34 / 59
第三章 迷宮
第34話 ラムレーズン争奪戦
しおりを挟む
料理は、続々と運ばれてくる。
ぼくの視線に気がついたのか、真祖ラウル=リンドは、鷹揚に手を振った。
「たしかに、これらは、我々の生の維持に必要な訳では無い。ただの嗜好品だよ。
だから、栄養のバランス的には、不十分かもしれないが、そこは、量でカバーしてくれたまえ。」
運ばれてきたのは、鍋料理だった。
ぐつぐつと、音をたてて、煮えている鍋は、臓物を香辛料を効かせて、煮込んだもののようだった。
この手のものは、ぼくは好物だった。
ひと山当てるまでは、そう裕福な暮らしはしていなかったし、たいていの国で、貧しいものの間では、この手の料理はこよなく愛されている。
しんどそうなティーンの前に、ぼくはモツをもった皿を取り分けた。
見た目的には、あまり美味そうでは無い。
本人の話では、名家の娘として、育ったわけだから、あまりお目にかかったことのなき料理かもしれない。
ギョッとしたように、しり込みするティーンに、ぼくは言った。
「おまえは、血を失い過ぎている。
サリアの薬で、傷口は塞がっているが、血液をつくる栄養素が必要だ。こいつは、それに役に立つ。」
恐る恐るスープを口に、運んで、ティーンは、「美味しい」と言った。驚いたようにも見えた。
ぼくは、ラウルとクラウドとライミアを、等分に見比べた。
傷を負って、血を失った娘から、さらに吸血を行おうと、“真祖”とその直属の部下なら考えないだろう。
もし、一宿一飯の恩義を返すのなら、ぼくこ血を吸わせる。
とは、いってもいまのぼくの体は、ジオロ・ボルテックが作り上げた義体だ。
たしかに流れた血は赤く、通常の治癒魔法がきちんと作用しているが、こいつらの嗜好に合うかどうかまでは、知らん。
知性をもった魔物のなかには、人間の暮らしを好み、それに混じって生活することを好むものもいる。
だ意表的なものが、古竜だ。
彼らは、どうかすると人間が、洞窟でよ夜風を凌ぎ、石と石を打ち合わせて、道具を作っていたころから、人という生き物を知っていたはずだ。
その毛の薄い猿の一種が、群れをつくり、それが分裂し、その集団のなかでの決まり事を、を文化として、昇華させる過程を彼らは見てきたはずだった。
だが、彼らはどうしたものか、人間のその愚かさの象徴のようなものを好んだ。
吸血鬼が、人間に混じるのは、もともも人間の血を餌として捕食する必要があるからだという理屈は、少し違う……と、ぼくは思っている。
彼らは、もともとが人間であり、野山に混じって、獣と暮らして、獣の血をすするよりは(吸血の対象が温かい血をもつ生き物であればいいのは研究されていた)、きちんと衣服をきて生活し、屋根と壁のあるところで休むほうが「快適」なのだ。
モツ鍋のつぎに今度出てきたのは、アイスクリームだった。
コースメニューとしては、めちゃくちゃである。
アイスクリームは、ドライフルーツを練りこんだもので、かすかに酒の味がした。
ラウルは、好物らしく、目を輝かせて、ひと皿を食べ切ると、「おかわり!」と叫んだ。
同席していた女吸血鬼ライミアは、苦笑しながら、自分の分をラウルの前に押しやった。
「ティーンとヒスイ、といったな。何のために三層を目指すのだ。」
もうひとりのクラウドは、“騎士爵”を名乗っている。吸血衝動をある程度克服しないと、爵位をもっては呼ばれないが、クラウドの名乗りの“騎士爵”は微妙だ。
通常、貴族の家名というのは、与えられた土地の名前に由来する。
クローディア公爵家ならば、クローディア地方の支配権をもっているし、またクローディア家は一時期、オールべ伯爵も名乗っていた。
西域の街オールべの領主でもあったからだ。
このライミアは、爵位を名乗らない。
しかし、ぼくたちを見つめる目には、生き血への葛藤など、どこにもなかった。
「“神竜皇妃”リアモンド様に、助言を求めに行きます。」
「それは、サリアがガイドについていても、かなり危険な行為だぞ、ヒスイ。」
ライミアは、ぼくをじっと見つめた。
ぼくの素性がわかってしまったかと、ぼくはちょっと心配になったが、まさかそんなことはないだろう。
「危険なのは、承知です、ライミア。」
ティーンは、アイスクリームを保留して、モツ煮込みをおかわりしていた。
「しかし、わたしたちは、階層主の叡智を必要としているのです。」
ラウルが、おかわり!と叫んだ。
ライミアは、まだ手をつけていなかったティーンのまえから、アイスクリームをかっさらった。
「叡智にあふれた階層主には、ここにもいるけど」
「皮肉はいいよ、ライミア。」
忙しくアイスクリームを口に運びながら、ラウルは言った。
「でも三層が、危険なのは、本当だよ。
知性をもたない竜もうろうろしているし、古竜にしたって、なにしろ、あいつらは気まぐれだからね。
ねえ、ライミア、この前の木の実を練りこんだやつもないかな。」
次の料理が運ばれてきた……。
細長いガラスの容器のなかは、様々の色なアイスクリームとスポンジが、層をなしている。
その上に生クリームがこんもりと盛られ、綺麗にカットされた生のフルーツが刺さっていた。
甘いものが苦手な者には、悪夢のような光景だった。
「それはそうと。ライミアさんは、爵位を名乗らないの?」
ティーンが、これは渡すまい、とパフェを握りしめながら言った。
「わたしは、まだ成って、5年かそこいらの
吸血鬼だから、ね。
伯爵だ、子爵だと名乗るのは百年早いと思うわ。
それに爵位には、もうあきあきしてるのよ、アデルの娘。」
