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第100話 ガザリームたつ

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ラザリム・ケルト冒険者事務所。
とびきりの一等地に、事務所をかまえるここは、名だたる冒険者をそろえ、また、カザリーム行政府との太いパイプをもち、共同経営者のラザリムとケルト自身も凄腕として知られている。カザリーム行政府に影響をもつ、冒険者事務所八極連に、9つ目を加えようかという話は、冗談ではなく現実のものとして持ち上がっている。

「リウ。踊る道化師の実力は、この半年で十分に理解したつもりです。」
一般の顧客ははいれない特別フロアに、腰をおろしたラザリムは、難しい顔でいった。
正面のソファには、我らが魔王どの、リウとその恋人ベータ・グランデが仲良く、すわっている。
内輪の会議に使われる円卓には、リウの知らぬ顔もまじっていた。

厳しい顔に、髭をたくわえた武人は、革の鎧に腰に戦斧を下げていた。
リウを見る目は、怖いが、どことなくクローディア大公を思わせたので、リウはかえって好感をもてた。

「しかしながら、『魔王』を名乗るドゥルノ・アゴン。我々が集めた情報ではなみの相手ではない。」
「そうだな。」
リウは、それはわかってる、と言わんばかりに軽く流した。
「だが、そもそもやつの目標は、オレだ。オレが『リウ』を名乗っているのが気に入らんらしい。魔王はこの世に自分一人でいいということか。」

「確かに、ドゥルノ・アゴンが、カザリームを訪れた目的のひとつは、あなたを屠ることかもしれません。」
ラザリムは、言った。苦い顔をしている。
「しかし・・・」

「現実に、ドゥルノ・アゴンの配下、ザクレイ・トッドの無差別テロにより、多数の死傷者が出ている。」
アシット・クロムウェルも、難しい顔だ。現市長の兄であり、カザリームでも屈指の魔導師だ。
「高層構造体三棟の半壊。死傷者三百人に及ぶ。カザリームとしては、彼らを『市民の敵』として認定した。今後は全力をもって彼らを排除する。当然のことながらその首に対しては、憲章がかかる。」

「それは、困る。」
リウは、涼しい顔で言った。多数の死傷者。そこに、どんな人生があって、帰りを待つ家族がいた、などとは彼は考えない。考えはしても仕方のないことだと思っている。
ここらは、犠牲者をなくすためにとんでもないことを平然とやってのけるルトなどとは、根本的に違う。ある意味それが「王」という器なのかもしれなかった。
ただ、余分な犠牲者はださないように、彼なりに努力はしていた。
それが、マーベルとディクック、ベータに対して、市中でドゥルノ・アゴンたちに挑まれたら、戦わずに逃げるように、命じた理由。エミリアたちに逃げずに戦うように命じた理由はそれだった。
「懸賞なんてかけたら、冒険者どもが、やつらの首をねらいだすだろう?」

「これ以上、被害を拡大させるわけにはいかん。」
髭の戦士が、腕組みをして、リウを睨めつけた。
「そのために、このカザリームの冒険者がたちあがるのだ。どこか問題があるのか?」

「冒険者が返り討ちにあう可能性がある。あるいは街なかで戦闘がはじまってしまえば、それだけで一般市民にも被害がおよびぶだろう。
この前の雷撃は、街のかなり上空で使われたものだ。アレを地上で作動させられたらどうなる?」

「だから、こちらからやつらのアジトを見つけて、急襲をかける。」
戦士は言った。
「場所とタイミングはこちらがコントロールするのだ。多くの情報がいる。懸賞をかければ、情報屋どもも奮起するだろう。」

リウは、かすかな笑みをもって、それにこたえた。それは見方によっては冷笑にみえた。
「リウ。紹介しておくよ。」
険悪なムードになりそうだったのを見て、アシックが割って入った。
「こちらは、カザリームの冒険者事務所の連合会『八極連』マハル事務所所属の黄金級冒険者ゴルダッグ殿だ。」

「噂の『踊る道化師』か。亜人に竜人、吸血鬼が所属しているとかいう。」
斧の戦士、ゴルダッグは、はっきりと敵意をこめて、リウを睨んだ。
「いろもの、だな。」

「いまは、神獣も、古竜も、真祖もランゴバルドにおいてきてる。」
残念だね。と、リウは言った。彼にすれば事実を淡々と述べただけだったが、そうすればするほど、ひとはそれを信じようとはせず、真実から遠ざかるものだ、ということを彼は学んでいた。
「もっとも、『魔女』に『怪盗』は連れてきている。『双剣』と『神竜の弟子』もな。おまけに、ここで、いいメンバーをスカウトできた。『上古の魔女』マーベルと『神獣の創造物』ディクックだ。」

「話を盛りすぎだな。どこの地獄の釜の蓋が開いたのだ。」
ゴルダッグはせせら笑った。
「こちらも情報はもっている。迷宮で育った女を拾った話は、きいている。空間魔術を収めた魔導師だそうだな。もうひとりは、以前『繭』と『巣』の開発にたずさわっていた者だ。亜人だとわかって、不当に追放されたと聞いていた。おまえが、拾ってやったのならば、それはありがたいことだ。」

「わたしも忘れ貰っては困る。」
ベータが口をはさんだ。ホンモノのフィオリナと同じく!カノジョも話の腰を折る絶妙なタイミングで話しかけてくる名人だった。


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