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序の激 影王異物
第8話 決闘の夜2
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影王遺物が、「意思のある器物」だった場合はまずは、その所有者が定められる。
あまたの魔人を統べた影王が残した遺品だからといって、それが邪悪であるとは限らない。だが、無機物たちは往々にして、常識にかけており、便宜上の主が定まらなければ何をしでかすか分からなかったのだ。
そして、「意思のある器物」によって、拒否されれば、ただではすまない。
水琴は、無惨な死骸となった本部のエリートを無表情に見つめた。
彼女の死闘と、勝利はこの男によって、全て無駄になった。だが、意思のある遺物ならば、これは起こりうることだった。
ざまあみろ。とは思わない。彼は、確かに自惚れてはいたのだろう。自惚れのあまりに、意思のある器物への接触への慎重さを欠いたのだ。
それだけのことではあるが。
それで、事態は著しくまずいことになった。
所有者が定まらなければ再度、日を改めてデュエルは行われる。
だが、学院のなかで最強をもって、自他共に認める水琴という手札を、切ってしまった以上、デュエルの勝率は著しくさがる。
相手には、だれが出てくるのか。
正直に言って、「教団」のほうが、選手層は厚い。戦闘向けの人材がそろっているのだ。
もはや確実な勝利は望めない。
思い余った水琴はデュエルの日、玄朱を裏門まえの庭に呼び出したのだ。
裏門とは言うものの、何年もそこは使うものはいない。
校舎からも寮からも、小高い丘ひとつ離れたそこに、訪れるものなどいない場所だった。
ひょっとすると、影王の時代からあるのだろうか。足元の危なくなる階段や、雑草の中にかろうじて見え隠れする小路の先の先であった。
むせる様な夏草の香り中で、彼女は、そこで全身全霊をもって、玄朱に説いた。
影王の剣を、教団に渡してしまうことの危険を。
もはや、これはゲームではすまない。
それはそのまま、影王の復活に。人類の存亡に関わる事態となる。
剣を、槐に渡してほしい、無理ならせめて、水琴が連戦できるように、特別ルールを適用して欲しい。
玄朱は、困ったがそれだけだ。
答えはかわらない。
槐、いや人間にとって、唯一の提案に対する答えは、NOだった。
水琴は、ありったけの条件を出した。
彼女の生家である紗耶屋伯爵家の玄朱の家への、全面的な協力、たとえば、それは紗耶屋伯爵家の一人娘を、そちらの嫁に出すということも含めての。
協力どころではない。
屈服に等しい。
たなみに、紗耶屋伯爵家の嫡子は、水琴ひとりで、玄朱には兄弟はいない。
光華諸学院の初等部で、知り合ってからの仲だ。互いに憎からず思っているはずもない。
周りに人気もない。
玄朱のどんな欲求にも、応えるつもりだった。
いつもと変わらぬ。何かを辛抱するかのような笑みを浮かべて、玄朱は言った。
審判するもののルールは変わらない。
だから。
だから、水琴は、玄朱を倒そうとした。暴力をもって、無理やりルールに干渉しようとしたのだ。
そこに、あの少年。転校生の槙島流斗がやって来たのだ。
何年も使われていないはずの、裏門から。
水琴の実力行使は、うやむやになり、絶望の中で、その晩デュエルは行われて。
影王教団が勝利し。
剣は、教団のものになった。
絶望に塗り固められた、水琴たちは、構わずに剣の出現と同時に、教団に仕掛けることを、決意した。
それは察知した教団も、戦闘態勢を整えた。
八百年なかった槐と教団の全面対決か、いままさに開始されようとしていた。
そのとき。
ただし、剣は現れるときに、教徒の胃の腑という場所を選んだのだ。
口から顔を切り裂いて脳天まで突き抜けた剣に、彼は絶命し。
再び、剣は継承者不明のまま、消失した。
それが11日前のことだった。
---------------
そのまま、日が流れ、デュエルの予告があったのは四日前のことだった。
この期間に、水琴はできる限りの手をうった。槐の本部から、玄朱の父親である侯爵家に圧力もかけてもらった。だが、すべてムダだった。
逆にこれ以上の審判への干渉は「反則行為」となる旨、通告されて、水琴は、やむなく次のカードを切った。
転校からまだ1ヶ月なれど、その魔具の壮絶なまでの破壊力と業前から、時期生徒総代と目される凪桜花を投入することを決意したのである。
逸材なのは、間違いない。ただその異能に目覚めたのは、あまりにも遅かった。
たった三ヶ月前だ。
これから、いくらでも伸び代がある桜花をここで失ってしまったら。
