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第一部
04. 愛ってなんだろう
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「どうしておうちに帰ってはだめなの……?」
布団に包まったまんま、またしくしくと泣き出してしまったセヴィに、レナードとメイドたちは顔を見合わせる。
そしてレナードが進み出て、優しい声音で話し始めた。
「セヴィ様、狼族にとって番というのは唯一の存在なのです。番と出逢った狼は、生涯その番だけを愛し守ります。そして出逢ったばかりの数ヶ月、狼は番との愛を育み深める為に二人きりで籠るものなのです」
「籠る……?」
「はい。その期間は、番の姿が見えないだけで落ち着かなくなるんです。その期間の事を『蜜月』と言います」
クード様にとっては今がその蜜月期間です、と言われて、セヴィはそろりと布団から目だけを覗かせる。
「でも、あの人は離れていても平気そうだわ。だからきっと私がおうちに帰ったって……」
セヴィがそう言うと、レナードはそうではありません、と首を振る。
「クード様は、今はただ耐えていらっしゃるだけなのです。屋敷の中であればセヴィ様の気配は感じられるので、かろうじて耐えられているのです。この屋敷からセヴィ様がいなくなれば、恐らくクード様は狂ってしまいます」
「狂う………?」
大袈裟な、と思ったセヴィに、レナードがまた小さく首を振る。
「狼にとって番はそれだけ大切な存在だという事です。番が亡くなった時には、狂うか、衰弱して亡くなるか、というくらいに──ですから、特に今この蜜月期間中に、狼が番と離れて暮らすなんて事は出来ないんですよ」
そう言われて、セヴィの垂れ耳が更にしょぼんと垂れ下がった。
クードがセヴィに酷く執着しているという事は、さすがのセヴィにも分かる。
どうやらそれが『愛』というものらしい、という事も。
町に出るのが恐かったセヴィは、ほとんどの時間を兎族の村の中だけで過ごしてきた。
村の中の男の子で誰が人気があるかは知っていたし、女の子が集まれば誰それが好きだとか、誰々はあの子と付き合い始めたらしいとかそういう話にだってなったけれど、セヴィにはそもそも『好き』がよく分からなかった。
皆が言うドキドキしたりソワソワしたり胸がきゅってしたり、そんなのちっとも感じた事がなくて、
だけどセヴィは元々のんびり屋だから、きっとそういう感情も皆より少し遅いんだろう、なんて思っていた。
それなのにあの日、
セヴィはドキドキもソワソワも胸がきゅってしたりもないまんま、
突然何もかも、全部を奪われてしまった。
クードはセヴィに向かって何度も愛してると口にしていた。
『愛』ってなんだろう、とセヴィは思う。
苦しくて恐いだけのアレが、愛を伝えあうための、そして子を成すための交わりだという事は、セヴィだって気づいてる。
だけどそれはあんなに一方的に、ろくな会話も出来ずにただただ貪り尽くされるだけのものなのかしら、
こんなのが『愛』なのかしら、と。
村の女の子たちが話していたキラキラふわふわした、楽しそうな雰囲気の『恋』。
それとは全然違う、ただただ苦しくて恐いだけのクードからの『愛』。
それともそれが『恋』と『愛』の違いなのかしら
みんな、恋の後にはこうなってしまうのかしら──
考えたってちっとも分からなくて、セヴィはまたぽろりと涙を零す。
「おうちに帰りたいの……父さんや母さんに会いたい……」
ポロポロと涙をこぼすセヴィに、それでしたら、とレナードが指を立てた。
「ご実家へ帰して差し上げる事は出来ませんが、手紙を書くのはどうですか?すぐに私がご家族に持って行って、そして返事を頂いて参りましょう」
「お手紙……良いの?」
「はい」
微笑まれて、セヴィはすぐにレナードが用意してくれた便箋で家族に手紙を書いた。
狼に番だと言われたこと、
今はその人のおうちにいること、
すぐにでも帰りたいけれど、しばらくは帰れそうにないこと、
だけど必ず帰るから心配しないでねと最後に添えて、丁寧に手紙をたたむとレナードに渡す。
