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商会開業

精霊




「世話になったな」

「礼は後で受け取る。今は何があったのか話してくれ」

「あぁ」

 案内された別室には綺麗な顔に無数の切り傷、腕や脚に包帯を巻いてはいるがいつも通り小さな皮肉を織り混ぜて話す少し生意気な表情のアークの姿。

 いつもはそんなアークに憎まれ口を叩く事もあるが、今回ばかりは本当に助けられた。奇跡の生還の立役者であるはずなのに本人は特に気にすることもなく、恩着せがましくもしない。
 全く頭が上がらない。

「俺らはギルゲインの指示通り、一階層から順に上がってたんだ」

 今から1週間ほど前。
 フラット達【紅の空】はギルドからの特別指名依頼で深海ダンジョンの調査依頼を受けた。
 依頼内容はとても単純なもので、ダンジョンの隅から隅まで一階層から順に見て回り、異常がないかを調べてくる、と言うもの。
 特別指名依頼という儲け話(特別報酬が上乗せされる)と彼らのパーティーにとってはとても簡単な依頼内容(水系統の魔物との相性が良い)だった為、迷うことなくその依頼を受けた。

「順調に階層を重ねていった俺たちが異常に気付いたのは50階を過ぎた頃だった」

 50階層に足を踏み入れるとほんのりと甘い香りが鼻を擽った。初めはその程度違和感だったが、此処は深海ダンジョンである。
 水の中という特殊な環境下で花ような甘い香りがするのは初めてで、彼らは当然困惑した。

「匂いの原因はすぐに分かった」

「分かっているのか」

「あぁ」

 ベテラン冒険者である彼らだからこそ直ぐに気付けた。
 何しろあの場所はダンジョンだ。魔法石やクズ石なんてものは未使用なら兎も角、低級品や使用済みならいくらでも落ちているのでそれだけだとなんら不思議な光景ではない。
 ただ、それと微かに感じる甘い香り、それから増水と水質変化という川に起きた異常事態、ギルゲインからの特別指名依頼。これらをきちんと結びつけると分かることがある。

「…恐らく、魔法石を…それもかなり強力な物を使ったと思う」

「…」

「いや、此処は俺の正直な感想を言おう。あれは使ったのではなく『壊してばら撒いた』と言う方が正確だろう。しかも、俺はあの壊された魔法石はヒュドラの魔法石だと思っている。あの独特な花のような甘い香り…間違いない」

 魔法石を使うのは良くあることだ。火を起こしたり、水を出したりは勿論、最近なんかは魔法鞄の登場で《収納》で魔法石の指輪はあまり使わなくなったが、未だに使っている奴も多い。
 さっきも言ったように使用済みの魔法石が落ちているなんて良くある事だが、それをわざわざ壊すなんて事はしない。
 あんな硬い物をわざわざ壊す労力の方が惜しいからだ。
 では、何の為に粉々になるまで壊されたのか。

「これは俺の仮説だがな。未使用の魔法石を壊す事で中にあった魔力を外側へ放出することが出来るのではないだろうか」

「…それをダンジョン内で行い…あのモンスターハウスを生み出したということか」

「…確かに、もし魔法石を壊す事で魔力を放出することが可能なら…一時的にとは言え、その場に強制的に魔力だまりを作れるのかも知れないな」

「しかし…それでは犯人は危険を顧みずモンスターハウスをわざと生み出した事になるが…」

「…あぁ」

「…厄介なことを」

「お前が言ったのだぞ。森にいた奴らは王国騎士ではなく素人だったと」

 騎士達がいれば目立つと言うこともあるだろうが、そんなわざわざ死にに行くようなことを貴族がする訳がない。

「しかし、そう考えるとあのソーロが陥落したことも頷ける」

「ソーロが陥落…?どういう事だ!?」

 ギルゲインはフラットらがダンジョンに潜っていた間に地上で起こっていたことを全て話す。

「まさか、そんなことが…」

「…他の領地にもこの情報を伝達しておこう」

「…こっちでやっておく」

「頼んだ」

 ギルゲインは重い腰を上げて部屋を出ていく。残されたフラットはアークへ向き直って視線を戻す。

「とにかく…もう一度深海ダンジョンには潜らないといけないようだな」

「あぁ、もしかしたらまだ他にも魔力だまりがあるかも知れない」
 
「…アーク」

「なんだ」

「…あれは……精霊だったか」

「…あぁ」

「王国の奴らは何てものを怒らせやがたんだ…」

 頭を抱えるフラットに声は出さなかったが、アークも同意のため息をついた。





 





 



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