腐れ縁の公爵令息に契約結婚を迫られていますが、離婚してくれなさそうだから嫌です

トウ子

文字の大きさ
12 / 65
番外編

うちの坊ちゃんはちょっとおかしい(2)庭師

しおりを挟む
「ねぇトム、この蝶々どう思う?」
「へ?蝶々だなぁと思いますが」

庭師の俺にも気さくに声をかけてくださるのは、公爵家のコーリー坊ちゃんだ。本当に身分に分け隔てなく接してくださるお優しい方で、見た目もまるで天使のような美しさだ。だが、中身はちょっとというか、だいぶ狂っている。

「そうか!トムがそう思うならきっと大丈夫だな!」
「は?」

坊ちゃんの滅多にないほどの輝く笑顔。先ほどまるで天使のようだと思った芸術品のようなお顔に、禍々しい笑みを浮かべる悪魔に被って見えた。

「えっと、坊ちゃん……?」

なんとも言えない不安を覚えて、俺はつい尋ねてしまった。

「その……ひらひら飛んでる綺麗な四枚の羽がついてる物体、もしや蝶々じゃないんですかね?」
「鋭いね!これは……蝶々型用心棒だよ!」
「ようじんぼう……用心棒?」

なぜそんなものを……と言いかけて、ふと思い当たる可能性に俺は口をつぐんだ。一人のご令嬢の姿が脳裏に浮かび、たらり、と嫌な汗が背中を伝う。

「この蝶々はね、僕の分身なんだ!ひらひらと漂うただの美しい蝶々に見えるけどね、この子が見たもの聞いたことは全て僕に伝わるんだよ!」
「それは……大層……」

大層ヤベェものをお作りになられたようで。

思わず口にでかけた台詞を必死に飲み込む。
そして俺は、怖いもの見たさで、つい、用途を聞いてしまった。

「そりゃもちろん、カミラの護衛さ!」
「……さようでございますか」

だろうなーと思いながらも、俺は内心で頭を抱えた。
妙齢のご令嬢にそんなものをつけちゃいけないよ。それは犯罪者のやることだよ、坊ちゃん。

「最近カミラにストーカーがいるようなんだ。色んなものがなくなるし、しょっちゅう視線を感じるらしくて。カミラを守るために僕が徹夜で作り上げたのがこの蝶々さ!」
「な、なるほど……」

すでに坊ちゃんという、すごくやばいストーカーがいるのに、カミラ様はお可哀想なお方だ。貴族のお嬢さんに対して失礼かもしれないが、俺は心の底から気の毒になった。そして親御さんの心境を思うと居た堪れない。自分の娘がこんな綺麗な顔して権力も能力も十二分に備えた、えげつない変態に目をつけられているなんて、わりと悲劇だ。

「その蝶々は……ちゃんと、時と場を選んで、目隠ししたり音を止めたりは、できるんですかね?」

まさか寝室や風呂場や便所にはついていかねぇだろうな?と思って恐々と尋ねれば、眉を顰めた坊ちゃんは不愉快そうに口を尖らせた。

「馬鹿を言うな」
「そ!そうですよね!」

さすがにそんな真似はしないよな、と安心した俺が甘かった。

「それじゃあカミラを守りきれないじゃないか!一瞬の油断が命取りになるかもしれないんだぞ!?」
「…………そ、そうですね…………」

分かっていないなと言わんばかりに俺を見てくるが、どう考えても坊ちゃんの方がおかしい。

「カミラに危機が及んだと判断したら、この愛らしく儚げな蝶々が、カミラを除く半径三メートル以内の森羅万象を焼き尽くすんだよ!可愛い顔して最強!まるで僕そのもののような、素晴らしい護衛だろう?」
「ちなみに……その『危機』の判断は、どなたが?」
「無論僕さ」
「な、るほど……」

だがわかる。これはだめだ。俺が何か話しても聞いてもらえるとは思えない。どうしよう。坊ちゃんは便所の中までついて行く気満々だ。

「さて、さっそくカミラのところに飛ばしてみるよ!トム、邪魔してすまなかったね、ありがとう!」

颯爽と立ち去る坊ちゃんを俺は座り込んだまま呆然と見送った。

「とりあえず、アイラ様に報告しとくか……」

俺は悄然としながら立ち上がって、侍女頭の元に向かう。アイラ様にどうにかできるとも思えないが、俺は覗きやストーカー行為の片棒を担ぎたくはないのだ。

「はぁ……カミラ様、なんもできねぇ俺をお許しください……自力で逃げてください……」

坊ちゃんは使用人にとっては大変いい主人だが、執着される側になったらとんでもなく厄介なおひとだ。あの最恐の変態に目をつけられたのが運の尽きとも言える。



翌日まで、どうなることやらと俺は戦々恐々としながら過ごしたのだが、どうやらカミラ様は速攻で対処されたようだ。

「坊ちゃんは昨日から部屋に引き篭ってます」
「頬っぺたに真っ赤な手跡をつけていました」
「かなり強力な平手打ちをされた痕だと思う」
「また坊ちゃん何かやらかしたんだろうねぇ」

複数の使用人の話を聞いて俺は心の底から安堵した。
流石カミラ様である。坊ちゃんを掌の上で転がすだけある。ただものではない。願わくば、どうにか便所と風呂場に侵入される前に気がついているといいな……。

「坊ちゃん、今後は変態行為は控えてくださると良いんだがな……」

まぁ無理だろうな。坊ちゃんは己の行動が変態そのものだと気がついていないから。

「はぁ……カミラ様、俺はぁあなた様のお幸せを心から祈っておりますよ……」

坊ちゃんからは逃げられないと思うから、そのうちこの家にカミラ様もお住まいになるのだろう。もしいらっしゃったら、好きなお花をお聞きして、たくさん植えて差し上げよう。少しでもお心を慰められるように。

「俺たち使用人の身の安全のためにも、ぜひ早めに嫁いできて頂きたいもんだ……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...