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第二部
11. 叫びたくなっちゃった
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食堂内が綺麗に飾り付けられているものの、クードとセヴィの席はいつもと同じ隣合わせだった。
出て来た料理もその料理が乗った皿も、いつもよりももっと高級そうで豪華なものになっていたけれど、その盛り付けは変わっていない。
クードのメインの皿には薄切りの肉が、セヴィのサラダ皿にはセヴィ一人では食べきれないくらいのサラダが。
マナー的にはとても行儀が悪い事なんだろうとセヴィも分かってはいるけれど、交換こは嬉しくて幸せで、やめる事が出来ずに今でもずっと続けている。
普段と様子の違う食卓に少しばかり緊張していたセヴィも、クードがサラダを食べる姿にふわりと緊張が解ける。
飲んだ事がないからといつもは遠慮していた食前酒も、お祝という事なら……と少し口をつけてみたら、それがとても甘くて美味しくてすっかりと気に入ってしまった。
そんな風にいつもと違う夕食を終えたセヴィは自室に戻ると、買って貰った裁縫箱を眺める。
悩んで悩んで選んだのは木製の三段箱で、表面には花や葉の細やかな彫刻が施されている。
上品かつとても可愛らしいそれは一目見た時から気に入っていたけれど、三段もいるかしら?私が持ち運ぶには重すぎるかしら?籐の籠の方が軽いし良いかも……なんてぐずぐずと悩んでいたセヴィの視線を正しく読んだらしいクードに「これだな」と半ば強引に決められてしまった。
実家にいる時は、母や姉たちと一つの裁縫箱を皆で使っていた。
自分だけの裁縫箱が持てるだなんて思ってもみなかったそれを目の前にして、本当に良いのかしらという遠慮のような、申し訳なさのような、何とも複雑な気持ちがまだ残っていないわけではないけれど、それでもやっぱりこうして自分の部屋に、自分だけの裁縫箱が置かれていると心の奥の方から嬉しさが込み上げて来る。
何だかソワソワしてしまって、セヴィはぱっと立ち上がるとクードの部屋へと続く扉を叩く。
そうして普段なら寝支度を整えてからやって来るはずのセヴィが駆け込んできた事に、クードは少し驚いたようだった。
「どうした?何かあったか?」
心配そうに抱き上げてくれたクードの首にぎゅうっと抱き着いて、セヴィはうー、と小さく呻くような声を上げた。
「今日一日で色々ありすぎて……。クードさまと二人でお出掛け出来て、姉さんと会えて、たくさんお話をして、お披露目も姉さんと一緒に出来る事になって、お裁縫箱まで買って貰えて。そこまででとってもとっても、ものすごぉーく嬉しかったのに、帰ってきたら今度は皆さんからお祝いだなんて……何だかもう嬉しすぎて幸せ過ぎてどうして良いのか分からなくて、わーーって叫びたくなっちゃったんです」
「……そうか」
ふっと可笑しそうに笑ったクードの大きな手でわしゃわしゃと頭を撫でられて、セヴィはまたうーっと唸ってクードに抱き着いている腕に力を込めて、クードの肩口にぐりぐりと額を押し付ける。
「叫ぶなら叫んで構わないぞ──それとも、協力した方が良いか?」
「……協力?」
少しだけ顔を上げて頬に鼻先を擦り付けてくるセヴィの髪を梳くように撫でると、クードはするりと手を滑らせてセヴィの頬を撫でる。
そうして軽く顎を持ち上げられたところで、セヴィはクードの言葉の意味に気付いたのか、もう、と頬を染めた。
「クードさまはすぐ……」
「嫌ならしないが」
「……嫌、では、ありませんけど………」
「なら協力は惜しまない方が良いな」
口端を上げてそう言ったクードの足は既に寝室へ向いている。
「あ、あの、でもまだお風呂………」
「別に気にしない」
「気……気にして下さい……っ」
「どうせドロドロになるんだ、気にしても仕方ないだろう?」
「ドロドロ……」
ぽっと頬を染めたセヴィに、クードが可笑しそうに笑う。
「何だ、今更照れる事もないだろう」
「そうかもしれませんけど……と、とにかくお風呂には入りた……あっ」
ぽすんっといつの間にか到着していた寝台に下ろされてしまって、セヴィは足をバタつかせる。
「クードさ……んっ」
覆い被さってきたクードに唇を塞がれて、足も、押し返そうとした手も、あっさりと押さえ込まれてしまう。
浅く、深く、繰り返されるキスに、セヴィの身体からふにゃりと力が抜ける。
「ん……クードさま……」
それでもまだ緩く首を振っているセヴィにどうしたと問えば、セヴィはとろんとしたままクードを見上げて「座ってください」とクードのシャツの裾を引く。
寝台から逃げ出す気配ではなさそうだと、クードがヘッドボードに背を預けるようにして座ってみると、身体を起こしたセヴィがクードに跨ってくる。
そうしてクードの胸にもたれ掛かるようにぺったりとくっついてキスをされて、クードは片眉を上げた。
ちゅっちゅっと小さなキスを繰り返していたセヴィの唇が、クードの唇から頬へ、そして首筋に落ちていく。
「──珍しいな。どうしたんだ?」
セヴィの髪を緩く撫でると、セヴィは甘えるようにクードの首筋に鼻を擦り付けて、そうしてほんの少し身体を離す。
「今日は本当に嬉しくて幸せで……叫びたいけど叫べないので、クードさまを襲ってみるんです」
「襲われるのか、俺が」
