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14.「違う。そうじゃない」
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かわいいっていってくれたらいいなとは思った。
確かに望んだ。
だけれども、違う。望んだのはこうじゃない。
「ちょ、テオテオテオ! ね? これやめよ???」
エマは隣を歩くテオフィルスにかろうじて聞こえる大きさの声で抗議した。
「ん? やめない。エマは気にしなくてもいいよ?」
曇りの無いきれいな笑顔=うそ臭い笑顔でテオフィルスは答える。
テオは気にしなくても私は気にするわああああ! と声にならない声で叫ぶと、エマはテオフィルスを睨む。
どうしてこうなったぁ……。
エマは自分の頬が強張るのを感じた。
ここは生徒であふれる昼休みのカフェテリアである。
しかも生徒棟に一番近く、一番大きく、一番利用人数の多いカフェテリア。
味も悪くなく、値段もそこそこの人気店だ。
その混雑した中で、エマはテオフィルスにがっちり腰に手を回され密着した状態で歩いていた。
時折顔を寄せ目線を合わせて何かをささやきあっている様子は、誰が見てもどこから見ても仲睦まじい恋人同士だ。
しかも空気が読めないくらいの過度ないちゃつきバカップル。
二人が歩みを進めるたびに、混みあったカフェテリアの通路から生徒が消える。
前世のモーゼかよっ……。
エマは心の中で思わず突っ込みを入れた。
つい15分前のことだ。
午前の終了のチャイムがなりカレンとお昼の相談をしていると、6年棟からいつの間にかテオフィルスが来ていた。
最初に気が付いたのはカレンだった。
「あらソーン先輩、こんにちは。ご用件は?」
「こんにちは。ヴァーノンさん。申し訳ないけど、エマ借りるね?」
といつもの愛想のいい笑顔で言うと、カレンの返事も待たずに強引に廊下に連れ出されたのだ。
「何?? どうしたの??」
困惑顔のエマを前に、テオフィルスは日ごろからそうするのが自然であるかのように手を握った。
「腹減った。昼飯いこ」
とだけいい、生徒でひしめく廊下を歩き出した。
すれ違う同級生が皆こちらを振り返る。
彼らは隠しもしない好奇の視線を浴びせ、あまり注目されることの無かったエマは羞恥で顔が赤く染まった。
学校の廊下で異性と手をつなぐなんて前世でもなかったことだ。
ていうか高校時代なんて彼氏すらいなかった。
同級生が彼氏と手を組んでるのみてうらやましいと羨んだものだ。
だけど、自身がするとなったら……。
もぉほんと勘弁して。
恥ずかしい……。
何とかして開放されないか、エマは考えを巡らした。
好機はすぐに来た。
「ソーン先輩」
遠慮がちに後ろから声する。
「文化祭の第七ステージで確認取りたいことがあるんですが、少しいいですか? 時間はとりません」
振り返ると小柄な男子生徒がたっている。
文化祭実行委員会のメンバーのようだ。
一瞬テオフィルスの手が離れた。
エマはチャンスとばかりにさっと距離を置く。
心臓に悪いわ。
エマはほっと息をついた。
テオフィルスは視線を動かすことなく、今度はエマの腰に手を回し引き寄せた。
見た目と違って腕力があるのかテオフィルスの腕はびくともせず、離れることも出来ない。
テオフィルスが実行委員と話している間、エマは身の置き場がなかった。
その流れで今である。
「ね、テオ。ちょっと腰に回ってる手、緩めて??」
近い、近すぎる。
体は隙間無く密着し、顔も触れ合わんばかりだ。
「緩めると逃げるだろ?」
「逃げるけどっ!」
テオフィルスの腕にさらに力が入った。
「じゃあしばらくこのままだね」
甘い声で耳元にささやく。
あまりの甘さ具合に遠くのほうから女子生徒の黄色い声が上がった。
なんだこれ。
エマはこの状態に頭がついてこない。
誰なんだ、この隣に居る男は。
私の知っているテオフィルスじゃない。
そういえば朝からテオフィルスはおかしかった。
カレンの家にお呼ばれした翌日、つまり今朝からテオフィルスの自分への態度が明らかにいつもと違っていた。
教室へ向かうため寮を一歩出たとたん、テオフィルスは何も言わずエマの右手を繋いできたのだ。
当然のことだが各寮の生徒の通学ラッシュの時間帯だ。
周りにはたくさんの生徒がいる。
生徒からも教師からも信望をおかれているテオフィルスは、“真面目で紳士”と認知されている。
特に女子には高潔で決して感情的な態度を出さなかった。
そんなテオフィルスの公衆の面前で繰り広げられるこの立ち振る舞いに、他寮の生徒からざわめきがおこった。
同寮の生徒たちは騒ぎはしなかった。
が、生暖かい視線は感じる。
視線がつらい……生暖かいって……。
エマは焦って手を振り払おうとしたが、かえって前世でいう“恋人つなぎ”で指を絡めとられ解くことができなくなった。
並んで歩くイビスを見上げるとイビスは軽く微笑んだだけで、そのままテオフィルスと世間話を始め、助けてくれることは無く……。
5年棟のエントランスで開放されたときは、心底安堵したものだ。
のに。
現状である。
まじ何事??
テオフィルスに案内され、カフェテラスの隅のテーブル席に付いたころには、エマは疲労困憊であった。
教室からここまでの、ほんのわずかな時間で消耗しきってしまい、テーブルに突っ伏してしまった。
もう逃げる気力すらない。
もうだめだ。HPなんぞ残ってないよ??
