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21,その日にはおきなかったこと
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授業はバラバラ。
食事も朝以外は、それぞれの取り巻きと食べるのが習慣づいてきた。
集まれるのは、そうすると、就寝前のこのひととき。
場所は、いちばん立派な部屋をもらっているロウ=リンドのところが多い。
一応、女子寮ではあるのだが、どうも「吸血鬼」用らしく、ほとんどの部屋は空いていて、男子のリウもルトも気兼ねなく出入りしていた。
(いや、少し気兼ねしながらも!だ。)
くつろぎたいときは寝室。話がしたいときは、居間。
時間が長くなると、ロウはお茶をいれてくれる。
で、自分が眠くなるとお開きだ。
ロウ=リンド。夜はぐっすり眠りたいタイプの吸血鬼なのである。
「どうもアモンが一緒だと、考えがまとまらなくなる。」
と、ルトがほやいた。
「ずいぶんと勝手な言い草だな。」
と、アモンが笑う。
怒りの沸点がどこにあるのかわからない、鷹揚たる態度だ。
「だって、その鱗の一枚で国が買える『神竜の鱗』。
それをめぐって、いくつからの勢力が争っている。
そこまではわかった。」
恨めしげな顔で、少年はアモンを見つめる。
「ところが、目の前に、その集合体がのんきに安ものの茶葉でいれたお茶をすすってる。
つまりは、そんなものに群がるやつらが、どうしょうもないアホに思えくる。」
「バカを言うな。
別にわたしは鱗だけの存在じゃないぞ。
ほれ、『神竜の瞳』」
目を見開いて、まなこを指さした。
「『神竜の牙』」口をあんぐりあげる。人間に寄せている歯はべつに尖っているわけではない。
「『神竜の爪』」メイリュウに無理やりすすめられたという、マニキュアを施された爪は、つやつやと輝いていた。
「『神竜の笑み』」にっこりと笑って手をふった。
「・・・あ、なんか悲しい話をきかせてくれないか?」
「なぜに!?」
「『神竜の涙』を見せてやろうかと思って。」
「な、なんだか、鱗一枚をめぐって争ってるやつらがどうしょうもなく思えてくるだろ?」
「あ、ロウ。トイレ借りてもいいか?」
「はいよ。ご自由に・・・・って、まさかいまの流れだと!」
「『神竜の』」
「やめろおおおおおおっ!」
かなりの広さのあるロウの居間を、クッションがとびかい、お茶をのんでいるものは、こぼさぬようにカップを持ち上げ、ギムリウスはとっとと、隣の部屋に避難した。
「で、どう鎮める、ルト。
どこまで、読めている?」
コレだからやなんだと、ぶつくさ言いながらルトは、ソファにすわりなおした。
貴族趣味が多いと言われる吸血鬼に合わせた豪奢なものだったが、だいぶ年代物でところどころ色あせている。
「争っているものは。」
ルトは指を折った。
「まずは、深淵竜ゾール。」
もう一本指を折る。
「ロゼル一族。」
そして。
「なるほど、そこにも気づいていたか。」
リウは満足そうに笑った。
優秀な臣下を褒める王の笑いだ。
「まあ、ここまで読んでいたから、エミリアをぼくと一緒にルールス先生のところにいかせたんでしょ?」
「どちらにしてもルールスにはエミリアを『見せ』たかったのでな。
いい機会だった。」
「わからないのは意図なんだ。」
ルトは、難しい顔をしている。
「ロゼル一族はまだ、わかる。
『神竜の鱗』5枚を集め、神竜を呼び出し」
アモンがにっこりする。
「なにかの願いを叶えたい。それはおそらくは、昔彼らの仲間だった吸血鬼に関係する。」
ロウがきょとんとしている。
「そう、我らが吸血姫ロウ=リンドさまのことだ。当時はまだ分かれてなかったから、だたのリンド、だな。」
「え? だってわたしはあそこにいたのはほんの十年くらいだったよ? なにをいまさら?」
「当時は組織の名前が『紅玉の瞳』だったそうだ。その名は、いまもロゼルの族長に受け継がれている。
当時の首領は吸血鬼だったか?」
「あったことないよ。
でも、そういう噂、だった。」
懐かしそうに、ロウは語る。夜霧の港町。
「深淵竜とやらはなにが目的なんだろう?」
「ルトは古竜をまじめにとらえすぎている。」
アモンが言った。
「とんでもなくくだらないことだと考えた方がいい。
竜は、人間の文化に毒されすぎて、きわめて人間的なことをやってのけるんだ。」
「でも、竜の都から『神竜の鱗』を持ち出してるんだよ?
ほんとににくだらないことだったら、そんな危険なことはしでかさないんじゃないかな?」
「ルト」
アモンはため息をついた。
「おまえの父親が、ザザリの影響下にあったとはいえ、実の息子を殺すためになにをしたか忘れたわけではあるまい。
愚かなものほど、愚かな理由で、愚かなことをする。
それに・・・だ。
変態蜥蜴のことを忘れてないか?
