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ワンちゃんを幸せにするのはご主人様のつとめですから

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「へ?」

素敵な夜を過ごした新妻に対して何を怒っていらっしゃるのか。私はキョトンとしつつも、一つ思いついた心当たりに、優しくお姉さんの微笑を浮かべて慰めた。

「あっという間にイッちゃったから気にしてるの?初めてなんだもの、仕方ないわよ。私も気持ちよかったから気にしないで?次はもっと頑張ればいいじゃない」
「うるさぁあああいっ!!」

しかし逆効果だったらしい。
ルークはぶわっと瞳に涙を盛り上がらせて、完全に泣き出す寸前の顔で、なんとか涙声を搾り出した。

「おまえ、許さないからな!覚えておけ!」

捨て台詞を吐いて半泣きで夫婦の寝室から逃げ出していく年下の狼くんに、私は笑顔で手を振った。

「はーい、また明日もお待ちしておりますね!ルークっ♡」
「待つな!来ないからな!」

遠くから叫び返す声が返ってくるが、まぁ明日も来るだろう。あのタイプの受けは必ず「今度こそ俺が上に立つ!勝つぞ!」て毎晩攻めのところにやってきてはコテンパンのトロントロンにされる運命なのよ。まぁ、受けって言ってるけど、ルークは私の旦那様なんだけどね。精神的には私×ルークのカップリングで良いと思うのよ。

「いやぁ、天下の闇狼皇帝が、人間の女から攻められるなんて思ってもなかったんだろうなぁーしどろもどろになっちゃって可愛いのぉ」

ニヤニヤしながら一人で巨大な寝台に大の字になり、私はさっきまでのルークの様子を思い返して声を出して笑った。

「ファーストキスの夢を壊しちゃったのは悪かったかなぁ?でも『あ、可愛いなぁ』と、ついテンション上がっちゃったんだもん、仕方ないよねぇ!あれこそ煽ったお前が悪いってやつよ!」

勝手すぎるとかコンプラだとかで、令和の時代には廃れていた攻め様発言を引っ張り出して、私は一人ウンウンと頷く。

「なんにせよ明日からも楽しみだわ~。やはりこれも、獣耳系BLを前世でよく嗜んでいたおかげだわ!BLは身を助くってやつね!」

前世では周りに引かれていたけれど、やはりBLは素晴らしい。世界を超えても大丈夫なように、生きる術を教えてくれるのだ。

「ルーク様はねぇ、やっぱり狼とは言えワンちゃんだから、やはり根がMだと思うのよ。ご主人様がいた方が安らげると思うわけ。そう、私みたいな優しいご主人がねっ」

図々しく自分で言い切り、私は我ながら良い考えだなと頷く。これくらい図太く生きていくのが、転生しても幸せに生きるコツなのだ。

「さて、明日はどうやってルーク様と遊ぼうかなぁ~。犬ってお尻の匂い嗅いでどっちが上か決めるんだっけ?これもいつかやってみたいなー。狼獣人でも使えるんかな?」

私が前世の半端な知識を引っ張り出してきて、とんでもないことを思いついているなんて露とも知らず、その夜ルークは城の鍛錬場で泣きながら一晩中剣を振るっていたらしい。
人間の女にいいように扱われた屈辱を剣を振りまくって忘れようとしたんだとか。
後にそれを聞いて、私は床を叩いて爆笑した。

「あははははっ、そりゃ無駄でしたねー」
「そうだな、翌日の方が酷い目に遭ったからな。そしてその翌日の方が更に悲惨な目に遭ったしな」

尻の匂いを嗅がれて屈辱のあまり獣化したり、人間の女に押し倒されて獣化したり、いろいろあった日々を思い出したのだろう。
初夜の日より少し大人になったルークは、達観したように苦笑した。

「お前と結婚してしまった時点で、俺の負けは決まっていたんだろうなぁ……」
「父上、止まっちゃだめ!」
「はいはい」
「ふふふふっ」

我が子のお馬さんとして床を這っている愛しの旦那様を見下ろして、私はコロコロと笑い飛ばした。

「あら、負けても良いじゃないですか。幸せでしょう?」
「相変わらずすごい自信だな、お前は」
「当然ですわ、母は強しと申しますからね」

ため息まじりに感嘆するルークも、目尻に笑いが滲んでいる。私はまんまるに膨らんだ臨月の腹を撫でながら、少しお疲れのルークと元気一杯な息子に向かってパチンとウインクをした。

「ご安心なさいな。私がルーク様に今後毎日を更新させてあげますから」

ワンちゃんを幸せにするのは、ご主人様の務めだからね!









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予約を1ヶ月ミスしていたことに気がつきました。最終話の公開遅くなってすみません。
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みんなの感想(1件)

きかる
2024.01.09 きかる

すごく面白かったです😆闇皇帝も腐女子には、勝てずwwべそをかいて、剣を振るう闇皇帝を想像したら、笑いが止まりません🤣楽しいお話ありがとうございました😃

トウ子
2024.01.09 トウ子

ありがとうございます!笑って頂けて嬉しいです🥳
腐女子に遊ばれる(?)可哀想可愛い皇帝くんが大好きなので、また書けたら書きたいです〜!

解除
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