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仕掛けた夜這い
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なんでもありの女王争奪戦である。
殺し合う代もあるくらいだ。
体で落とすのも反則というわけではない。
もちろん、そんな魔女王の素質と関係のないところでの汚い手は、一般的に忌み嫌われる。
なんなら魔法での殺し合いの方が美徳とされている。
けれど、でもまぁ、汚い手を使えるのも為政者の証と言えばそれはその通りなのだ。だから、アサに恥じるところはない。
どんな手を使っても、勝てばよいのだから。
しかし、ヨルは充分に卑怯で狡猾だった。
全力の隠形魔法を使い、密かに王太子の部屋に忍んで行ったはずなのに、翌朝には噂が出回っていた。つまりヨルの仕業だ。アサの本気を看破できるのは、この学院でヨルだけなのだから。
「見て、アサよ」
「よくもまぁ、そんな卑怯な手を使って、普通の顔していられるわね」
「魔力でも魔法でもヨルさんに敵わないと認めたんだろう」
「魔女の力ではなく、女のチカラを使うなんて、勝ったところで卑しい勝利だな」
「アサが王位を継いでも尊敬できる気がしないね」
「でもまぁ、目的のためには手段を選ばないのは、為政者にとって必要なことかもよぉ?」
「どんな手を使っても、この国を守ってくれそう」
「ほかの国の王様を寝取ってか?」
「あはははははっ」
揶揄と軽蔑と呆れと憎悪。
害意溢れる周囲の空気に、これまで滅多に人から悪意を向けられたことのないアサは、かなり参ってしまった。
卑怯な手段に出た女として蔑まれ、行き場をなくしたアサは、心配してやってきた王太子に、よよと泣きながら縋った。
「もうだめですわ。私には未来がございません」
かよわく儚い風情で泣き濡れるアサは、普段と違ってひどく弱々しい。その姿に、幼稚ながらも一人の男として、王太子は奮起した。
これはなんとかするしかない。
おれが!この俺が!
と。
しかし、頭もそんなに良くない王太子は、しばらく悩んだ後で結果アサに相談した。
「君はどうしたい?」
「……ヨルと代わりとうございます」
一瞬の沈黙の後、アサははっきりとそう告げた。
それは婚約者として、という意味ではない。
なにもかもを、ヨルと代わりたいという意味だ。
「私とヨルの体を入れ替えましょう。こんな噂の染みついた体では、魔女王になるのに差し障りがありますもの」
「なっ!?」
驚愕のあまり、言葉を失って瞠目する王太子に、アサは切々と訴えた。
「禁書庫で入れ替わりの術を見つけたのです。このカラダを捨てて、ヨルと入れ替わりとうございますの。それには……殿下の魔法のお力が必要ですわ。私だけでは無理ですの」
アサの言葉の衝撃に固まっている王太子は凡庸だが、なんだかんだ言って魔女王の息子だ。実は魔力だけは十二分にある。
「ねぇ、私の王子様、あなたの魔力を貸してくだされば、術自体はきっと完遂できるでしょう。……いいえ。私ならば、絶対にできますわ」
「そんな……禁忌と呼ばれは術ではないのか……?」
「危険ではありますが、私には必要な魔法なのです。ねぇ、私を愛して下さっているのならば、どうか頷いてくださいまし、私の王子様」
「だが、それは、その……失敗したら、どうなるのだ?」
「入れ替わりが出来ないだけですわ。なんということもございません」
いくつかの危険性に口をつぐみ、アサはなんでもないことのように微笑んだ。
「ならば……やろう。その禁術を」
「あぁ、ありがとうございますっ、愛しておりますわ!私の愛しの君っ!」
大袈裟に喜び愛を歌い上げながら、アサは自分よりは背の高い、しかしほっそりとした王太子の体に抱きついた。柔らかな二つの双丘を王太子の胸板に押し付けながら、口元には薄暗い笑みを掃く。
この勝負は、これで終わりだ、と。
王太子の無駄に有り余る魔力を拝借して、アサは禁呪と呼ばれる魔法に手を出すことに決めたのだ。
禁忌とされるに相応しい、使用者と非使用者、二人の魂を害する可能性のある、大変危険な術だ。失敗すれば魂に傷がつき、二度と転生出来なくなる可能性もある。どこまでも非人道的で非倫理的な術だ。
もし失敗すれば、目が覚めたヨルに、確実に糾弾されるだろう。
