アルセンドリック侯爵家ミイナの幸せな結婚

此寺 美津己

文字の大きさ
13 / 28

第13話 君の姿はぼくに似ている。

しおりを挟む

「まあ、そんなこんなで、17歳のとき、わたしは突然、牢から出されたわけ。まあ、生きてるのはわかってたにしても、ちゃんと歩けて、言葉をしゃべることまでは期待していなかったと見えて、父なんかは、カップを投げつけて、喜んでくれたわ。
牢から出された理由は、お調べ済みかな、エクラくん。」
「それは」
エクラは頷いた。
「ルドルフ閣下との結婚のためですね。」

「そういうこと。当時、アルセンドリック侯爵家は、正体不明の魔道士に狙われていて、どうしてもSクラスの冒険者を雇いたかったのね。
普通、Sクラスの冒険者なんて、どこかの国のお抱えになってしまっていて、一貴族家になんて回ってこないわ。
でもダメ元で、ルドルフに交渉したときに、彼が『アルセンドリック侯爵家』の姫を妻に差し出すなら、って条件をだしてきたのよ。
普通だったら、話はそこで終わり、いくらなんでも自分の娘を吸血鬼に嫁に差し出すなんて、とても出来ないわ。ところが、アルセンドリック侯爵家には、ちょうどいい人材がいたのね。
それが、つまり、わたし。」

挑むように、エクラの顔を覗き込む。

「わたしは、ルドルフと結婚させられた。いやいや・・・・というわけでもなかった。
わたしにはわたしの事情があって。
ルドルフは、いろいろ欠点の多いやつではあったけど、どういうものか、わたしを気に入ってくれた。
政略結婚でそれ以上を望んではいけないものでしょ?
なんだかんだ、わたしはアルセンドリック侯爵家をついで、父の残した財産を懸命にくいつぶして、今日に至る。」
「そこらへんは、わたしたちの調査と違いますね。先代の侯爵閣下に遺産など、家屋敷以外にロクに残っていなかったはず。」

「あるわよ、一応。収支は、プラマイゼロのアルセンドリック侯爵領に、借用書の束という財産がね。正直アルセンドリック侯爵領を処分することも考えたのだけれど、そうすると爵位も返上になるので、まあ、出来るところまでやってみようと思ったのね。」

赤い酒は口上がりがよく、するすると喉を通った。

「気がついたら十年たっていた。まだ、若い君には、わからないかもしれないわね。」

エクラは、首を横に振った。
「全部は。でもわかるところもあります。」

「ふうん。」

エクラの表情はわからない。
単純にミイナに同情してるわけではなさそうだ。

「なら、今度はきみのことを話してよ。アルセンドリック家の力は、そっちには遠く及ばない。それは認めるわ。正直エクラくんという三男がいることも今日はじめて聞いたのよ。」
「ぼくは、いわゆる妾腹です。」

エクラは、自重するように言った。

「へえ。じゃあ、いままではどこかに留学でもしていたの?」

「都にはおりましたよ。ただし、学生ではありません。12から、オーガスタ街で働いておりました。」

ミイナの顔がしかめられた。オーガスタ街は・・・都でも有数の色街だ。

「ぼくの母は早くに亡くなりましたもので。」
エクラは、遠い目をしていた。
「実際に、伯爵閣下・・・父にも認知されていなかったようです。ですが、ここにきて利用価値が出来たので、昨年、ここに呼ばれました。付け焼き刃の礼儀作法に、基礎教育・・・・。いかがでしょう、ぼくは貴族の師弟に見えていますでしょうか?」

「出来は悪くない。」
ミイナはそれだけを、やっと言った。
「利用価値・・・・って言ったわね。」

「そうです。ルドルフ様を屠ったあとに、あなたの連れ合いになるためです。」

エクラの唇が歪んだ。それは笑みの形をしていたが、ひどく凶暴なものにも見えた。まるで、柔らかい毛並みに包まれた野生動物が、突然その本性をみせたような。
つまり、ミイナが、17歳のときに吸血鬼の連れ合いになるために、牢からだされたように、エクラは、吸血鬼(かもしれない)ミイナと結婚するために、連れてこられたのだ。
それってまるで。

「いかがです? ぼくたちはけっこう、相性がいいと思いませんか?」

---------------------------------

「兵は、腕利きを20名貸してくれるそうです。それに、A級冒険者のメイプル殿。」
宴がはけたあと、ミイナたちはそれぞれ、寝室が用意された。
だが、このまま、眠りにつくわけにはいかない。整理しなければならない情報が多すぎた。

パーティーの間も、執事頭のセパスは、あれこれと交渉をしてくれていたらしい。

「彼らをつれて、明日はいったん屋敷にもどり、男爵閣下とお姉様方に退去いただきましょう。アルセンドリック侯爵への不敬、およびに屋敷への無断侵入で、彼らを正式に告発いたします。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...