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第一章 夜の淵を走る
第12話 アデルの戦い
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「列車を止めろ?」
ナセルは、ルウエン少年の顔を見つめた。
「はい。」
「理由を聞こうか。」
ルウエンは空を指さした。
稲妻は、急速に遠ざかりつつある。
「あそこで、アデルと閣下が戦っています。」
「わかっている。献身的な行為だ。」
ナセルは、答えた。
「もう少し距離をかせぎたい。トンネルの中にはいれば・・・・」
「ぼくが戦いが見えません。」
「しかし・・・・」
ナセルにしても、死霊化した竜というものに興味がないわけではない。
ルウエンが指摘したように、今後もおなじろうな脅威にさらされる可能性がある鉄道側としては、その情報は特別に価値のあるものになるだろう。
瞬きをいくつか。
大きく一呼吸。
それで、ナセルの考えは決まった。
「列車はトンネル内で一時停止しておく。」
「……」
「おまえは、魔法で飛べるか?」
「あまり、得意では。そもそも人間の身体の構造はそのように作られてないわけで。」
「奇遇だな。俺も同意見だ。」
ナセルは、腰のベルトにつけた小袋から、革の手袋を取り出して、装着した。
「やつのブレスからは、俺の魔法障壁で守ってやる。ここから、飛ぶぞ。いいな。」
「それがいいようですね。」
ルウエンは認めた。彼も列車やその乗客を危険にさらすのは、よしとしなかったのである。
「ただ、あの白骨竜が、使ってるのは、ブレスじゃありませんよ。もともとブレスというのは、竜が自分の牙を魔法陣にみたてて、そこで魔力を集束させたものをいうので、知性をうしなってるあいつが使ってるのは、ただの放射魔法であって」
「うるさい! 飛ぶぞ。」
■■■■■
尾を駆け上がり、アデルは、死竜の首の付け根にたどり着いた。
くるり、と竜が背面飛行にうつる。
アデルは、露出した腐肉溶けかけた皮に覆われた骨に、しがみつことしたがそれは、ぬるりと滑って、アデルは空中に投げ出された。
慌てず、アデルは空気のクッションを作り出す。
そのを足場に、竜の白骨化した向かって、跳躍した。
いつもは焦げ茶の瞳が、金褐色に輝き、笑った顔から牙のように犬歯がのぞいた。
その手の中の斧剣の刀身が、伸びた。
彼女自身の身長より長く。
ジャンプした勢いのままに、それを頭蓋骨の中心に突き立てた!
死竜は、吠えた。
肺も声帯もうしなった死竜の怨嗟の咆哮は、大気を震わせはしなかったが、思念波となって響き、下方を飛行中のルーデウスを、おおいにびびらせた。
腐肉となった死骸にかろうじて、しがみついていた竜の残留思念は、果たして「痛み」を感じたのだろうか。
痛み、とは違うかもしれない。
ただ、死竜はアデルの攻撃によって、自分の存在を損傷させられることはわかったのだ。
だから吠えた。
だから、アデルは委細構わず、剣を更に深くねじ込むと。
そのまま、走り出したのだ。
今度は頭から。
首を通って。
さらに胴体に至るまで。
剣身が伸びた分、傷はさらに深く、腐った汚液が、滝のように滴り落ち、切断された骨の破片が地上に落下する。
「うおおおおおっ!!」
剣が伸び、深く差し込まれた分、当然、抵抗も強くなる。
それを支えるアデルの肩と腕の筋肉は、隆起し、まるで、ターミナル駅の前に、よく置かれている戦女神の彫像のように見えた。
「どうりゃあっあっあっ」
遂に尻尾の付け根まで。
アデルは、死竜の巨体を切り裂いた。
なにがなんでもアデルを振り落とそうとするかのように、急上昇にうつる竜から、ふわっとアルデの体がはなれた。
アデル自身は、もういちと、今度は尾の付け根から頭までおなじことを繰り返すつもりで、一旦、深くくい込んだ剣を刺し直そうと、両手で剣を抜いたタイミングだった。
アデルの体は、錐揉みするようにして空中ち、投げ出された。
その脇をすり抜けるように、死竜の巨体が、駆け抜けていく。
「乱電竜破砕剣!」
そう、叫ぶのが、風の魔法にのって接近中のルウエンにもきこえた。
たしかに、すれ違いざまに。
アデルの剛剣は、骨組みだけになった翼を見事に打ち砕いていた。
「あれはなんて、剣法の技だ?」
こちらは、手袋に描かれた魔法陣の力で、ルウエンを抱いて、に飛行中のナセルが尋ねた。その飛翔魔法は、あるいは、伯爵であるルーデウスにも優雅だったかもしれない。
「知りませんよ。
その場で適当に技の名前を考えるのは、アデルの、悪い癖です。あれは師匠譲りですね。」
くるくると回りながら落下するアデルを、ルーデウスが受け止めた。
「助かった。友だち2号。」
アデルは素直に感謝した。
「体が回ってしまってると、足場の圧縮空気をどこにつくればいいのかわからなくなるんだ。」
「無茶をするな!」
ルーデウスは、アデルを叱った。この捨て身を平気でやる少女を、本気で心配していたことに、ルーデウス自身が驚いている。
「今で言う『師団』って、なにを基準に作られてるか知ってる?」
アデルが質問を投げかけた。
『師団』というのが、そもそも最近の考え方で、古いタイプの冒険者だったルーデウスには馴染みがない。
だまって首を振ると。
「竜一頭に匹敵する人員と、設備だってさ。もう竜なんていないのにね。
おかしな話だよ。」
「閣下ーーーーっ!!」
ナセルに抱き抱えられて、飛んでくる少年の声に、ルーデウスは、唇を綻ばせた。
わずか、数時間の付き合いなのに、こんなにもこの少年を好きになっている。
「ルウエン!」
片方の手はアデルを支えながら、満面の笑みを浮かべて、ルウエン迎え入れる。
ごちん。
な、殴られたああぁっ。
「閣下。なにやってんです。まだ終わってません!」
「いやでも、ほら。」
ふたれたぶたれたぶたれた。
人間に、従属種に、わたしが血を吸ったわたしの配下に!
