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週末、廃墟。

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 週末。
 天気のいい田舎駅。
「おまたせ、赤尾くん」
 僕の次の列車で彩奈さんたち三人は来た。これからひどい場所に行くとは思えない軽装だ。
「ええと、メグさんと樋場さん、だよね」
 あまり話したことのない相手の名前を確認。間違っている可能性もあり、その場合は終わりだったが、どうやら僕は賭けに勝ったらしい。挨拶をして、先へ向かう。急に僕を誘った彩奈さんも大概だが、この二人もどこか少しおかしいんじゃないだろうか。それとも、廃墟は出かけ先としてポピュラーなのだろうか。
 田舎道を歩く。遠くから犬が盛んに吠える声が聞こえる。最近は何故かよく聞く、威嚇の声。
「で、彩奈はなんで赤尾くんを呼んだんだっけ」
 メグさんの質問。そして、僕は三人以上で喋る場合は聞き手に回ることにしている。
「ボディーガードとして、なのよね。強いって聞いたから」
「本当に、強いの?」
 樋場さんが疑問げに僕を見る。カラーコンタクトに射すくめられたような気分になって、僕は足を遅くした。えーと、
「弱いよ」
 樋場さんはやっぱりというようにこちらから視線を外した。本当になんで呼んだのよ、そう環さんがこぼす。また彩奈さんが口を開き、
「じゃあ、生贄っていうのは?廃墟の幽霊とか、怪物とかの」
 僕を生贄にするために呼んだ?
「ちょっと彩奈」
 二人が慌てて彼女を咎めるような発言をする。こそこそ話すように。何か少しおかしい。休日にそこまで親しくない女子たちと廃墟に行くっていうのが既におかしいのはわかっている。それとは違う違和感。
「彩奈さんは、廃墟好きなの?」
 僕は質問する。一瞬の間ののち、本人が口を開き、
「いえ、環が好きなのよ」

 森の中へ分け入って数分すると、廃墟が先の方に見えた。獣道のような道があり、案外歩きやすい。あれが古いトンネル?僕の視線に応えたように、彩奈さんが口を開き、
「あれはトンネルの近くにある古い家屋よ」
 という。風化しかけたコンクリートから鉄骨がのぞいており、大部分は残っていそうだ。
「せっかくだからあれにも入るわよ」
 明らかに危なそうだが、とりあえず従おう。樋場さんがポケットの中に手を入れていたのがなぜか目に付いた。

 前に彩奈さんと環さん、後ろに僕と樋場さんで進んでいく。中は薄暗い。ライトは彩奈さんが持っている。
「ちょっと、怖いね」
 樋場さんが話しかけてくる。見返すと、不意に彼女は僕をえいっと軽く突き飛ばしてきた!
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