利をもぎ取ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...