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「海でも渡る気か?」

「それも良いかもな」

 次に訪れた街は最北部に当たる港町・ポーシブル。海上輸送の要でもあるポーシブルは当然ながら沢山の物が流入する為、経済を回すために関税や通行税なども緩く、何かを売り買いするならうってつけの場所だ。
 当然ながら商品だけじゃなく人の流入も多く、お陰で出所不明の拳大のルビーの原石でも無事にお金に換えることが出来た。

 酷い照り返しは相変わらずだが、海風が吹いて何処か心地よい。
 少し古い街並みだが、それもまた味がある。貿易業が盛んなだけあってポーシブルはこれまで訪れたどの街よりも賑やかで不景気の流れが余り見えなかった。

「…少し寄りたい所がある」

「…好きにしてくれ」

 ポーシブルの港を一望できる丘の上。
 吹き抜ける風がまた一段と心地よい。

「少し体力が付いてきたようだな」

「私も自分が何者だったのか忘れていたらしい。先日は其方の世話になってしまったからな。今日は少し小細工をした」

 自分の為に力を使ったという事だろうか。何となく抱える気で頂けに手持ち無沙汰になった両腕を見つめる。

「なんだ?」

「…余り腕を鈍らせたくない。だから、今度からその小細工とやらはするな」

「一思いに切り落とされたいからな。仕方がない」

 シャーロットはあっさりと認めて、当たり前のように両腕を広げる。

「…体調管理も兼ねている」

「そうか」

 前よりは少しマシになっただろうか。筋張っていた手足が見れるくらいには肉がついていて、コケた頬も心なしかほんのり色づいて見えるし、虚だった瞳も生気が感じられる。

「…あぁ、例の育ての親の墓か」

「…少し待っていてくれ」

 騎士団に入った報告をしたきり、此処には来ていなかった。忙しかったというのは言い訳だ。来ようと思えば来ることは出来た。でも、来なかった。

 爺さんは彼が騎士になる事をあまり快く思ってなかった。直接的な言葉での反対こそしなかったが、事あるごとに本当に騎士になるのか、と困ったような表情で聞いてきていた。
 彼の記憶の中にいる爺さんは本当に賢い人で、もしかしたらこんな事になる未来を想像していたのかもしれないと今なら思う。

「…なぁ、爺さん。俺は…跡を継ぐべきだったのだろうか?」

 花を手向けながらポツリとそう呟いていた。




 
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