あいつに全部の責任を負わせて、始末する、くらいのことはわたしでも考えつくぞ?」
「決めた!」
ルトは立ち上がった。
「いつものやり方でいこうと思います。
リウ、アモン、ロウ、ギムリウス。力を貸してください。」
食事も朝以外は、それぞれの取り巻きと食べるのが習慣づいてきた。
集まれるのは、そうすると、就寝前のこのひととき。
場所は、いちばん立派な部屋をもらっているロウ=リンドのところが多い。
一応、女子寮ではあるのだが、どうも「吸血鬼」用らしく、ほとんどの部屋は空いていて、男子のリウもルトも気兼ねなく出入りしていた。
(いや、少し気兼ねしながらも!だ。)
くつろぎたいときは寝室。話がしたいときは、居間。
時間が長くなると、ロウはお茶をいれてくれる。
で、自分が眠くなるとお開きだ。
ロウ=リンド。夜はぐっすり眠りたいタイプの吸血鬼なのである。
「どうもアモンが一緒だと、考えがまとまらなくなる。」
と、ルトがほやいた。
「ずいぶんと勝手な言い草だな。」
と、アモンが笑う。
怒りの沸点がどこにあるのかわからない、鷹揚たる態度だ。
「だって、その鱗の一枚で国が買える『神竜の鱗』。
それをめぐって、いくつからの勢力が争っている。
そこまではわかった。」
恨めしげな顔で、少年はアモンを見つめる。
「ところが、目の前に、その集合体がのんきに安ものの茶葉でいれたお茶をすすってる。
つまりは、そんなものに群がるやつらが、どうしょうもないアホに思えくる。」
「バカを言うな。
別にわたしは鱗だけの存在じゃないぞ。
ほれ、『神竜の瞳』」
目を見開いて、まなこを指さした。
「『神竜の牙』」口をあんぐりあげる。人間に寄せている歯はべつに尖っているわけではない。
「『神竜の爪』」メイリュウに無理やりすすめられたという、マニキュアを施された爪は、つやつやと輝いていた。
「『神竜の笑み』」にっこりと笑って手をふった。
「・・・あ、なんか悲しい話をきかせてくれないか?」
「なぜに!?」
「『神竜の涙』を見せてやろうかと思って。」
「な、なんだか、鱗一枚をめぐって争ってるやつらがどうしょうもなく思えてくるだろ?」
「あ、ロウ。トイレ借りてもいいか?」
「はいよ。ご自由に・・・・って、まさかいまの流れだと!」
「『神竜の』」
「やめろおおおおおおっ!」
かなりの広さのあるロウの居間を、クッションがとびかい、お茶をのんでいるものは、こぼさぬようにカップを持ち上げ、ギムリウスはとっとと、隣の部屋に避難した。
「で、どう鎮める、ルト。
どこまで、読めている?」
コレだからやなんだと、ぶつくさ言いながらルトは、ソファにすわりなおした。
貴族趣味が多いと言われる吸血鬼に合わせた豪奢なものだったが、だいぶ年代物でところどころ色あせている。
「争っているものは。」
ルトは指を折った。
「まずは、深淵竜ゾール。」
もう一本指を折る。
「ロゼル一族。」
そして。
「なるほど、そこにも気づいていたか。」
リウは満足そうに笑った。
優秀な臣下を褒める王の笑いだ。
「まあ、ここまで読んでいたから、エミリアをぼくと一緒にルールス先生のところにいかせたんでしょ?」
「どちらにしてもルールスにはエミリアを『見せ』たかったのでな。
いい機会だった。」
「わからないのは意図なんだ。」
ルトは、難しい顔をしている。
「ロゼル一族はまだ、わかる。
『神竜の鱗』5枚を集め、神竜を呼び出し」
アモンがにっこりする。
「なにかの願いを叶えたい。それはおそらくは、昔彼らの仲間だった吸血鬼に関係する。」
ロウがきょとんとしている。
「そう、我らが吸血姫ロウ=リンドさまのことだ。当時はまだ分かれてなかったから、だたのリンド、だな。」
「え? だってわたしはあそこにいたのはほんの十年くらいだったよ? なにをいまさら?」
「当時は組織の名前が『紅玉の瞳』だったそうだ。その名は、いまもロゼルの族長に受け継がれている。
当時の首領は吸血鬼だったか?」
「あったことないよ。
でも、そういう噂、だった。」
懐かしそうに、ロウは語る。夜霧の港町。
「深淵竜とやらはなにが目的なんだろう?」
「ルトは古竜をまじめにとらえすぎている。」
アモンが言った。
「とんでもなくくだらないことだと考えた方がいい。
竜は、人間の文化に毒されすぎて、きわめて人間的なことをやってのけるんだ。」
「でも、竜の都から『神竜の鱗』を持ち出してるんだよ?
ほんとににくだらないことだったら、そんな危険なことはしでかさないんじゃないかな?」
「ルト」
アモンはため息をついた。
「おまえの父親が、ザザリの影響下にあったとはいえ、実の息子を殺すためになにをしたか忘れたわけではあるまい。
愚かなものほど、愚かな理由で、愚かなことをする。
それに・・・だ。
変態蜥蜴のことを忘れてないか?
あいつに全部の責任を負わせて、始末する、くらいのことはわたしでも考えつくぞ?」
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リウ、アモン、ロウ、ギムリウス。力を貸してください。」
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