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ハルトの場合
なにやってもうまくいかない
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ぼくは、初手からつまずいた。
そもそもパーティが作れないのだ。
一番、頻繁に出入りしていて、顔なじみも多いのは、リリク通りにあるギルド『不死鳥の冠』である。
冒険者の数は多くはないが、珍しい鋼糸使いのヨウィスや魔剣使いのゾアなど、腕利きがそろっている。
だが、ここは使えない。
なぜって、ギルマスがフィオリナ=クローディアだからだ。
『不死鳥の冠』は、がっちりクローディア公爵家の息のかかった冒険者ギルドで、貴族が後ろ盾についた冒険者パーティはあれど、一人娘にギルマスを、やらせるところはほかにないだろう。
さすがにあれこれをすべてやるのは無理なので、さる伯爵家の令嬢をサブマスターに雇っている。
話がそれた。
ぼくは、フィオリナとクローディア公爵家を巻き込みたくなくて、あんな婚約破棄騒動まで仕出かしたのだ。
彼女と、関係のないところで、パーティ募集を、と思ったのだが、二日たっても三日たっても応募してくれる冒険者はゼロだった。
『燭乱天使』の悪名はここまですさまじかった。
とうとうそこのギルマスから、夜中に叩き出されるハメになった。
だめだ。こいつら。
エルマートに、燭乱天使をつけたことから言っても、ぼくを迷宮内で謀殺したいのだろうが、これではそもそも迷宮に挑むことさえ出来ない。
だから、だめだこいつら、と言ったこいつら、は今回の筋書きを、書いた誰とはわからぬものに対するものだ。
ぼくを迷宮に誘い込むつもりなら、そもそも迷宮にはいれないようにしちゃだめだろう。
夜道はどうしょうもなく寒い。
凍死するような季節ではなかったが、ずっと傍らにいてくれた公爵家のお姫さまがいないのが、こんなに寒いとは思ってもみなかった。
なので、ボルテック卿が、自室に招待してくれたときは、ぼくは本当にほっとしたのだった。
ボルテックはこの数年、ぼくの喧嘩相手だった。
とは言っても、彼がつっかかってくるのをぼくが守るだけ。
どうも最初のころは、ぼくに怪我なり、あるいは才能の鼻っ柱をおることで、自分の曾孫の成績をトップにしたい、というのがあったようだが、途中からすっかり忘れた。
勝敗は、さすがに年の功とでもいうべきか、彼が大幅に勝ち越ししている。
今回も彼が呼び出した触手と花弁をもつ妙な植物の毒液で、来てるものにいくつか穴があいたものの、実害はたいしてない。
ボルテック卿にお茶と菓子を振る舞われ、ぼくらはしばらく話し込んだ。
父である王の側近たちの開催する『夜会』に、クローディア公爵が招待されたのはきいていた。
義理の父になる予定だった公爵は、北方のクローディア公爵領に年の半分以上は滞在していて、王都の派閥争いには首をつっこんでいない賢明なひとだ。
武力はもちろん、クローディア公爵領は、経済的にもうまく回っていて、『夜会派』はもちろん彼を自分の派閥に取り込みたかったのだろうが、唯一、一人娘のフィオリナの婚約者が、ぼくだったことが、それを妨げていたのだ。
ぼくが、全校生徒の面前でフィオリナに婚約破棄をかましたことで、絶好の機会だと思ったのだろう。
思ってくれなければ困る。
クローディア公爵家を王の派閥にいれて、ひとまずそこでの安全を担保してほしくて、ぼくはあんな無茶をやったのだから。
クローディア公爵家を王の派閥にいれてしまえば、燭乱天使の牙が直接にむくことはないだろう。
王に重用されていれば、少なくとも武力をもって立たざるを得ないような確率もずっと減る。
クローディア公爵は、席上でだいぶ、王からの信頼を得ることに成功したらしい。
「魔王宮」を一般の冒険者にも解放する、という案を通してくれたときいて、ぼくは内心、快哉を叫んだ。
これで、ぼくは『自分のパーティ』を作らなくても魔王宮に入ることができる。
それはぼくの計画の第一歩。
最初の一歩にすぎなかったが、ほんのすこしまえまでのぼくは、それすら果たせずに夜道をさまよっていたのだ。
