異世界での殺人識別

紅しゃけ

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第四話 雨

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 死んだ、
 死んだ、
 大切な友人が⋯、俺の大好きだった友人が⋯⋯。
 悪辣で卑怯な手を使うようなやつに殺された。
 しかもサイコロ状に、細切れに。
 ⋯雨が降ってきた、邪魔だ。

 どうしてだ?どうしてだ?
 何がどうしてこうなった?
 あれがこうしてそれがどうしてそれがああしてああがこうなって⋯。
 あぁ、怖い⋯、震えが、吐き気が、あぁ⋯!!

 「あぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 「心情スキル魔法、乱心渦(ロドゥラ)だァ、錯乱状態になって、最悪の場合死すだろう。短かな命だったな!笑 自分を失ったまま死んでろクソ雑魚が」
 「許さない、許さないっ、許さない!!」
 「なんだなんでお前は正気なんだ、正気なやつはしゃしゃり出てくんなよ!黙ってろよ!!」
 「黙るもんですか!!絶対に貴方を逃さない⋯!!海に沈めてでも貴方を殺す⋯⋯!!」
 「あぁ捕まえてみろよ殺してみろよ!今の俺はいつでも逃げれるんだぜ??」
 「くっ⋯、じゃあ、一つだけ教えなさい。あの爆発音は、なんだったの?」
 「爆発音?あぁ、お前らが来る前の。あれは合図だ。それ以外に変な意味はない。どうせお前らは俺に勝てなかっただろうからさ、せめて狼煙ぐらいは上げさせてやろうと思ってな。」
 「そう。」
 「自分から言っておいてその態度はねぇぜ⋯。でも、逃がしてくれるんだよな?」
 「いつかは貴方を殺すつもりだけどね⋯、私も特訓しなくちゃ隆真さんの役に立てないんですよ。」
 「っ、ははっ!なんだか舐められてるようで嬉しくねぇが、そんなことはどうでもいい。早く研究室に戻らねぇとな。じゃあなヘボ助ども!次会う時はきっとあの世だぜ」
 「それは貴方でしょ、クソ雑魚さん⋯!!えいっ⋯!」

 (そう言って美浦が投げて、覆面の男に付けたものは、警察で言うGPS的なもの。)

 美浦は怒りと憎しみ、悔しさがくしゃくしゃになって合わさったような、おどろおどろしい表情で、去っていく覆面の男を睨みつけた。
 そして、消えたのを確認し、表情を変え、悲しさを隠す優しくないような優しい顔で隆真の髪を撫でた。
 もう隆真は立ち上がる気力が湧かない。
 小癪な術に惑わされ、自問自答を繰り返しているだけだ。
 隆真は友人が死ぬ時、膝から崩れ落ち、雨で濡れたつるやかな前髪で、前が見えないように俯いていた。
 もし目が拝めたのなら、色は何色なのだろうか。
 まぁ、聞かなくても想像できような。
 答えはきっと、なにもなくて純粋で、恐ろしく、悍ましいような黒⋯、だった。
 無慈悲に降る雨に負けず劣らずの、何処までも続く黒だった。
 美浦はそれを全部わかったかのように隆真をおんぶし、物悲しくとぼとぼと歩き出した。
 今、彼女の抱えた感情も、きっと複雑なものだろう。

 「⋯⋯でゅふ、ちょっと可哀想な状況に、させちゃったでゅふね⋯。隆真、ごめんでゅふ。」

(補足)異世界で言うスキル⋯⋯特有の技が出せる、チート級だったりするもの。
この世界で言うスキル⋯⋯魔法だけに限定されるもので、属性や技は多種多様で、自由にそれっぽい技が作り放題のものである。ただ、使いこなせる人間は現時点で十数人程度。
魔力を練る⋯⋯魔力を込めるの言い換え。(前の話推奨)

 ♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦

 一方少し前、傘たちと謎の化け物との交戦にて―(視点:傘)

 「魔物スキル拳術⋯、裂(さく)!」

 魔物スキル拳術⋯?聞いたことないわよそんなスキル!
 自我も持ってるし、喋れるし、悪魔みたいに気持ち悪いし⋯。
 デカめの魔物と相対した時は、魔物スキルだけで、拳術は入ってなかったんだけど⋯。
 もしかしてこの魔物、自我を持って喋ってるだけじゃなくて、誰かに仕えてるって感じなの⋯!?
 だってそうじゃなきゃ、名前なんて変えられないはずだもの!人間は例外だけど⋯。

