番なんて知りません!

桜月みやこ

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第二部

02. 使用人たちの想い

「それじゃあ行ってきます」

クードに抱き上げられたまま、とても嬉しそうな笑顔で手を振っているセヴィに、レナードを筆頭とした見送りに出ていた使用人たちは皆零れそうになった涙をぐっと堪えた。

クードが突然セヴィを連れ帰ってきたあの日、「ついに主にも運命の番が見つかった!」と屋敷中が沸き立った。
けれどそんなお祝いムードはすぐに暗雲が立ち込めて、そして皆が最悪の事態を想像するまでになったのだが──

よくぞあの状況からここまで見事なまでのラブラブっぷりに発展したものだと、ここ三月ばかり屋敷内で存分にイチャつきっぷりを見せつけられてはいたものの、ようやくセヴィが外出できるところまで来た──番として確かな愛情を育んだのだと、使用人たちが改めて実感出来た瞬間だったのだ。

勿論狼族同士の番ではないから、いつかセヴィの愛情が薄れるという可能性もなくはないが、セヴィは兎族だ。

兎族は一度親愛の情を抱いた相手には──特にそれが恋や愛の類となると殊更べったりと甘えたがる性質を持っている。
これはきっと末永く幸せな未来になるに違いない。兎族は狼族の番としては中々に適しているのではないかと、
ここのところの二人を見ていた使用人達は主の番が兎族で良かったと、心底思うようになっていた。

甘えたがりな兎族の性質もそうだが、何せセヴィ本人が小さくて可愛らしい。
兎族の中でも特に庇護欲をくすぐると、世間一般から見ても人気の高い垂れ耳にくるりとした丸い目。
柔らかなクリーム色の毛色そのままのような、ふわふわとした優しく穏やかな性格。
見た目もその性質も、癒し以外の何物でもない。
更には言動に多少の幼さを残しつつもクードに愛され倒されているせいか、まるで硬かった蕾が大輪の花を咲かせたようなセヴィの変わり様にも屋敷中の者達は皆すっかりと虜になっていたから、セヴィが主の番として落ち着いたという事は本当に喜ばしい事だった。


「さぁ、お戻りになられたセヴィ様をお祝いする為に、早めの準備を」

レナードがぱんっと手を叩くと、使用人達は我に返ったように各々の仕事場へと散って行った。
そんな中、シェーラだけが足を止めて不思議そうにレナードを見上げる。

「あのぅ……今日のお出掛け先って、何か特別だったんですか……?」

そんな質問をして来たシェーラに、レナードは一つ瞬きをしてから隣に立っているカーサを見た。

「シェーラはうっかりとセヴィ様に漏らしてしまいそうだったので」
「あぁ、なるほど。賢明です」
「……え?知らないの私だけですか?」
「シェーラとセヴィ様だけ、かしらね」

ほほほと笑ったカーサに、シェーラはえぇぇ?と情けない声を出した。

「お二人は今日どこに向かわれたんですかぁ??」

もう聞いても大丈夫ですよね!?と言うシェーラに、カーサはうふふと楽しそうに笑ってから、それはね、と口を開いた。


❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊

結局セヴィは屋敷からずっと、クードの左腕にお尻を預ける形で抱き上げられたまま町の中心地──色々な店が建ち並ぶ大通りにやって来ていた。

これなら見知らぬ人とぶつかってしまう事もないわね、と納得はしつつも、町中では顔が知れ渡っているらしいクードが女性を抱いている姿はやはり目立つのかすれ違う人たちからチラチラと視線を向けられて、その上「あれがクード様の……」というような小さな声があちこちから聞こえて来るものだからセヴィは落ち着かない気分になってしまう。

「あの、クードさま……歩いちゃだめですか……?」

恥ずかしいですと訴えてみたけれど、もうすぐ着くからと言われてさっくりと却下されてしまった。

「恥ずかしがることなんてないだろう?セヴィは俺の番だ。堂々としていれば良い」
「うぅ……たくさんの人から見られる事なんてなかったので……恥ずかしいし、何だか落ち着きません……」

そう言って顔を伏せてしまったセヴィに、そういえばほとんど村から出なかったと言っていたかと、クードは小さな頭をくしゃりと撫でると「それならこうしていると良い」と自分の肩口にセヴィの頭を引き寄せる。
これはこれで恥ずかしい……と思ったけれど、自分の視界が閉ざされたせいか幾分気が楽になったセヴィは、クードの温もりを感じる事だけに集中する事にした。


セヴィがクードの肩に顔を埋めて暫く、もうすぐという言葉の通りに、クードが一軒の店の前で足を止めた。
そうしてそっと地面に下ろされたセヴィは、わぁっと瞳を輝かせる。

そこはどうやらドレスを扱っている店のようで、入り口の左手のショーウィンドウには豪華なドレスが飾られている。
うっとりとドレスを見上げていたセヴィは、大きな手で頭をぽんぽんと叩かれてクードを見上げた。

「行くぞ」

短くそう言われて腰を引き寄せられて、セヴィはきょとんとしたままその店へと足を踏み入れた。

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