ボルテック卿に感謝を述べ(彼は快く、今晩の宿と着替えを提供してくれた)ぼくは眠りについた。
明日はもっといい日でありますように。
そもそもパーティが作れないのだ。
一番、頻繁に出入りしていて、顔なじみも多いのは、リリク通りにあるギルド『不死鳥の冠』である。
冒険者の数は多くはないが、珍しい鋼糸使いのヨウィスや魔剣使いのゾアなど、腕利きがそろっている。
だが、ここは使えない。
なぜって、ギルマスがフィオリナ=クローディアだからだ。
『不死鳥の冠』は、がっちりクローディア公爵家の息のかかった冒険者ギルドで、貴族が後ろ盾についた冒険者パーティはあれど、一人娘にギルマスを、やらせるところはほかにないだろう。
さすがにあれこれをすべてやるのは無理なので、さる伯爵家の令嬢をサブマスターに雇っている。
話がそれた。
ぼくは、フィオリナとクローディア公爵家を巻き込みたくなくて、あんな婚約破棄騒動まで仕出かしたのだ。
彼女と、関係のないところで、パーティ募集を、と思ったのだが、二日たっても三日たっても応募してくれる冒険者はゼロだった。
『燭乱天使』の悪名はここまですさまじかった。
とうとうそこのギルマスから、夜中に叩き出されるハメになった。
だめだ。こいつら。
エルマートに、燭乱天使をつけたことから言っても、ぼくを迷宮内で謀殺したいのだろうが、これではそもそも迷宮に挑むことさえ出来ない。
だから、だめだこいつら、と言ったこいつら、は今回の筋書きを、書いた誰とはわからぬものに対するものだ。
ぼくを迷宮に誘い込むつもりなら、そもそも迷宮にはいれないようにしちゃだめだろう。
夜道はどうしょうもなく寒い。
凍死するような季節ではなかったが、ずっと傍らにいてくれた公爵家のお姫さまがいないのが、こんなに寒いとは思ってもみなかった。
なので、ボルテック卿が、自室に招待してくれたときは、ぼくは本当にほっとしたのだった。
ボルテックはこの数年、ぼくの喧嘩相手だった。
とは言っても、彼がつっかかってくるのをぼくが守るだけ。
どうも最初のころは、ぼくに怪我なり、あるいは才能の鼻っ柱をおることで、自分の曾孫の成績をトップにしたい、というのがあったようだが、途中からすっかり忘れた。
勝敗は、さすがに年の功とでもいうべきか、彼が大幅に勝ち越ししている。
今回も彼が呼び出した触手と花弁をもつ妙な植物の毒液で、来てるものにいくつか穴があいたものの、実害はたいしてない。
ボルテック卿にお茶と菓子を振る舞われ、ぼくらはしばらく話し込んだ。
父である王の側近たちの開催する『夜会』に、クローディア公爵が招待されたのはきいていた。
義理の父になる予定だった公爵は、北方のクローディア公爵領に年の半分以上は滞在していて、王都の派閥争いには首をつっこんでいない賢明なひとだ。
武力はもちろん、クローディア公爵領は、経済的にもうまく回っていて、『夜会派』はもちろん彼を自分の派閥に取り込みたかったのだろうが、唯一、一人娘のフィオリナの婚約者が、ぼくだったことが、それを妨げていたのだ。
ぼくが、全校生徒の面前でフィオリナに婚約破棄をかましたことで、絶好の機会だと思ったのだろう。
思ってくれなければ困る。
クローディア公爵家を王の派閥にいれて、ひとまずそこでの安全を担保してほしくて、ぼくはあんな無茶をやったのだから。
クローディア公爵家を王の派閥にいれてしまえば、燭乱天使の牙が直接にむくことはないだろう。
王に重用されていれば、少なくとも武力をもって立たざるを得ないような確率もずっと減る。
クローディア公爵は、席上でだいぶ、王からの信頼を得ることに成功したらしい。
「魔王宮」を一般の冒険者にも解放する、という案を通してくれたときいて、ぼくは内心、快哉を叫んだ。
これで、ぼくは『自分のパーティ』を作らなくても魔王宮に入ることができる。
それはぼくの計画の第一歩。
最初の一歩にすぎなかったが、ほんのすこしまえまでのぼくは、それすら果たせずに夜道をさまよっていたのだ。
ボルテック卿に感謝を述べ(彼は快く、今晩の宿と着替えを提供してくれた)ぼくは眠りについた。
明日はもっといい日でありますように。
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