ぼくの視線に気がついたのか、真祖ラウル=リンドは、鷹揚に手を振った。
「たしかに、これらは、我々の生の維持に必要な訳では無い。ただの嗜好品だよ。
だから、栄養のバランス的には、不十分かもしれないが、そこは、量でカバーしてくれたまえ。」
運ばれてきたのは、鍋料理だった。
ぐつぐつと、音をたてて、煮えている鍋は、臓物を香辛料を効かせて、煮込んだもののようだった。
この手のものは、ぼくは好物だった。
ひと山当てるまでは、そう裕福な暮らしはしていなかったし、たいていの国で、貧しいものの間では、この手の料理はこよなく愛されている。
しんどそうなティーンの前に、ぼくはモツをもった皿を取り分けた。
見た目的には、あまり美味そうでは無い。
本人の話では、名家の娘として、育ったわけだから、あまりお目にかかったことのなき料理かもしれない。
ギョッとしたように、しり込みするティーンに、ぼくは言った。
「おまえは、血を失い過ぎている。
サリアの薬で、傷口は塞がっているが、血液をつくる栄養素が必要だ。こいつは、それに役に立つ。」
恐る恐るスープを口に、運んで、ティーンは、「美味しい」と言った。驚いたようにも見えた。
ぼくは、ラウルとクラウドとライミアを、等分に見比べた。
傷を負って、血を失った娘から、さらに吸血を行おうと、“真祖”とその直属の部下なら考えないだろう。
もし、一宿一飯の恩義を返すのなら、ぼくこ血を吸わせる。
とは、いってもいまのぼくの体は、ジオロ・ボルテックが作り上げた義体だ。
たしかに流れた血は赤く、通常の治癒魔法がきちんと作用しているが、こいつらの嗜好に合うかどうかまでは、知らん。
知性をもった魔物のなかには、人間の暮らしを好み、それに混じって生活することを好むものもいる。
だ意表的なものが、古竜だ。
彼らは、どうかすると人間が、洞窟でよ夜風を凌ぎ、石と石を打ち合わせて、道具を作っていたころから、人という生き物を知っていたはずだ。
その毛の薄い猿の一種が、群れをつくり、それが分裂し、その集団のなかでの決まり事を、を文化として、昇華させる過程を彼らは見てきたはずだった。
だが、彼らはどうしたものか、人間のその愚かさの象徴のようなものを好んだ。
吸血鬼が、人間に混じるのは、もともも人間の血を餌として捕食する必要があるからだという理屈は、少し違う……と、ぼくは思っている。
彼らは、もともとが人間であり、野山に混じって、獣と暮らして、獣の血をすするよりは(吸血の対象が温かい血をもつ生き物であればいいのは研究されていた)、きちんと衣服をきて生活し、屋根と壁のあるところで休むほうが「快適」なのだ。
モツ鍋のつぎに今度出てきたのは、アイスクリームだった。
コースメニューとしては、めちゃくちゃである。
アイスクリームは、ドライフルーツを練りこんだもので、かすかに酒の味がした。
ラウルは、好物らしく、目を輝かせて、ひと皿を食べ切ると、「おかわり!」と叫んだ。
同席していた女吸血鬼ライミアは、苦笑しながら、自分の分をラウルの前に押しやった。
「ティーンとヒスイ、といったな。何のために三層を目指すのだ。」
もうひとりのクラウドは、“騎士爵”を名乗っている。吸血衝動をある程度克服しないと、爵位をもっては呼ばれないが、クラウドの名乗りの“騎士爵”は微妙だ。
通常、貴族の家名というのは、与えられた土地の名前に由来する。
クローディア公爵家ならば、クローディア地方の支配権をもっているし、またクローディア家は一時期、オールべ伯爵も名乗っていた。
西域の街オールべの領主でもあったからだ。
このライミアは、爵位を名乗らない。
しかし、ぼくたちを見つめる目には、生き血への葛藤など、どこにもなかった。
「“神竜皇妃”リアモンド様に、助言を求めに行きます。」
「それは、サリアがガイドについていても、かなり危険な行為だぞ、ヒスイ。」
ライミアは、ぼくをじっと見つめた。
ぼくの素性がわかってしまったかと、ぼくはちょっと心配になったが、まさかそんなことはないだろう。
「危険なのは、承知です、ライミア。」
ティーンは、アイスクリームを保留して、モツ煮込みをおかわりしていた。
「しかし、わたしたちは、階層主の叡智を必要としているのです。」
ラウルが、おかわり!と叫んだ。
ライミアは、まだ手をつけていなかったティーンのまえから、アイスクリームをかっさらった。
「叡智にあふれた階層主には、ここにもいるけど」
「皮肉はいいよ、ライミア。」
忙しくアイスクリームを口に運びながら、ラウルは言った。
「でも三層が、危険なのは、本当だよ。
知性をもたない竜もうろうろしているし、古竜にしたって、なにしろ、あいつらは気まぐれだからね。
ねえ、ライミア、この前の木の実を練りこんだやつもないかな。」
次の料理が運ばれてきた……。
細長いガラスの容器のなかは、様々の色なアイスクリームとスポンジが、層をなしている。
その上に生クリームがこんもりと盛られ、綺麗にカットされた生のフルーツが刺さっていた。
甘いものが苦手な者には、悪夢のような光景だった。
「それはそうと。ライミアさんは、爵位を名乗らないの?」
ティーンが、これは渡すまい、とパフェを握りしめながら言った。
「わたしは、まだ成って、5年かそこいらの
吸血鬼だから、ね。
伯爵だ、子爵だと名乗るのは百年早いと思うわ。
それに爵位には、もうあきあきしてるのよ、アデルの娘。」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる