百合戦争〜アサとヨルは魔女王になるために王太子殿下を堕としたい〜

トウ子

文字の大きさ
6 / 11

舞踏会のパートナー

しおりを挟む


「学年末の舞踏会で王太子のパートナーはヨルに決まったらしい!」
「そりゃほとんど決定じゃないか!?」
「いやまだ分からんぞ!王太子の成人までまだ時間はある」

この国では女は十八、男は十六で学院を卒業し、成人となる。
魔力の強い女の方が、成人して未成年に課されていた様々なが解除された時に起こる事故の被害が大きいため、より慎重を期されるためだ。

「アサとヨルのお二人は、もう十八で成人か」
「未成年制限を解除されたお二人の魔法はえげつないだろうなぁ」
「楽しみだなぁ」

国民たちは、王都のあちらこちらで好き勝手噂しているのであった。





そんな訳で、ヨルが暫定婚約者の座を手に入れた。
まだ正式決定ではないとはいえ、アサは切歯扼腕して悔しがった。美しい顔立ちも見えなくなるほどの憤怒である。

「ヨル、ヨル!さすがに卑怯よ!あなた、あんな子供相手に色仕掛けしたでしょう!?」
「アサ、アサ、何を言っているの?」

キョトンとした顔を作って、ヨルはふふっと笑った。

「アナタとの勝負の時に手を選んでなんていられないわ。なんでもありよ」

ウフフといやらしく笑った後で、ヨルは堪りかねたようにオホホホホと高笑いする。

「お綺麗なアサ。光り輝くアサ。そんなものだけじゃ、ヨルには勝てないわよ」
「……ヨル」

馬鹿にしたような笑い声を残して去っていくヨルを、アサは月のない夜のように真っ黒な目で見つめた。








「ねぇ王子様、お隣よろしくて?」

野外授業でヨルとアサは別班のリーダーとして行動している。今日は王太子はアサの班員だ。昼食時、他の班員から距離を取られて一人モサモサと食べている王太子に、アサは声をかけた。

「もちろんだよ、アサ」

にこにこと返答するのは、考えが浅くて可愛い十四歳だ。事実上「選ばなかった」方の女から誘われても、何も考えずに嬉しそうに頷く。男の子は、綺麗なお姉さんはみんな好きなのだ。

「では遠慮なく」
「えっ」

すとん、と腰を下ろしたのは本当に真隣。ぺったりとくっつくほどに近い距離だ。

「ア、アサ?」

ドキドキとときめいているらしい王太子に、アサはニコリと微笑みかけ、手を握った。

「ねぇ王子様、ヨルとばかりではなく、私とも距離を縮めて相互理解を深めましょ?…お嫌?」

これまでこのような直接的アプローチに出たことがないアサの行動に王太子の顔は真っ赤だ。嫌なわけはない、と首を振るだけで精一杯。

「あぁ、よかった!」

嬉しそうに言って腕に抱きつくアサ。胸もしっかり腕に押し付けている。見た目よりわりとボリューミーな膨らみが王太子の腕で潰され、王太子は我が腕をガン見していた。

「うわーやってるー」
「ヨルさんに負けそうだからって、手段選ばなすぎでは」
「アサさん、そういう手に出るんだ……」

周りが失望と軽蔑まじりきひそひそ囁く声など、勝負がかかっているので手が選んでいられないアサの耳には馬耳東風だ。ちなみに王太子はおっぱいのインパクトが強すぎて何も聞こえていない。

「ヨルさんは流し目とか、さりげないタッチとかしてたけどね」
「いやあれはヨルさんの色気があったから成立するんだろ」
「まぁ、アサさんじゃね、色気って感じじゃないし」
「明るく物理的に距離縮めるのはキャラクター的には正解では」 


など冷静で辛口な女子の批評も聞こえぬふりだ。
わざとらしく王太子の体に手や足で触れていたヨルのアプローチを真似ても、本当に偶然だと思われるだけだと判断したアサは、ぐいぐい迫ることに決めたのだ。
正々堂々戦っていては、ヨルには勝てないので。

しかし、一度決まった舞踏会のパートナー、すなわり仮婚約を覆すのは、なかなか難しい。

王太子も気が早かったと後悔した。
アサに好かれていると早合点した王太子は、真に愛する相手を選び、将来は愛し愛された結婚をしたいと夢見ている。王太子は愚かだったので、自分がアサに愛されていると思っていた。
なんなら、ヨルを愛人にしてアサを妻にするのが理想だなとか、クズいことも考えている。根がアホなのだ。魔女王の伴侶としてのみ存在が許される彼に、そんな真似が許されるわけもないのに。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...