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傾国の魔女
しおりを挟むとある王国にある緑深い森の中に一際神秘的な光が差し込んでいるとても幻想的な湖がある。
「こ、この湖が…」
ーーカサッ…
「…は、早く済ませよう…」
しかし、その幻想的な風景とは裏腹にここには魔が平然と蔓延っていて、常に死と隣り合わせな場所である。
普段なら恐れて誰も近づかないその森には『どんな願いも一つだけ叶えてくれる』という噂を持つ魔女がいた。
欲深い人間は危険を犯してでも魔女に願いを叶えてもらう為にその湖を訪れる。
男は月明かりしか頼りのない湖のほとりに立ち、ゆっくりと凪いだ水面に足を踏み入れる。
男が作り出した小さな波紋が次第に少しずつ大きくなってそしてまた小さくなって行く。
遠くから見ればまるでその男は水面を歩いているかのように見える。そして、月が映る水面へ辿り着くと何処からともなく少し掠れたような女の声が聞こえてくる。
「…お前は私に何を望む。どんな願いであっても一つだけ叶えよう」
「ま、魔女よ!私を金持ちにしてくれ!好きな女がいるが金がなくて結婚出来ないんだ!」
「…」
膝をついて懇願するその男からは月夜と深々と被ったローブのフードのせいでの魔女の顔は見えない。
魔女からの返事はないが、彼女は静かにしっかりと頷き、手招きをして男を自身に近寄らせる。
「ま、魔女よ…」
ゆっくりと差し出された手を取ろうと男は両手を伸ばす。
「…っ!」
男の足元にその両手からこぼれた一生かけても使いきれないほどの金が水音を立てて落ち、男はそれを必死にかき集める。
魔女はそれをただ見ていた。
「そこまでだ!」
「見つけたぞ!傾国の魔女。私はこの国の第一騎士団団長!ジルベビュート・ファン・アランブール。抵抗はやめて大人しく投降しろ!」
静寂だった森に沢山の足音と男達の怒号が響き渡る。
「…それが其方の願いか?」
「今だ!捕まえろ!」
「男が逃げたぞ!」
「それが其方の願いなのか?」
「…さっきから何を言っている」
「私が大人しく捕まる事が其方の願いならば、私は抵抗せずに捕まろう。ただし、願いは一人一回だけ」
「私がお前に何かを願うことは無い。大人しくしなくとも力ずくで捕まえるだけだ」
「…」
魔女はそれ以降何も言葉を発することなく、又…全く抵抗することもなく捕まった。
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