果に存在するは何の花

鈴江直央

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4.

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 SS‐O型を地球に派遣してからひと月と少し、初めて通信が切れた。通信切れは眠っている状態か、故障が考えられるが、今の地球時間は真っ昼間なので後者の方だと思われる。研究所の地下で途切れたことから、何かあったのだろうか。しかし報告は何もない。
 自我があるようでないSSは本部に絶対服従のため、何かを隠すと言ったことは無いはずだ。

「見て、長様よ」
「ごきげんよう。婦人方」

 この宇宙ステーションの中に生活しているのは小国程の人間達、また奇跡的に地球から連れ出すことのできた動物や植物である。このようなステーションがいくつも地球の周りに散らばり、数多くの科学者や研究者が我先にと地球を自分達のものにするため日々励んでいる。

「ねぇ、噂なんだけどね、長様の娘…」
「あら聞いたわよ。何でも実験に使ったとか…」

 人々からのこうした噂は絶えることがない。一つ一つ問題にして議論するのは時間の無駄だ。何と言われようと構わない。もうこうした道を歩むしか、残されていないのだ。

「長!SS‐Oの反応がありました!場所は研究所を離れて南下し、関西地区へと向かっています」

 SS‐O型しか生命の反応がないはずの地球で、通信が途切れた間に移動したという。しかし、SS‐O型が地球に来て以来何度か起動している生命探知にはなにも引っかかっていない。彼女がそれを使うたび、本部にも記録が残る。

「おかしいな。すぐにSS‐O型と連絡を取ってくれ」

 宇宙ステーションの1番高い所、皆には長室と呼ばれている場所へ急ぎ確認する。トウキョウに居たはずの彼女は確かに、移動しているようだった。

「こちら本部。SS‐O、SS‐O型。聞こえるか?」
「、…O、きこ、……ます」

 ひどい雑音とともに途切れ途切れに聞こえる声。

「…何かあったのか?」
「研究所の……はつに、まきこ、、っ」

 こちらの声は聞こえているようだが、なんと言っているのか分からない。一度本部へ戻すか…いやしかし、故障した時のための装置も用意してある。
 少しだけでも残っている感情を殺す、彼女を完全に道具にしてしまうもの。

「娘を実験に使ったんですって」
「まぁひどい!それでも親かしら」
「きっとそういうことにしか頭がないんだよ」
「いずれ私達も使われてしまうのかしらね」
「あぁ、いやだいやだ」

 装置のボタンに触れた途端、ステーション内で囁かれている声が嫌にはっきり思い出された。何も知らないだろう、と歯を食いしばる。お前たちは上の人間が備えてくれているものを感謝もせずに消費するばかりだ。

「なぁ…お前だったら止めたか?」

 席を立ち青緑の液体の中で優雅に佇む彼女に話しかける。彼女は目を開けることも話すこともなかった。


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