 「ま、魔物拳術!?キモいくせにそんな技を⋯!傘、避けて!」
 「⋯ふっ!危ないわねぇ⋯。ありがとう露ちゃん!」
 「ほ、褒めても⋯う、嬉しくなんか~!!」
 「魔物も拳術を使えるとは、思いませんでしたね⋯。」
 「爪の攻撃⋯、当たったら致命傷間違いなしね。」

 爪の周りに毒みたいなのが纏わりついているから、躱せたとしてもギリギリだとしたら、毒が一瞬で体内に流れて即死⋯。
 どちらにしろ死んでたってことか⋯、恐ろしすぎて吐きそうね。
 幼い頃散々跳躍力鍛えてたから、それがようやく役に立ったわ⋯!

 「よくぞ避けたな女よ。」
 「魔物に褒められても嬉しくないのだけど?」
 「ふっ、釣れない女だ。だが、この程度の攻撃が避けられたからと言って、調子に乗るでないぞ!魔物スキル拳術、両裂(ふさく)!」

 両側から来る⋯!
 さっきのは私に標的が向いていたから良かったけど、両側から攻撃されたら、露ちゃん達も避けなきゃよね⋯!!

 「みんな、遠くへ避けて!」
 「⋯!!」

 よし、全員避けれたみたいね⋯!!
 でも一体、次は何が来るの⋯?

 「⋯、これも躱かわすか。なら⋯、広範囲攻撃はどうだ!魔物スキル拳術、痺毒吐息(しびどくはぁす)!」

 しびどくはぁす!?もっと聞いたことない技が繰り出されたわね!
 ⋯!?息で攻撃を!?広範囲攻撃ということは、拡散攻撃でもあるってわけね⋯!
 しかも、さっきの毒と同じ毒みたいね⋯。
 すっごく厄介で攻撃出しにくいのだけど!怠いわほんと!!

 「なんだそれ⋯!?気持ち悪い名前だな!脳掻っ切るぞ!!」
 「んなこと言ってる場合か露!⋯守護!!」
 「あ、あ⋯、あんがとよ⋯⋯!」
 「礼なんてらしくねぇぞ露!引き続き、気合い入れろ!!」
 「んなこと、言われなくてもわかってるよ遊雅⋯っ!!」
 
 これも避けれた、良かった。
 でもこれでより一層、油断できなくなったわね⋯。
 単体攻撃、両側の攻撃、広範囲攻撃もとい拡散攻撃となると、次は何⋯⋯?

 「魔物スキル拳術、獅子突進(ししゃくとっしん)!」
 「と、突進!?拡散の次は突進かよ!気持ち悪っ!!」
 「何でもありかよ、すげぇなこの魔物⋯!」
 「もう拳術関係なくないですか⋯?」
 「そんなこと言ってないで、早く飛んで攻撃を避けなさいっ!!」
 「「「は、はいっ!!」」」

 この市街地は道幅が6メートル、馬車2個分か3個分入るか否かの狭さ⋯。
 そんな状態で突進されたら、空中に避けるしか方法はない。
 拡散攻撃も多少はしてきているから、そこら辺は守護シールドで防げばいい。
 私が声を掛けてるから、それに合わせて皆が防げてる⋯、まぁ良い調子。
 でも、拡散攻撃のあとは突進技なんて⋯、気味悪いだけじゃなくて頭も良いのねこの化け物。
 みんな避け続けてたり防いだりしてるせいで、体力めっちゃ消耗してるみたいだし⋯。
 攻撃を出したらすぐ次の攻撃を出そうとする⋯、そのせいで隙がほぼないから、反撃も全然できない。
 腹立つけど、強いことを認めざるを得ないわ。
 ものすっごいムカつくけど。

 「これも避けられたか⋯!なら、魔物スキル拳術、鹿威(ししおどし)!これはどうだァ!!」
 「と、飛んで⋯⋯、こっち目掛けて⋯⋯、落ちてきたぁ!?」
 「落下攻撃って、そんなのありかよ⋯⋯。」
 「拳じゃなくて、身体で戦ってるじゃないですか⋯⋯。」
 「そう来たのね、化け物⋯!」
 「嫌だ⋯、こんなやつの腹に敷かれて死にたくない!僕の体を汚したくない!嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」
 「ちょ、露ちゃん!?」
 「反撃守護!!」
 「し、守護に反撃⋯カウンター攻撃か!」
 「か、かうんたーって、なんですか⋯?」
 「で、でもそんな攻撃したら、体力が⋯!傘ちゃんの体力が⋯!!」
 「平気だよ傘、傘達が汚れない方が都合がいいでしょ?」
 「そういう事を言ってるんじゃないの!露ちゃん、貴方に生きていてほしいのに、命をかけて貴方が死んだら⋯、私は⋯⋯。私は⋯⋯!」
 
