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凡庸で無能な王太子
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さて。
学院に入学して二年目の終わり。
アサとヨルにお誘いがあった。
凡庸で無能な王太子の婚約者としてのお誘いだ。
つまりは、この魔女の国の女王候補への正式決定通知である。
「あら、とうとう」
「あら、やっと」
残念そうな顔のヨルと、楽しげに目を輝かせるアサは、ひらひらと紙の羽を羽ばたかせる魔法の鳥を見上げた。鳥自体が魔法紙でできていて、そこに魔女王からの正式なお知らせ文が書いてある。可愛らしいがちゃんとした公式文書だ。
「もうアナタと楽しく愉快に過ごすだけの日々は終わってしまうのね。少し残念よ」
「あら、これからも楽しく愉快に戦えば良いじゃない。とても楽しみよ」
ギラギラと燃える目で見つめられ、ヨルは「それもそうね」と吐き出した。
「私は手加減しないわよ。死ぬ気でかかってきてね?アサ」
「もちろんよ。まぁ死なないけど、常に殺す気でかかってくるヨルが私は大好きよ」
「死を恐れないアナタが私も大好きよ」
ふふふと笑いながら、二人はそれぞれ目の前に浮かぶ紙の鳥を握り潰す。白と黒の二人の魔力に焼かれた紙はハラハラと崩れ落ち、輝く粉となって消えた。
魔女王からの呼び出しに出向いた先で正式に意を問われた二人さもちろん頷き、翌月には国民の前で、二人並んで挨拶をした。
「「私たちは己の全魔力を賭けて、どのような恐ろしい魔法も躊躇うことなく使い、どのような悍ましい魔法も恥じることなく用いて、魔女王の座を争い合うことを誓います」」
晴れやかな宣誓の言葉とともに、なんでもありの魔女王決定戦の開幕である。
「もうすぐ王太子殿下がご入学されるぞ」
「殿下はどちらを選ばれるのかしら」
「それはやはり、全ての面で秀でているヨルさんでしょう?」
「そうそう、ヨルさんは次々と新薬を発明しているし、呪術の講義でも失われた古代の復活魔法を解明したんだぞ?」
「ヨルさんは稀代の天才だ、魔女王に相応しい」
「でも攻撃と破壊に優れているのはアサさんよ!国の防衛を考えたら、アサさんの方が上だわ」
「社交的で交渉上手なアサさんなら、外交手腕もありそうだし、ヨルさんみたいに喧嘩しなくても国を平和におさめてくれそうだわ」
「ヨルさんは教官の先生方とすら、うまくやれていないのだもの。他国との関係が悪化したら厄介極まりないわ」
侃侃諤諤、魔法学院の学生たちも王太子の入学を緊張と期待と恐怖の中で待ち望んでいた。
入学式の朝。
新入生代表として挨拶したのは、入学試験首席者ではなく、王太子だった。
凡庸で優しげな少年だが、嫌味なところはなく、素直そうだった。
大変扱いやすそうな年頃の男の子を、三歳上のアサとヨルの二人がどう扱うのか、学院中が固唾を飲んで見守った。
「殿下、私はヨルと申します。よろしくお願いいたしますわ」
「私はアサと申しますわ。王子様も、学院生活を存分に楽しみましょうね?」
「ありがとう。先輩としていろいろ教えて欲しい」
優しく挨拶した二人に、王太子はニコニコと嬉しそうに言った。
「僕は魔法学院に入学するのもギリギリだったから、君たちには迷惑かけるかもしれないけど、よろしく頼む」
わずかに恥じらいに頬を赤らめながらも、王太子は特に恥じることなく二人に頼んだ。
この国では、王太子が無能であることは、むしろ喜ばしいことなので、王太子は自分が出来ないことをあまり気にしていないのだ。
「もちろんですわ、可愛い王子様」
「精一杯お世話させて頂きますよ」
目を細めてコロコロ笑うアサと、くすくす微笑みながら頷くヨル。