くっと喉を鳴らしたクードに、セヴィははい、と鼻を、頬を、擦り寄せる。
「だから、今日はクードさまは動いちゃだめですよ」
出て来た料理もその料理が乗った皿も、いつもよりももっと高級そうで豪華なものになっていたけれど、その盛り付けは変わっていない。
クードのメインの皿には薄切りの肉が、セヴィのサラダ皿にはセヴィ一人では食べきれないくらいのサラダが。
マナー的にはとても行儀が悪い事なんだろうとセヴィも分かってはいるけれど、交換こは嬉しくて幸せで、やめる事が出来ずに今でもずっと続けている。
普段と様子の違う食卓に少しばかり緊張していたセヴィも、クードがサラダを食べる姿にふわりと緊張が解ける。
飲んだ事がないからといつもは遠慮していた食前酒も、お祝という事なら……と少し口をつけてみたら、それがとても甘くて美味しくてすっかりと気に入ってしまった。
そんな風にいつもと違う夕食を終えたセヴィは自室に戻ると、買って貰った裁縫箱を眺める。
悩んで悩んで選んだのは木製の三段箱で、表面には花や葉の細やかな彫刻が施されている。
上品かつとても可愛らしいそれは一目見た時から気に入っていたけれど、三段もいるかしら?私が持ち運ぶには重すぎるかしら?籐の籠の方が軽いし良いかも……なんてぐずぐずと悩んでいたセヴィの視線を正しく読んだらしいクードに「これだな」と半ば強引に決められてしまった。
実家にいる時は、母や姉たちと一つの裁縫箱を皆で使っていた。
自分だけの裁縫箱が持てるだなんて思ってもみなかったそれを目の前にして、本当に良いのかしらという遠慮のような、申し訳なさのような、何とも複雑な気持ちがまだ残っていないわけではないけれど、それでもやっぱりこうして自分の部屋に、自分だけの裁縫箱が置かれていると心の奥の方から嬉しさが込み上げて来る。
何だかソワソワしてしまって、セヴィはぱっと立ち上がるとクードの部屋へと続く扉を叩く。
そうして普段なら寝支度を整えてからやって来るはずのセヴィが駆け込んできた事に、クードは少し驚いたようだった。
「どうした?何かあったか?」
心配そうに抱き上げてくれたクードの首にぎゅうっと抱き着いて、セヴィはうー、と小さく呻くような声を上げた。
「今日一日で色々ありすぎて……。クードさまと二人でお出掛け出来て、姉さんと会えて、たくさんお話をして、お披露目も姉さんと一緒に出来る事になって、お裁縫箱まで買って貰えて。そこまででとってもとっても、ものすごぉーく嬉しかったのに、帰ってきたら今度は皆さんからお祝いだなんて……何だかもう嬉しすぎて幸せ過ぎてどうして良いのか分からなくて、わーーって叫びたくなっちゃったんです」
「……そうか」
ふっと可笑しそうに笑ったクードの大きな手でわしゃわしゃと頭を撫でられて、セヴィはまたうーっと唸ってクードに抱き着いている腕に力を込めて、クードの肩口にぐりぐりと額を押し付ける。
「叫ぶなら叫んで構わないぞ──それとも、協力した方が良いか?」
「……協力?」
少しだけ顔を上げて頬に鼻先を擦り付けてくるセヴィの髪を梳くように撫でると、クードはするりと手を滑らせてセヴィの頬を撫でる。
そうして軽く顎を持ち上げられたところで、セヴィはクードの言葉の意味に気付いたのか、もう、と頬を染めた。
「クードさまはすぐ……」
「嫌ならしないが」
「……嫌、では、ありませんけど………」
「なら協力は惜しまない方が良いな」
口端を上げてそう言ったクードの足は既に寝室へ向いている。
「あ、あの、でもまだお風呂………」
「別に気にしない」
「気……気にして下さい……っ」
「どうせドロドロになるんだ、気にしても仕方ないだろう?」
「ドロドロ……」
ぽっと頬を染めたセヴィに、クードが可笑しそうに笑う。
「何だ、今更照れる事もないだろう」
「そうかもしれませんけど……と、とにかくお風呂には入りた……あっ」
ぽすんっといつの間にか到着していた寝台に下ろされてしまって、セヴィは足をバタつかせる。
「クードさ……んっ」
覆い被さってきたクードに唇を塞がれて、足も、押し返そうとした手も、あっさりと押さえ込まれてしまう。
浅く、深く、繰り返されるキスに、セヴィの身体からふにゃりと力が抜ける。
「ん……クードさま……」
それでもまだ緩く首を振っているセヴィにどうしたと問えば、セヴィはとろんとしたままクードを見上げて「座ってください」とクードのシャツの裾を引く。
寝台から逃げ出す気配ではなさそうだと、クードがヘッドボードに背を預けるようにして座ってみると、身体を起こしたセヴィがクードに跨ってくる。
そうしてクードの胸にもたれ掛かるようにぺったりとくっついてキスをされて、クードは片眉を上げた。
ちゅっちゅっと小さなキスを繰り返していたセヴィの唇が、クードの唇から頬へ、そして首筋に落ちていく。
「──珍しいな。どうしたんだ?」
セヴィの髪を緩く撫でると、セヴィは甘えるようにクードの首筋に鼻を擦り付けて、そうしてほんの少し身体を離す。
「今日は本当に嬉しくて幸せで……叫びたいけど叫べないので、クードさまを襲ってみるんです」
「襲われるのか、俺が」
くっと喉を鳴らしたクードに、セヴィははい、と鼻を、頬を、擦り寄せる。
「だから、今日はクードさまは動いちゃだめですよ」
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