 なんで⋯、私は露ちゃんに無理をして欲しくない一心なのに⋯。
 露ちゃんは両手を突き出したまま、その場からまったく動かない⋯。
 圧力を抑えて止めようとして、露の額も身体も表情も苦しそうに藻掻いてる。
 痛いんでしょう⋯?苦しいんでしょう⋯?面倒くさいんでしょう⋯?嫌だったんでしょう⋯⋯?
 どうして⋯?なんで急に私達を守ろうとしたの⋯!!
 教えてほしいのに、心の中で遠慮をしているのか、口が凍りついて動かない⋯。
 身体を引き離したいけど、身体も棒のようになって動かない⋯。
 私はこんな状態で、どうしたら良いの⋯?

 「露やめろっ⋯!借りを返すなんて本当にお前らしくないぞ!」
 「う⋯、うるせぇ⋯⋯、遊雅ァ⋯!!」
 「うるせぇだろうしつけぇだろう!だが俺はな、人のために犠牲になるやつを見たくねぇんだ!こういう攻撃はな⋯素直に避けた方が、一番強いんだよ!!」
 「⋯!?うわぁぁぁぁぁっ!!」
 「さ、叫ぶなっての!!」
 「よくもまた、助けてくれたなぁ!?あとでぇ、あとで殺してやる~!!!!」
 「望むところだっ!バカ野郎笑」

 遊雅くんのお陰で、露ちゃんが助かった⋯。
 よかった、安堵したせいか、強い風と心地良い浮遊感を感じる。
 あ、違う。下に、地面に⋯、激突する⋯⋯!!

 「ほっと、大丈夫ですか?傘さん。」
 「夏恋ちゃん、ありがとう。」

 私も助かっちゃった⋯。
 申し訳なさと情けなさが、脳天を突き刺した。
 じんわり痛い気がするけど、もうどうでも良くなった。
 皆が無事なら、露が無事なら⋯。
 私はもう、幸せよ。
 そして、敵の方を見ると⋯。

 「な、何故だ⋯?身体が吸い込まれていく⋯⋯!まだ、まだ終わってないのだぞ!これから面白くなるところなんだぞ!!あいつに内緒でこんな強者と巡り会えたというのに⋯!何故ぇ⋯⋯!何故ぇ⋯⋯!!」

 激昂しながら嘆き悲しみ、身体全部が消えていくのを騒々しく待っていた。
 さっきの反撃で致命傷を与えたわけではないみたい。
 腕が一本無くなった、というだけ。
 でも、それだけでも私達は頑張ったと思う。努力したと思う。
 なにをしてくるかわからない未知の存在に、傷を負わせたんだから。
 これはもう、本気で誇って良いことでしょうね。

 ♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦

 (そして、美浦と隆真が返ってくる頃。)

 こうして、私達の任務は終わった。
 あとは美浦と隆真ちゃんのところに向かうだけ、と⋯、脚を一歩出そうとすると、美浦らしき人影が前に浮かび上がった。
 それも、哀れみ悲しんでいるような、とぼとぼとした速さで。
 薄っすらとだから、明確にはわからないのだけれど。
 どうなったかが気になり、私達はそれぞれの歩幅で前に出た。
 美浦と私達との距離が、嫌な予感を彷彿とさせる透明な矢へと変わっていくよう。
 そして美浦は、私達から逃げようとしているように、変わらずゆっくり歩いている。
 隆真ちゃんは、美浦におんぶされている。
 出会ったときのような初々しさも、ちょっとした元気さも、今は無いように見える。
 魂が抜けて人形になったような、そんな状態にまでなっていた。
 美浦と私達にできていた距離が無くなった時、美浦は矢に刺されたように天を仰ぎ見て、立ったまま泣いていた。
 そして私も、後ろの皆も、隆真ちゃんの瞳の色と事情を察し、悲しみに暮れた。
 涙に頬が伝う、美浦と共鳴するように、声を上げて泣く。
 その時は、雨が酷く邪魔だと感じた。

 つづく
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