確かに望んだ。
だけれども、違う。望んだのはこうじゃない。
「ちょ、テオテオテオ! ね? これやめよ???」
エマは隣を歩くテオフィルスにかろうじて聞こえる大きさの声で抗議した。
「ん? やめない。エマは気にしなくてもいいよ?」
曇りの無いきれいな笑顔=うそ臭い笑顔でテオフィルスは答える。
テオは気にしなくても私は気にするわああああ! と声にならない声で叫ぶと、エマはテオフィルスを睨む。
どうしてこうなったぁ……。
エマは自分の頬が強張るのを感じた。
ここは生徒であふれる昼休みのカフェテリアである。
しかも生徒棟に一番近く、一番大きく、一番利用人数の多いカフェテリア。
味も悪くなく、値段もそこそこの人気店だ。
その混雑した中で、エマはテオフィルスにがっちり腰に手を回され密着した状態で歩いていた。
時折顔を寄せ目線を合わせて何かをささやきあっている様子は、誰が見てもどこから見ても仲睦まじい恋人同士だ。
しかも空気が読めないくらいの過度ないちゃつきバカップル。
二人が歩みを進めるたびに、混みあったカフェテリアの通路から生徒が消える。
前世のモーゼかよっ……。
エマは心の中で思わず突っ込みを入れた。
つい15分前のことだ。
午前の終了のチャイムがなりカレンとお昼の相談をしていると、6年棟からいつの間にかテオフィルスが来ていた。
最初に気が付いたのはカレンだった。
「あらソーン先輩、こんにちは。ご用件は?」
「こんにちは。ヴァーノンさん。申し訳ないけど、エマ借りるね?」
といつもの愛想のいい笑顔で言うと、カレンの返事も待たずに強引に廊下に連れ出されたのだ。
「何?? どうしたの??」
困惑顔のエマを前に、テオフィルスは日ごろからそうするのが自然であるかのように手を握った。
「腹減った。昼飯いこ」
とだけいい、生徒でひしめく廊下を歩き出した。
すれ違う同級生が皆こちらを振り返る。
彼らは隠しもしない好奇の視線を浴びせ、あまり注目されることの無かったエマは羞恥で顔が赤く染まった。
学校の廊下で異性と手をつなぐなんて前世でもなかったことだ。
ていうか高校時代なんて彼氏すらいなかった。
同級生が彼氏と手を組んでるのみてうらやましいと羨んだものだ。
だけど、自身がするとなったら……。
もぉほんと勘弁して。
恥ずかしい……。
何とかして開放されないか、エマは考えを巡らした。
好機はすぐに来た。
「ソーン先輩」
遠慮がちに後ろから声する。
「文化祭の第七ステージで確認取りたいことがあるんですが、少しいいですか? 時間はとりません」
振り返ると小柄な男子生徒がたっている。
文化祭実行委員会のメンバーのようだ。
一瞬テオフィルスの手が離れた。
エマはチャンスとばかりにさっと距離を置く。
心臓に悪いわ。
エマはほっと息をついた。
テオフィルスは視線を動かすことなく、今度はエマの腰に手を回し引き寄せた。
見た目と違って腕力があるのかテオフィルスの腕はびくともせず、離れることも出来ない。
テオフィルスが実行委員と話している間、エマは身の置き場がなかった。
その流れで今である。
「ね、テオ。ちょっと腰に回ってる手、緩めて??」
近い、近すぎる。
体は隙間無く密着し、顔も触れ合わんばかりだ。
「緩めると逃げるだろ?」
「逃げるけどっ!」
テオフィルスの腕にさらに力が入った。
「じゃあしばらくこのままだね」
甘い声で耳元にささやく。
あまりの甘さ具合に遠くのほうから女子生徒の黄色い声が上がった。
なんだこれ。
エマはこの状態に頭がついてこない。
誰なんだ、この隣に居る男は。
私の知っているテオフィルスじゃない。
そういえば朝からテオフィルスはおかしかった。
カレンの家にお呼ばれした翌日、つまり今朝からテオフィルスの自分への態度が明らかにいつもと違っていた。
教室へ向かうため寮を一歩出たとたん、テオフィルスは何も言わずエマの右手を繋いできたのだ。
当然のことだが各寮の生徒の通学ラッシュの時間帯だ。
周りにはたくさんの生徒がいる。
生徒からも教師からも信望をおかれているテオフィルスは、“真面目で紳士”と認知されている。
特に女子には高潔で決して感情的な態度を出さなかった。
そんなテオフィルスの公衆の面前で繰り広げられるこの立ち振る舞いに、他寮の生徒からざわめきがおこった。
同寮の生徒たちは騒ぎはしなかった。
が、生暖かい視線は感じる。
視線がつらい……生暖かいって……。
エマは焦って手を振り払おうとしたが、かえって前世でいう“恋人つなぎ”で指を絡めとられ解くことができなくなった。
並んで歩くイビスを見上げるとイビスは軽く微笑んだだけで、そのままテオフィルスと世間話を始め、助けてくれることは無く……。
5年棟のエントランスで開放されたときは、心底安堵したものだ。
のに。
現状である。
まじ何事??
テオフィルスに案内され、カフェテラスの隅のテーブル席に付いたころには、エマは疲労困憊であった。
教室からここまでの、ほんのわずかな時間で消耗しきってしまい、テーブルに突っ伏してしまった。
もう逃げる気力すらない。
もうだめだ。HPなんぞ残ってないよ??
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