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しおりを挟む「ユウリ、君にこの事態の説明を願おうか」
王城の王太子執務室で、厳しい顔をしているのは、我が婚約者の王太子殿下その人だ。
「この事態とは、どの事態でしょうか」
「ふざけた返しをするな!お前の学園内での振る舞いについて、数多の訴えがある。申し開きがあるなら言うが良い」
大真面目でキツく睨みつけて威圧してくる王太子には悪いが、ふざけているわけではない。俺は本気で聞いているのだ。
「と、言われましても心当たりが……」
首を傾げながら王太子を真正面から見返した。しかし王太子は、サファイヤのような深い青の瞳に怒りの焔を燃え立たせて、さも忌々しそうに俺を睨みつけた。
「良い加減にしろ!惚けても無駄だぞ。証拠はあがっているんだ」
証拠ってなんの証拠だよ。
内心ツッコミながら、俺はじっくりと王太子を観察した。
(えー、めっちゃ怒ってんじゃん)
激昂のあまり、プラチナブロンドの短髪が猫の威嚇のごとく逆立ちそうなレベルである。
(えー?なんでそんな怒ってる?そこまで怒らせるようなこと、した覚えがないんですけど?)
本気で皆目見当が浮かない。理由も分からず、キレてる王太子の相手をするのがすごく嫌だ。理由が分かっても嫌だけど。
(はぁあああ、だりぃいいい)
この高慢な仔猫チャンは、一体何をそんなにキレているのか。俺は心底面倒くさくなりながら、ネチネチと俺の「悪行」とやらを並べ立てる王太子の前で、一応神妙な顔をキープした。
王太子が話している内容は、随分と今更な内容ばかりで、これまではコイツもそんなに問題視していなかったはずだ。
(今更どうした?なんで急に俺の素行に注目しだした?これまで俺になんか興味ゼロだったくせに)
俺達は政略で結びついた、愛のない婚約者同士である。
学園にくる前は行事がある時以外は、時々王城で顔は合わせるくらいだった。今は学園での接触が少し増えたくらいで、ほとんど関わりがない。どうやら俺は王太子の好みではないらしく、なんとなく嫌われていることも察している。
まぁ俺も、コイツの構ってチャンかつ察してチャンで、全人類が俺様のために動いて当然って思ってそうなところが相当ムカつく。顔は生母様に似て可愛いくせに、態度は超デカくて、いつも俺に対して上から目線だし、偉そうだ。いずれは伴侶になるっていうのに、全く尊敬の念が感じられない。そんな相手に、王太子だからって立ててやるつもりもサラサラないので、俺は機会さえあれば常にコイツを正面から叩きのめしている。正々堂々の機会、つまり剣術の試合や学力考査などである。
そんなわけで、若干険悪なのは仕方ない。俺達は距離を取ることで平穏を保てるタイプの関係性なのである。
「……と聞いている。これには証人が何人もいて、それぞれ裏も取った。そして、二週間前の薬学実験室でも、……」
(えー、いつまで話すんだコイツ)
なんか知らんけど俺の被害にあったという方々の訴えや、その証言、証拠を王太子は一つ一つ生真面目に挙げ列ねている。だが、全部誤解だぞ、それ。皆さん揃いも揃って被害妄想が強すぎないだろうか。それとも、こんなに沢山の人間が「被害」と感じるのならば、やはり俺の美貌は圧が強すぎるのだろうか?
そんなことを考えながら、同じような話を続ける王太子の話を聞き流していたら。
「……そして、何より罪が重いのは、お前が王国に幸をもたらす者を害したことだ」
「は?」
とんでもなく意味不明なことを言われた。
「お前は、我が王国に豊かな実りと平穏をもたらす、聖なる存在を害したのだ。国家反逆罪とも言える。その罪は万死に値するぞ」
「……はぁ!?」
青筋を立てながら、大真面目な口調で謎発言をぶっ放す王太子に、俺は仰天して飛び上がりそうだ。
全然思い当たる節がないんですけどー!?と叫び出しかけて、俺はふと何かが引っかかった。
(聖なる存在……?なんかそんな話、昨日したな)
そして俺は記憶を辿るべく、昨夜のコーネンとのピロートークを思い出した。
(聖なる……聖魔法……聖者?あ、もしかして!)
思い出せた。
やはりピロートークは大切にするべきだ。前世の教訓が、ここに生きた。これからも前戯より、後戯とピロートークを重要視しよう。
怒り狂う王太子の前で、俺は心地よい達成感と共にそう決意した。
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