ヨタヨタと。
体をかなり、損傷し、翼を片方失った竜はヨタヨタと逃げていく。
「トドメを。」
「鬼かおまえは。」
「あれは、生きてます。」
ルウエンは、黄色の汚液と骨を撒き散らしながら飛ぼうとしている死竜を、じっと見つめた。
「ばかな。あれは竜の亡霊だと。そう言ったのはお前だぞ?」
追いついてきたナセルが、ルウエンに抗議した。
「詳しく話してる時間が無いので話しませんが。」
ルウエンは、ルーデウスに顔を近づけた。
「閣下。あの竜の首を召喚した放射魔法で、あいつの首から左半身を根こそぎ、吹き飛ばすように攻撃してください。あそこまで、ダメージが通ってるんだから直撃できます。」
「なにがどうなって!」
「あとの残骸からぼくが、まだ生きてる組織を見繕って、体を再構築します。そこに魂を入れてやれば。馴染むのにすこしかかりますが、ちゃんと生き返れます。」
「ち、ち、血」
こんのところで言うべきては、ないのは分かっていたが、とにかく、追い詰められた人間が酒に溺れるように、ルーデウスは、追い詰められると血が飲みたくなるのだった。
「だめですよ。」
あっさりとルウエンは言った。
「血を飲めば飲むほど、従属関係が強くなってしまうんです。閣下も日常生活に支障をきたすほど、ぼくに、依存したくないでしょう?」
ナセルは、ルウエン少年の顔を見つめた。
「はい。」
「理由を聞こうか。」
ルウエンは空を指さした。
稲妻は、急速に遠ざかりつつある。
「あそこで、アデルと閣下が戦っています。」
「わかっている。献身的な行為だ。」
ナセルは、答えた。
「もう少し距離をかせぎたい。トンネルの中にはいれば・・・・」
「ぼくが戦いが見えません。」
「しかし・・・・」
ナセルにしても、死霊化した竜というものに興味がないわけではない。
ルウエンが指摘したように、今後もおなじろうな脅威にさらされる可能性がある鉄道側としては、その情報は特別に価値のあるものになるだろう。
瞬きをいくつか。
大きく一呼吸。
それで、ナセルの考えは決まった。
「列車はトンネル内で一時停止しておく。」
「……」
「おまえは、魔法で飛べるか?」
「あまり、得意では。そもそも人間の身体の構造はそのように作られてないわけで。」
「奇遇だな。俺も同意見だ。」
ナセルは、腰のベルトにつけた小袋から、革の手袋を取り出して、装着した。
「やつのブレスからは、俺の魔法障壁で守ってやる。ここから、飛ぶぞ。いいな。」
「それがいいようですね。」
ルウエンは認めた。彼も列車やその乗客を危険にさらすのは、よしとしなかったのである。
「ただ、あの白骨竜が、使ってるのは、ブレスじゃありませんよ。もともとブレスというのは、竜が自分の牙を魔法陣にみたてて、そこで魔力を集束させたものをいうので、知性をうしなってるあいつが使ってるのは、ただの放射魔法であって」
「うるさい! 飛ぶぞ。」
■■■■■
尾を駆け上がり、アデルは、死竜の首の付け根にたどり着いた。
くるり、と竜が背面飛行にうつる。
アデルは、露出した腐肉溶けかけた皮に覆われた骨に、しがみつことしたがそれは、ぬるりと滑って、アデルは空中に投げ出された。
慌てず、アデルは空気のクッションを作り出す。
そのを足場に、竜の白骨化した向かって、跳躍した。
いつもは焦げ茶の瞳が、金褐色に輝き、笑った顔から牙のように犬歯がのぞいた。
その手の中の斧剣の刀身が、伸びた。
彼女自身の身長より長く。
ジャンプした勢いのままに、それを頭蓋骨の中心に突き立てた!