二人の美少女に、王太子は照れて高揚しながらも「よろしく頼む」ともう一度頷いた。
学院に入学して二年目の終わり。
アサとヨルにお誘いがあった。
凡庸で無能な王太子の婚約者としてのお誘いだ。
つまりは、この魔女の国の女王候補への正式決定通知である。
「あら、とうとう」
「あら、やっと」
残念そうな顔のヨルと、楽しげに目を輝かせるアサは、ひらひらと紙の羽を羽ばたかせる魔法の鳥を見上げた。鳥自体が魔法紙でできていて、そこに魔女王からの正式なお知らせ文が書いてある。可愛らしいがちゃんとした公式文書だ。
「もうアナタと楽しく愉快に過ごすだけの日々は終わってしまうのね。少し残念よ」
「あら、これからも楽しく愉快に戦えば良いじゃない。とても楽しみよ」
ギラギラと燃える目で見つめられ、ヨルは「それもそうね」と吐き出した。
「私は手加減しないわよ。死ぬ気でかかってきてね?アサ」
「もちろんよ。まぁ死なないけど、常に殺す気でかかってくるヨルが私は大好きよ」
「死を恐れないアナタが私も大好きよ」
ふふふと笑いながら、二人はそれぞれ目の前に浮かぶ紙の鳥を握り潰す。白と黒の二人の魔力に焼かれた紙はハラハラと崩れ落ち、輝く粉となって消えた。
魔女王からの呼び出しに出向いた先で正式に意を問われた二人さもちろん頷き、翌月には国民の前で、二人並んで挨拶をした。
「「私たちは己の全魔力を賭けて、どのような恐ろしい魔法も躊躇うことなく使い、どのような悍ましい魔法も恥じることなく用いて、魔女王の座を争い合うことを誓います」」
晴れやかな宣誓の言葉とともに、なんでもありの魔女王決定戦の開幕である。
「もうすぐ王太子殿下がご入学されるぞ」
「殿下はどちらを選ばれるのかしら」
「それはやはり、全ての面で秀でているヨルさんでしょう?」
「そうそう、ヨルさんは次々と新薬を発明しているし、呪術の講義でも失われた古代の復活魔法を解明したんだぞ?」
「ヨルさんは稀代の天才だ、魔女王に相応しい」
「でも攻撃と破壊に優れているのはアサさんよ!国の防衛を考えたら、アサさんの方が上だわ」
「社交的で交渉上手なアサさんなら、外交手腕もありそうだし、ヨルさんみたいに喧嘩しなくても国を平和におさめてくれそうだわ」
「ヨルさんは教官の先生方とすら、うまくやれていないのだもの。他国との関係が悪化したら厄介極まりないわ」
侃侃諤諤、魔法学院の学生たちも王太子の入学を緊張と期待と恐怖の中で待ち望んでいた。
入学式の朝。
新入生代表として挨拶したのは、入学試験首席者ではなく、王太子だった。
凡庸で優しげな少年だが、嫌味なところはなく、素直そうだった。
大変扱いやすそうな年頃の男の子を、三歳上のアサとヨルの二人がどう扱うのか、学院中が固唾を飲んで見守った。
「殿下、私はヨルと申します。よろしくお願いいたしますわ」
「私はアサと申しますわ。王子様も、学院生活を存分に楽しみましょうね?」
「ありがとう。先輩としていろいろ教えて欲しい」
優しく挨拶した二人に、王太子はニコニコと嬉しそうに言った。
「僕は魔法学院に入学するのもギリギリだったから、君たちには迷惑かけるかもしれないけど、よろしく頼む」
わずかに恥じらいに頬を赤らめながらも、王太子は特に恥じることなく二人に頼んだ。
この国では、王太子が無能であることは、むしろ喜ばしいことなので、王太子は自分が出来ないことをあまり気にしていないのだ。
「もちろんですわ、可愛い王子様」
「精一杯お世話させて頂きますよ」
目を細めてコロコロ笑うアサと、くすくす微笑みながら頷くヨル。
二人の美少女に、王太子は照れて高揚しながらも「よろしく頼む」ともう一度頷いた。
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