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呪いの正体
しおりを挟む「何かあったのか?」
「…いや、何を食べようか考えていただけだ」
咄嗟にラインセルとの事を隠してしまったジルべビュート。
その行動にはなんの意味もないことは明らかだ。ラインセルが気付いていたくらいだ、聡いシャーロットもジルべビュートが『呪い』について調べている事に気づいているだろう。彼女のことだ、きっと直接的に言葉にしていないだけなのだろう。
だからなんの考えもなしに無意識にしてしまった行動にジルべビュート自身が動揺していた。
ジルべビュートは自身の感情が変化していった事を自覚している。
初めは憎悪と嫌悪、それがある時、同情と憐れみに、そしていつの間にか心配に変わっていった。
鼓動が日に日に早く、心の臓は日に日に熱を持ち、頭の中は常に彼女の事でいっぱいで、他の何かを考える隙間すらない。
真っ直ぐで真面目すぎる彼だが、その感情が何であるか…それに気付かないほどの鈍感さは持ち合わせていなかった。
それ故に彼はその感情の持っていく場所が何処にもない事を悟らざるを得なかった。
「…まだ決まっていないのなら、この前の…」
「あぁ、白パンの店か?」
「…そうだ」
シャーロットの表情が真顔以外のものに変わる事はないが、それでも何となく声色や仕草、雰囲気で機嫌の良し悪しくらいは分かるようになってきた。
「実はさっき書士に聞いたんだが、あの店には夜専門の系列店があるようだ。酒の提供もあるらしい」
「よし、そこにしよう」
例え表情が変わらなくても分かる。
嬉しい時は少し早口になるのも、悲しい時は左の口角を少し下げることも、楽しい時は少し眉尻を下げることも、眠たい時は少し下唇を噛むことも分かった。
「そんなに嬉しいのか?」
「私は嬉しいのか?」
自分の感情や痛みに鈍感になってしまったシャーロット。彼女にはそれを自分自身で気付けるようになるまできちんと教えてあげたい。
そうでなければ彼女は一生幸せを感じる事はないだろう。
そして、ある種これが国の犠牲となった彼女にしてあげられるジルべビュートなりの償いだった。
「俺には嬉しそうに見えたがな」
「そうか。これが嬉しいだったか」
素直に納得するシャーロットにジルべビュートは複雑な表情を浮かべる。
ただ、そうして尽くす度に、彼女が幸せを感じる度に、自身した約束のせいで二人の別れの時が刻々と迫っていく。
心配が愛情に変わった今。
この想いを伝える気はない。
彼女といられるのはほんの僅かな時だけ。だからせめて彼女が居なくなるその時まで側にいたい。
ジルべビュートに残された選択肢はいずれ訪れる二人が別つその時まで少しでも多くの思い出を作る事だけだった。
「(俺は彼女を手放す事が出来るのだろうか…)」
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