小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

文字の大きさ
32 / 59
第三章 迷宮

第32話 増援要請

しおりを挟む
「と言うことは、だ。」
グリシャム・バッハは、なんとか会話の主導権を取ろうと、口早になっている。
「駅で、テルメリオス宛の切符を買ったカップルは、アルディーン姫と断定は出来ないものの、可能性として、否定はできない。
一緒にいた男が、アルディーン姫とどのような関係かはわからないが、少なくとも、魔道院の学生では無い。
ここまでは、よろしいだろうか、マロウド学院長。」

「それは、問題ないかと思われます。筆頭魔導師殿。」
筆頭魔導師!
正確には、統一帝国中央軍魔道師団の筆頭魔導師なのだが、中央軍以外の者たちも普通に、そう呼ぶ。
紛れもなく、グリシャムは、現存する魔導師の中では屈指の存在だろう。

だが、マロウドにそう呼ばれる時、なぜか、グリシャムは、小馬鹿にされているように感じるのだ。

おまえごときが、筆頭魔導師と、名乗るのか?

と。

イライラしながらも、ここは、魔道院を敵に回すことは避けなければならない。
とくに、魔道院が、アルディーンを積極的に逃がしたのでは無いことが、ほぼ確定しているいまとなっては!

「もうひとつ。疾走した事務局長に同行した魔道院の学生はなにものでしょうか?」

「それは、答える必要がありますか、筆頭魔導師殿?」
いい加減。このタイミングになってお茶が出た。
いれてくれたのは、リーシャ。あの聖女の趣をたたえるマロウドの秘書だ。

一口飲んでその不味さに辟易しながらも、グリシャムは、言葉を返した。
「誤解からとはいえ、中央軍の分隊ひとつをつぶし、わたしの直属兵をもまた、病院送りにした者に興味があるのですよ。
できれば、中央軍にスカウトしたいものでね。」

「ああ、そのことなら」
マロウドは、リーシャに命じて、ファイルを持ってこさせた。
「名前は、ジオロ。専攻は、魔武道科です。」

「在籍はまだ、一年。」
あまりにも鮮明な画像は、ウィルミラーで撮影したものを、印刷したものだろう。
ハンサムというには、あまりにも精悍で、あまりにも凶暴すぎる。
画像の若者は、青春期の猛々しさを誇示するように、唇を釣り上げていた。
「得意とする武器は?」

「はて? リーシャ?」
「……知っている限りでは、彼は無手の闘いを得意としています。」

聖女は、答えた。

「武器は…まったく、使えないこともなきのでしょうが。少なくともそちらの方面の授業はうけておりません。」

「先行したダキシム少佐の分隊には、特殊な防護服を支給していた。
物理的な打撃、魔法攻撃、どちらにも無類の体制をもつ戦闘服だ。
その性能は、竜鱗を模したものだ。
もし、伝説級の武具でも振るわれたなら、倒されるのもわかるが、拳士には、どうしようもない代物だ。」

「竜鱗ならば、魔法プラス物理攻撃で破ることが出来ますね。」
リーシャが淡々と言った。
「実際、古竜の怖さはその巨体や膨大な魔力量であって、防壁として、竜鱗は確かに優れてはいても絶対ではありません。
まして、人間の衣服の形に再現したとして、その性能の何パーセントを再現できるのか。」

「確かに、ホンモノの竜鱗と比較すれば、その性能は、半分といったところだろう。」
グリシャムは、苦々しそうに言った。
この女は…見てくれは確かにいいが、しゃべりすぎだ。
「それでも、魔力の付与を受けない武具が、あの制服を切り裂くのは無理だ。
まして、素手では。
生身の肉体に、魔力を乗せることは出来ない。」

そのグリシャムの顔が、驚愕に歪んだ。
その視線は、問題の生徒の名前に釘付けになっていた。

「ジオロ…“ボルテック”……!!」



グリシャム・バッハは、マロウドにいくつか指示を与えると、学長室を足早に去った。

魔道院の中庭を、横切りながら、ウィルズミラーを取り出し、はるか西域の中央軍本部へつなぐ。
ミラーのなかに現れた画像は、この距離で、わずかな魔力しか消費していないことを考えると、驚く程に鮮明だった。

事務官らしき、地味な紺色の制服に身を包んだ男は、画面のなかで、驚きのあまり、言葉を失っている。

「……大隊を派遣しろ、というのか。バッハ卿。」
「その通りです。というか、他にどういう意味にとれましたか、ガルドー准将。」
「無茶だ。」
ウィルズミラーの画面に映る男……兵站を担当するガルドーは、頭を抱えた。
「いいか、すでに、そちらには最新装備を与えた特殊分隊を派遣している。」
「彼らは、病院送りです。特殊な打撃で、体内の魔力循環を乱されたようだ。
あれは、もう使い物にならん。」
「だからと言って!」
「他ならぬ、我らの大望のためです。
アルデイーンがどこまで、察知して逃げ出したのかはわからぬが、速やかに捕獲。
場合によっては、その場で“魂移し”を行う。」
「バッハ卿。」
画面のガルドーは、脂汗に塗れていた。
「単純に、予算の問題ではないのだ。
もともと、グランダは、中央軍ではなく、北方軍の管轄だ。
彼らを刺激せずにうごかせるのが、せいぜい、分隊単位なのだ。
そして、お主の“魂移し”を使った皇位継承の話はギリギリまで、ほかの勢力に悟られてはならん!
悪くすれば反逆罪に問われかねんのだぞ!?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...