そうなれば、確実に魔女王候補からは外される。
勝っても負けても。
この勝負は、これで終わりだ。
殺し合う代もあるくらいだ。
体で落とすのも反則というわけではない。
もちろん、そんな魔女王の素質と関係のないところでの汚い手は、一般的に忌み嫌われる。
なんなら魔法での殺し合いの方が美徳とされている。
けれど、でもまぁ、汚い手を使えるのも為政者の証と言えばそれはその通りなのだ。だから、アサに恥じるところはない。
どんな手を使っても、勝てばよいのだから。
しかし、ヨルは充分に卑怯で狡猾だった。
全力の隠形魔法を使い、密かに王太子の部屋に忍んで行ったはずなのに、翌朝には噂が出回っていた。つまりヨルの仕業だ。アサの本気を看破できるのは、この学院でヨルだけなのだから。
「見て、アサよ」
「よくもまぁ、そんな卑怯な手を使って、普通の顔していられるわね」
「魔力でも魔法でもヨルさんに敵わないと認めたんだろう」
「魔女の力ではなく、女のチカラを使うなんて、勝ったところで卑しい勝利だな」
「アサが王位を継いでも尊敬できる気がしないね」
「でもまぁ、目的のためには手段を選ばないのは、為政者にとって必要なことかもよぉ?」
「どんな手を使っても、この国を守ってくれそう」
「ほかの国の王様を寝取ってか?」
「あはははははっ」
揶揄と軽蔑と呆れと憎悪。
害意溢れる周囲の空気に、これまで滅多に人から悪意を向けられたことのないアサは、かなり参ってしまった。
卑怯な手段に出た女として蔑まれ、行き場をなくしたアサは、心配してやってきた王太子に、よよと泣きながら縋った。
「もうだめですわ。私には未来がございません」
かよわく儚い風情で泣き濡れるアサは、普段と違ってひどく弱々しい。その姿に、幼稚ながらも一人の男として、王太子は奮起した。
これはなんとかするしかない。
おれが!この俺が!
と。
しかし、頭もそんなに良くない王太子は、しばらく悩んだ後で結果アサに相談した。
「君はどうしたい?」
「……ヨルと代わりとうございます」
一瞬の沈黙の後、アサははっきりとそう告げた。
それは婚約者として、という意味ではない。
なにもかもを、ヨルと代わりたいという意味だ。
「私とヨルの体を入れ替えましょう。こんな噂の染みついた体では、魔女王になるのに差し障りがありますもの」
「なっ!?」
驚愕のあまり、言葉を失って瞠目する王太子に、アサは切々と訴えた。
「禁書庫で入れ替わりの術を見つけたのです。このカラダを捨てて、ヨルと入れ替わりとうございますの。それには……殿下の魔法のお力が必要ですわ。私だけでは無理ですの」
アサの言葉の衝撃に固まっている王太子は凡庸だが、なんだかんだ言って魔女王の息子だ。実は魔力だけは十二分にある。
「ねぇ、私の王子様、あなたの魔力を貸してくだされば、術自体はきっと完遂できるでしょう。……いいえ。私ならば、絶対にできますわ」
「そんな……禁忌と呼ばれは術ではないのか……?」
「危険ではありますが、私には必要な魔法なのです。ねぇ、私を愛して下さっているのならば、どうか頷いてくださいまし、私の王子様」
「だが、それは、その……失敗したら、どうなるのだ?」
「入れ替わりが出来ないだけですわ。なんということもございません」
いくつかの危険性に口をつぐみ、アサはなんでもないことのように微笑んだ。
「ならば……やろう。その禁術を」
「あぁ、ありがとうございますっ、愛しておりますわ!私の愛しの君っ!」
大袈裟に喜び愛を歌い上げながら、アサは自分よりは背の高い、しかしほっそりとした王太子の体に抱きついた。柔らかな二つの双丘を王太子の胸板に押し付けながら、口元には薄暗い笑みを掃く。
この勝負は、これで終わりだ、と。
王太子の無駄に有り余る魔力を拝借して、アサは禁呪と呼ばれる魔法に手を出すことに決めたのだ。
禁忌とされるに相応しい、使用者と非使用者、二人の魂を害する可能性のある、大変危険な術だ。失敗すれば魂に傷がつき、二度と転生出来なくなる可能性もある。どこまでも非人道的で非倫理的な術だ。
もし失敗すれば、目が覚めたヨルに、確実に糾弾されるだろう。
そうなれば、確実に魔女王候補からは外される。
勝っても負けても。
この勝負は、これで終わりだ。
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