小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

文字の大きさ
5 / 59
第一章 小悪党は意外としぶとい!

第5話 我が名は翡翠

しおりを挟む
いい歳の若いものが、昼間っから、麦酒を飲んだくれている。
はたからみたら、あまり格好のいいものではない。

どうもここは、学校らしかった。
ぼくが着せられたのとおなじデザインの魔道士のマントを着た若者が、何人か出入りするが、いずれも冷たい視線を向けられる。

ジウルは、「統合帝が」とか「後継者が」とか「三十年法が」とか、なんども説明を試みてくれたが、ぼくが、まったくわかってないのを知って、天井を仰いだ。

「どこから、どこまで、説明すればいい?」
「最初から説明して、終わったらやめろ。」
「……十代の若造にそんな口を叩かれて、手がでないとは、俺もずいぶんと人間ができたもんだよな……」

ジウルは、わし、いやぼくの名を呼ぼうとひて、口ごもった。

「そうだ。名前はなんにする?」
「名前?」
「おまえの名前だよ。せっかく生まれ変わったんだ。新しい人生を行きたいだろう?
正直、おまえの名前は、知られすぎているんだよ。別の名前を名乗った方がいい。」

確かに。
悪事ばかり、手を染めた人生をやり直す機会を与えられたのだ。
正直、望んだ転生では無いが、オマケに拾った生ならば、以前とは違う道を歩きたいものだ。

ぼくは、少し考えた。

「じゃあ、翡翠。」
「宝石の?」
「そうだ。ぼくのことはヒスイと呼んでくれ。謎めいていていいだろう。」

ジウルは、難しい顔をしたがとくに反対もしなかった。

「じゃあ、説明するぞ。」
彼は、ぼくと彼との間に、ついたてのように黒い石版を登場させた。何気に地味だが大した魔法だ。
目の前の男は、いまでこそ、不世出の拳士として知られてはいるが、その昔は、当代随一の魔導師として、知られた男でもある。
黒い石版に、見えない手が文字を刻んでいく。

「統合帝国」
と書いてあった。

「これはわかるな?」
「いや、その」
「そうか。ではまず、こっちの質問が先か。
惚け始めたのはいつ頃からだ?」

ぼくは、ムッとした。

「くたばるその瞬間まで、呆けてはおらん!!」
それから、自分のここ十年ばかりを振り返って、付け足した。少し声は小さくなった。
「なにもかもどうでもいいと思うようになってからは、十年、かな。」

「なにもかも、どうでもいい?」

「まあ、そうだな。
何を食いたいとか、今日がいつかとか、だんだんに関心が薄れてくる。なんとなく、ぼおとしているうちに一日がすぎ、ひと月が過ぎ、1年が終わる。」

「惚けているのと何が違う?」

「不安がない。苦痛もない。なにかしたい事があるのに、果たせずに苦痛の中で人生を終わるものが大半だろう。
わし…ぼくは楽な死に方をした。」

ジウルは、たくましい腕を組んだ。

「しかし、それは体と魂の老いがみせた幻だ。実際には、いまおまえは欲しいものがあるだろう?」

もちろん!

ぼくとジウルは、声をそろえて、叫んだ。

「お代わりっ!!」

ジウルは、悪い教師ではなかった。
そりゃあ、そうだろう。かの名門魔法学校(たぶんここ!)の校長を一世紀も勤めた賢人なのだ。

「統一帝国は、いまからざっと三十年まえにできた西域、中原にまたがる大国だ。
なぜ、『統一』と呼ぶかは、帝国が、当時世界を分断していた2つの勢力を統合したことにある。
どことどこだか、わかるひと。」

「はい。」
ぼくは手を挙げた。生徒はぼくしかいない。

「はい、ヒスイくん。」
「魔王バズス=リウの“黒の御方”と、フィオリナの“災厄の女神”です。」
「その通り。もともとは、愛し合った二人は、仲違いをし、その結果、二十年にわたる戦乱の時代が過ぎた。この時代を」
「“黒き災厄”時代です。」
「よろしい。それを終了させたのが、統一帝国となる。争いの中心だった魔王と戦女神は、姿を消した。
どうなったかは、諸説ある。
もっとも有力なものは、ともに魔王宮に籠った、というものだ。
さて、真実はどうなのだろうか。」

ジウルは試すように、ぼくを見た。
すまない、ジウル。
ぼくは彼らのその後について、まったくなにも知らないんだ。

ジウルは、がっかりしたように、ため息をつついた。

「おまえは本当に呆けていたのだな、ヒスイ。
では、統一帝国が覇権を確立した現代社会についても一から説明せねばならないのか?」
「そこまでではない。」
ぼくは、毅然と言い返した…つもりだったが、声は小さかった。
「とりあえず、戦乱のない時代がやってきた。
魔道列車は、北方から中原まで、西域の隅々伸びて、人的、文化的な交流は、かつてないほど盛んになった。」

「まあまあ、初頭の教科書程度程度だが、まあいいだろう。」
ジウル先生は怖い顔で言った。
「次に『三十年法』について話してみろ。」

「平和が確立されると、古竜や上位吸血鬼といった無限寿命者たちも、いままで以上に積極的に、人間社会と関わるようになった。」
ぼくは、すらすらと答えた。
「だが、個体としてあまりにも能力の格差のある彼らを人間社会に受け入れるのには、問題があった。
彼らは、必然的に、指導者の地位につき、そして老いて朽ち果てることのない彼らは、ずっとずっと、その地位に留まり続けるだろう。
人間の文化の発展のために、それは望ましくないと判断された。そこで、初代皇帝のもと発表されたのが、三十年法だ。
いかなる地位についているものも、そのものが同じ地位を占めることができるのは、上限を三十年とする。
これは、王家や諸侯貴族はもちろん、商会や工房といった小さな集団にも適用される。
王位についたものは、三十年以上その地位に留まることは許されない。
貴族もだ。
そして、退位後も院政のように、一歩退いた立場で権勢をふるうことも許されない。
これは、無限寿命者や過剰魔力により、長寿を得たものばかりでなく、すべての人間、すべての組織に適用される。
……ただし、対象のものが、老齢や病により、日々の生活に支障をきたすようなら、最小限の生活費を支給することは、可能とする。」

ぼくは、どうだ、という顔で、ジウルを見返したが、彼は、肩を竦めた。

「現実的にそんな法の運用が、可能だと思うか?」
「可能だろうな。古竜や吸血鬼は、三十年も同じ地位にいれば、それに飽きるだろう。
逆に、普通の人間で、いまさら、第二の人生など歩めないというほど、歳をとったものには、あまり、厳しく適用をしなくとも実害はない。
問題があるとすれば、ジウル、おまえのように過剰魔力によって、やたら長い寿命を得たものだ。」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...