だが、影王の剣が教団に渡って了えば、人の世が終わるかもしれない。
水琴は、考えられる限りで、最強の手札を切った。
あまたの魔人を統べた影王が残した遺品だからといって、それが邪悪であるとは限らない。だが、無機物たちは往々にして、常識にかけており、便宜上の主が定まらなければ何をしでかすか分からなかったのだ。
そして、「意思のある器物」によって、拒否されれば、ただではすまない。
水琴は、無惨な死骸となった本部のエリートを無表情に見つめた。
彼女の死闘と、勝利はこの男によって、全て無駄になった。だが、意思のある遺物ならば、これは起こりうることだった。
ざまあみろ。とは思わない。彼は、確かに自惚れてはいたのだろう。自惚れのあまりに、意思のある器物への接触への慎重さを欠いたのだ。
それだけのことではあるが。
それで、事態は著しくまずいことになった。
所有者が定まらなければ再度、日を改めてデュエルは行われる。
だが、学院のなかで最強をもって、自他共に認める水琴という手札を、切ってしまった以上、デュエルの勝率は著しくさがる。
相手には、だれが出てくるのか。
正直に言って、「教団」のほうが、選手層は厚い。戦闘向けの人材がそろっているのだ。
もはや確実な勝利は望めない。
思い余った水琴はデュエルの日、玄朱を裏門まえの庭に呼び出したのだ。
裏門とは言うものの、何年もそこは使うものはいない。
校舎からも寮からも、小高い丘ひとつ離れたそこに、訪れるものなどいない場所だった。
ひょっとすると、影王の時代からあるのだろうか。足元の危なくなる階段や、雑草の中にかろうじて見え隠れする小路の先の先であった。
むせる様な夏草の香り中で、彼女は、そこで全身全霊をもって、玄朱に説いた。
影王の剣を、教団に渡してしまうことの危険を。
もはや、これはゲームではすまない。
それはそのまま、影王の復活に。人類の存亡に関わる事態となる。
剣を、槐に渡してほしい、無理ならせめて、水琴が連戦できるように、特別ルールを適用して欲しい。
玄朱は、困ったがそれだけだ。
答えはかわらない。
槐、いや人間にとって、唯一の提案に対する答えは、NOだった。
水琴は、ありったけの条件を出した。
彼女の生家である紗耶屋伯爵家の玄朱の家への、全面的な協力、たとえば、それは紗耶屋伯爵家の一人娘を、そちらの嫁に出すということも含めての。
協力どころではない。
屈服に等しい。
たなみに、紗耶屋伯爵家の嫡子は、水琴ひとりで、玄朱には兄弟はいない。
光華諸学院の初等部で、知り合ってからの仲だ。互いに憎からず思っているはずもない。
周りに人気もない。
玄朱のどんな欲求にも、応えるつもりだった。
いつもと変わらぬ。何かを辛抱するかのような笑みを浮かべて、玄朱は言った。
審判するもののルールは変わらない。
だから。
だから、水琴は、玄朱を倒そうとした。暴力をもって、無理やりルールに干渉しようとしたのだ。
そこに、あの少年。転校生の槙島流斗がやって来たのだ。
何年も使われていないはずの、裏門から。
水琴の実力行使は、うやむやになり、絶望の中で、その晩デュエルは行われて。
影王教団が勝利し。
剣は、教団のものになった。
絶望に塗り固められた、水琴たちは、構わずに剣の出現と同時に、教団に仕掛けることを、決意した。
それは察知した教団も、戦闘態勢を整えた。
八百年なかった槐と教団の全面対決か、いままさに開始されようとしていた。
そのとき。
ただし、剣は現れるときに、教徒の胃の腑という場所を選んだのだ。
口から顔を切り裂いて脳天まで突き抜けた剣に、彼は絶命し。
再び、剣は継承者不明のまま、消失した。
それが11日前のことだった。
---------------
そのまま、日が流れ、デュエルの予告があったのは四日前のことだった。
この期間に、水琴はできる限りの手をうった。槐の本部から、玄朱の父親である侯爵家に圧力もかけてもらった。だが、すべてムダだった。
逆にこれ以上の審判への干渉は「反則行為」となる旨、通告されて、水琴は、やむなく次のカードを切った。
転校からまだ1ヶ月なれど、その魔具の壮絶なまでの破壊力と業前から、時期生徒総代と目される凪桜花を投入することを決意したのである。
逸材なのは、間違いない。ただその異能に目覚めたのは、あまりにも遅かった。
たった三ヶ月前だ。
これから、いくらでも伸び代がある桜花をここで失ってしまったら。
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水琴は、考えられる限りで、最強の手札を切った。
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