小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

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第三章 迷宮

第32話 増援要請

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「と言うことは、だ。」
グリシャム・バッハは、なんとか会話の主導権を取ろうと、口早になっている。
「駅で、テルメリオス宛の切符を買ったカップルは、アルディーン姫と断定は出来ないものの、可能性として、否定はできない。
一緒にいた男が、アルディーン姫とどのような関係かはわからないが、少なくとも、魔道院の学生では無い。
ここまでは、よろしいだろうか、マロウド学院長。」

「それは、問題ないかと思われます。筆頭魔導師殿。」
筆頭魔導師!
正確には、統一帝国中央軍魔道師団の筆頭魔導師なのだが、中央軍以外の者たちも普通に、そう呼ぶ。
紛れもなく、グリシャムは、現存する魔導師の中では屈指の存在だろう。

だが、マロウドにそう呼ばれる時、なぜか、グリシャムは、小馬鹿にされているように感じるのだ。

おまえごときが、筆頭魔導師と、名乗るのか?

と。

イライラしながらも、ここは、魔道院を敵に回すことは避けなければならない。
とくに、魔道院が、アルディーンを積極的に逃がしたのでは無いことが、ほぼ確定しているいまとなっては!

「もうひとつ。疾走した事務局長に同行した魔道院の学生はなにものでしょうか?」

「それは、答える必要がありますか、筆頭魔導師殿?」
いい加減。このタイミングになってお茶が出た。
いれてくれたのは、リーシャ。あの聖女の趣をたたえるマロウドの秘書だ。

一口飲んでその不味さに辟易しながらも、グリシャムは、言葉を返した。
「誤解からとはいえ、中央軍の分隊ひとつをつぶし、わたしの直属兵をもまた、病院送りにした者に興味があるのですよ。
できれば、中央軍にスカウトしたいものでね。」

「ああ、そのことなら」
マロウドは、リーシャに命じて、ファイルを持ってこさせた。
「名前は、ジオロ。専攻は、魔武道科です。」

「在籍はまだ、一年。」
あまりにも鮮明な画像は、ウィルミラーで撮影したものを、印刷したものだろう。
ハンサムというには、あまりにも精悍で、あまりにも凶暴すぎる。
画像の若者は、青春期の猛々しさを誇示するように、唇を釣り上げていた。
「得意とする武器は?」

「はて? リーシャ?」
「……知っている限りでは、彼は無手の闘いを得意としています。」

聖女は、答えた。

「武器は…まったく、使えないこともなきのでしょうが。少なくともそちらの方面の授業はうけておりません。」

「先行したダキシム少佐の分隊には、特殊な防護服を支給していた。
物理的な打撃、魔法攻撃、どちらにも無類の体制をもつ戦闘服だ。
その性能は、竜鱗を模したものだ。
もし、伝説級の武具でも振るわれたなら、倒されるのもわかるが、拳士には、どうしようもない代物だ。」

「竜鱗ならば、魔法プラス物理攻撃で破ることが出来ますね。」
リーシャが淡々と言った。
「実際、古竜の怖さはその巨体や膨大な魔力量であって、防壁として、竜鱗は確かに優れてはいても絶対ではありません。
まして、人間の衣服の形に再現したとして、その性能の何パーセントを再現できるのか。」

「確かに、ホンモノの竜鱗と比較すれば、その性能は、半分といったところだろう。」
グリシャムは、苦々しそうに言った。
この女は…見てくれは確かにいいが、しゃべりすぎだ。
「それでも、魔力の付与を受けない武具が、あの制服を切り裂くのは無理だ。
まして、素手では。
生身の肉体に、魔力を乗せることは出来ない。」

そのグリシャムの顔が、驚愕に歪んだ。
その視線は、問題の生徒の名前に釘付けになっていた。

「ジオロ…“ボルテック”……!!」



グリシャム・バッハは、マロウドにいくつか指示を与えると、学長室を足早に去った。

魔道院の中庭を、横切りながら、ウィルズミラーを取り出し、はるか西域の中央軍本部へつなぐ。
ミラーのなかに現れた画像は、この距離で、わずかな魔力しか消費していないことを考えると、驚く程に鮮明だった。

事務官らしき、地味な紺色の制服に身を包んだ男は、画面のなかで、驚きのあまり、言葉を失っている。

「……大隊を派遣しろ、というのか。バッハ卿。」
「その通りです。というか、他にどういう意味にとれましたか、ガルドー准将。」
「無茶だ。」
ウィルズミラーの画面に映る男……兵站を担当するガルドーは、頭を抱えた。
「いいか、すでに、そちらには最新装備を与えた特殊分隊を派遣している。」
「彼らは、病院送りです。特殊な打撃で、体内の魔力循環を乱されたようだ。
あれは、もう使い物にならん。」
「だからと言って!」
「他ならぬ、我らの大望のためです。
アルデイーンがどこまで、察知して逃げ出したのかはわからぬが、速やかに捕獲。
場合によっては、その場で“魂移し”を行う。」
「バッハ卿。」
画面のガルドーは、脂汗に塗れていた。
「単純に、予算の問題ではないのだ。
もともと、グランダは、中央軍ではなく、北方軍の管轄だ。
彼らを刺激せずにうごかせるのが、せいぜい、分隊単位なのだ。
そして、お主の“魂移し”を使った皇位継承の話はギリギリまで、ほかの勢力に悟られてはならん!
悪くすれば反逆罪に問われかねんのだぞ!?」


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