死竜は、吠えた。
肺も声帯もうしなった死竜の怨嗟の咆哮は、大気を震わせはしなかったが、思念波となって響き、下方を飛行中のルーデウスを、おおいにびびらせた。
腐肉となった死骸にかろうじて、しがみついていた竜の残留思念は、果たして「痛み」を感じたのだろうか。
痛み、とは違うかもしれない。
ただ、死竜はアデルの攻撃によって、自分の存在を損傷させられることはわかったのだ。
だから吠えた。
だから、アデルは委細構わず、剣を更に深くねじ込むと。
そのまま、走り出したのだ。
今度は頭から。
首を通って。
さらに胴体に至るまで。
剣身が伸びた分、傷はさらに深く、腐った汚液が、滝のように滴り落ち、切断された骨の破片が地上に落下する。
「うおおおおおっ!!」
剣が伸び、深く差し込まれた分、当然、抵抗も強くなる。
それを支えるアデルの肩と腕の筋肉は、隆起し、まるで、ターミナル駅の前に、よく置かれている戦女神の彫像のように見えた。
「どうりゃあっあっあっ」
遂に尻尾の付け根まで。
アデルは、死竜の巨体を切り裂いた。
なにがなんでもアデルを振り落とそうとするかのように、急上昇にうつる竜から、ふわっとアルデの体がはなれた。
アデル自身は、もういちと、今度は尾の付け根から頭までおなじことを繰り返すつもりで、一旦、深くくい込んだ剣を刺し直そうと、両手で剣を抜いたタイミングだった。
アデルの体は、錐揉みするようにして空中ち、投げ出された。
その脇をすり抜けるように、死竜の巨体が、駆け抜けていく。
「乱電竜破砕剣!」
そう、叫ぶのが、風の魔法にのって接近中のルウエンにもきこえた。
たしかに、すれ違いざまに。
アデルの剛剣は、骨組みだけになった翼を見事に打ち砕いていた。
「あれはなんて、剣法の技だ?」
こちらは、手袋に描かれた魔法陣の力で、ルウエンを抱いて、に飛行中のナセルが尋ねた。その飛翔魔法は、あるいは、伯爵であるルーデウスにも優雅だったかもしれない。
「知りませんよ。
その場で適当に技の名前を考えるのは、アデルの、悪い癖です。あれは師匠譲りですね。」
くるくると回りながら落下するアデルを、ルーデウスが受け止めた。
「助かった。友だち2号。」
アデルは素直に感謝した。
「体が回ってしまってると、足場の圧縮空気をどこにつくればいいのかわからなくなるんだ。」
「無茶をするな!」
ルーデウスは、アデルを叱った。この捨て身を平気でやる少女を、本気で心配していたことに、ルーデウス自身が驚いている。
「今で言う『師団』って、なにを基準に作られてるか知ってる?」
アデルが質問を投げかけた。
『師団』というのが、そもそも最近の考え方で、古いタイプの冒険者だったルーデウスには馴染みがない。
だまって首を振ると。
「竜一頭に匹敵する人員と、設備だってさ。もう竜なんていないのにね。
おかしな話だよ。」
「閣下ーーーーっ!!」
ナセルに抱き抱えられて、飛んでくる少年の声に、ルーデウスは、唇を綻ばせた。
わずか、数時間の付き合いなのに、こんなにもこの少年を好きになっている。
「ルウエン!」
片方の手はアデルを支えながら、満面の笑みを浮かべて、ルウエン迎え入れる。
ごちん。
な、殴られたああぁっ。
「閣下。なにやってんです。まだ終わってません!」
「いやでも、ほら。」
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ヨタヨタと。
体をかなり、損傷し、翼を片方失った竜はヨタヨタと逃げていく。
「トドメを。」
「鬼かおまえは。」
「あれは、生きてます。」
ルウエンは、黄色の汚液と骨を撒き散らしながら飛ぼうとしている死竜を、じっと見つめた。
「ばかな。あれは竜の亡霊だと。そう言ったのはお前だぞ?」
追いついてきたナセルが、ルウエンに抗議した。
「詳しく話してる時間が無いので話しませんが。」
ルウエンは、ルーデウスに顔を近づけた。
「閣下。あの竜の首を召喚した放射魔法で、あいつの首から左半身を根こそぎ、吹き飛ばすように攻撃してください。あそこまで、ダメージが通ってるんだから直撃できます。」
「なにがどうなって!」
「あとの残骸からぼくが、まだ生きてる組織を見繕って、体を再構築します。そこに魂を入れてやれば。馴染むのにすこしかかりますが、ちゃんと生き返れます。」
「ち、ち、血」
こんのところで言うべきては、ないのは分かっていたが、とにかく、追い詰められた人間が酒に溺れるように、ルーデウスは、追い詰められると血が飲みたくなるのだった。
「だめですよ。」
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