レナードはその手紙を受け取ると、ではすぐに届けてまいりますねと部屋を出て行った。
布団に包まったまんま、またしくしくと泣き出してしまったセヴィに、レナードとメイドたちは顔を見合わせる。
そしてレナードが進み出て、優しい声音で話し始めた。
「セヴィ様、狼族にとって番というのは唯一の存在なのです。番と出逢った狼は、生涯その番だけを愛し守ります。そして出逢ったばかりの数ヶ月、狼は番との愛を育み深める為に二人きりで籠るものなのです」
「籠る……?」
「はい。その期間は、番の姿が見えないだけで落ち着かなくなるんです。その期間の事を『蜜月』と言います」
クード様にとっては今がその蜜月期間です、と言われて、セヴィはそろりと布団から目だけを覗かせる。
「でも、あの人は離れていても平気そうだわ。だからきっと私がおうちに帰ったって……」
セヴィがそう言うと、レナードはそうではありません、と首を振る。
「クード様は、今はただ耐えていらっしゃるだけなのです。屋敷の中であればセヴィ様の気配は感じられるので、かろうじて耐えられているのです。この屋敷からセヴィ様がいなくなれば、恐らくクード様は狂ってしまいます」
「狂う………?」
大袈裟な、と思ったセヴィに、レナードがまた小さく首を振る。
「狼にとって番はそれだけ大切な存在だという事です。番が亡くなった時には、狂うか、衰弱して亡くなるか、というくらいに──ですから、特に今この蜜月期間中に、狼が番と離れて暮らすなんて事は出来ないんですよ」
そう言われて、セヴィの垂れ耳が更にしょぼんと垂れ下がった。
クードがセヴィに酷く執着しているという事は、さすがのセヴィにも分かる。
どうやらそれが『愛』というものらしい、という事も。
町に出るのが恐かったセヴィは、ほとんどの時間を兎族の村の中だけで過ごしてきた。
村の中の男の子で誰が人気があるかは知っていたし、女の子が集まれば誰それが好きだとか、誰々はあの子と付き合い始めたらしいとかそういう話にだってなったけれど、セヴィにはそもそも『好き』がよく分からなかった。
皆が言うドキドキしたりソワソワしたり胸がきゅってしたり、そんなのちっとも感じた事がなくて、
だけどセヴィは元々のんびり屋だから、きっとそういう感情も皆より少し遅いんだろう、なんて思っていた。
それなのにあの日、
セヴィはドキドキもソワソワも胸がきゅってしたりもないまんま、
突然何もかも、全部を奪われてしまった。
クードはセヴィに向かって何度も愛してると口にしていた。
『愛』ってなんだろう、とセヴィは思う。
苦しくて恐いだけのアレが、愛を伝えあうための、そして子を成すための交わりだという事は、セヴィだって気づいてる。
だけどそれはあんなに一方的に、ろくな会話も出来ずにただただ貪り尽くされるだけのものなのかしら、
こんなのが『愛』なのかしら、と。
村の女の子たちが話していたキラキラふわふわした、楽しそうな雰囲気の『恋』。
それとは全然違う、ただただ苦しくて恐いだけのクードからの『愛』。
それともそれが『恋』と『愛』の違いなのかしら
みんな、恋の後にはこうなってしまうのかしら──
考えたってちっとも分からなくて、セヴィはまたぽろりと涙を零す。
「おうちに帰りたいの……父さんや母さんに会いたい……」
ポロポロと涙をこぼすセヴィに、それでしたら、とレナードが指を立てた。
「ご実家へ帰して差し上げる事は出来ませんが、手紙を書くのはどうですか?すぐに私がご家族に持って行って、そして返事を頂いて参りましょう」
「お手紙……良いの?」
「はい」
微笑まれて、セヴィはすぐにレナードが用意してくれた便箋で家族に手紙を書いた。
狼に番だと言われたこと、
今はその人のおうちにいること、
すぐにでも帰りたいけれど、しばらくは帰れそうにないこと、
だけど必ず帰るから心配しないでねと最後に添えて、丁寧に手紙をたたむとレナードに渡す。
レナードはその手紙を受け取ると、ではすぐに届けてまいりますねと部屋を出て行った。
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