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第030話 〈怪蟲飛蜘蛛〉の討伐 5
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蜜玉は、摂取した者の限界を超えて成長させる効果があると表示されていた……。
なら、その効果が出てくる前にトドメを――
そう思い、剣を振り上げたが、俺が攻撃を放つことはなかった。
何故なら、飛蜘蛛がそのまま、まるで地面に沈み込むように姿を消してしまったからだ。
馬鹿な!
地面の中へ消えただと!?
まさか、蜜玉の効果で新しい能力を手に入れたのか!?
だが、《天啓》の矢印はまだあいつを捉えて――
「な、なんだ、これは……」
表示されている《天啓》の矢印が、まるで電波障害にでもあっているかのようにビリビリと揺れていて、ついにはプツンと途切れてしまった。
『〈怪蟲飛蜘蛛〉が、探知阻害スキルを手に入れた可能性があります』
探知阻害スキル……。そんなものも存在するのか……。
ということは、今は自分の五感を頼りに敵を探すしかない……。
地面からの気配を伺いながら、後ろにいるリシュアを庇っていると、視界の先で心配そうにこちらを見つめている二人の人影を見つけた。
しまった! あれは、最初に飛蜘蛛に狙われていた『ウォーム・カーネーション』のメンバーの二人!
リシュアが心配で逃げていなかったのか!
「走れぇ! 逃げろぉ!」
ズンッ、と右肩に痛みが走り、見てみると、土中から突き出した飛蜘蛛の足が、俺の右肩を捉えていた。
ぐっ……。
しまった……。向こうに気を取られて……。
深々と突き刺さった敵の足を握りしめながら、青ざめた顔をしてこちらを見つめている二人にもう一度声をかける。
「いいから逃げろ! 早く!」
そう言うと、ようやく二人はこの場から去っていった。
バキッ、と鈍い音がして、またどこかに攻撃を受けたのかと飛蜘蛛に視線を戻すと、驚いたことに、俺の指が、握りしめていた飛蜘蛛の足の硬い外皮に食い込んでいた。
なんだ……この力は?
あの硬い外皮を突き破って指がめり込むだなんて……。
まさか、これが《火事場の馬鹿力》の効果か?
怪我が回復してもまだ発動しているのか。
それまで俺を貫くように力が込められていた飛蜘蛛の足が、怯んだようにサッと引き、また土の中へ潜っていった。
く、くそ……。
せっかく身体強化されていても、こう土の中に潜られたんじゃ対処のしようがない……。
いったいどうすれば……。
『《探知阻害》、《自然治癒》、《瞬歩》を獲得。《完全覚醒》の効果で、《探知阻害》は《逆探知》にランクアップ。《自然治癒》は《超速再生》に、《瞬歩》は《電光一閃》に統合されました。《音探知》、《強麻痺液》、《即喰》、《麻痺霧》、《麻痺無効》、《麻痺毒同化》、及び、全ステータス値は、体の構造に大きな差があるため、獲得に失敗しました』
《無限複製》の効果で敵のスキルを複製した?
そうか、何気に飛蜘蛛に触れるのはこれが初めてだったのか……。
メーティス、《火事場の馬鹿力》の効果時間は?
『《火事場の馬鹿力》の効果時間は約五分です』
足を切断できたのは、空中からの落下エネルギーがあったからだ。
けど、《火事場の馬鹿力》があれば、地上にいながらにして敵に致命傷を与えられる。
効果が続いているうちに手を打たないと……。
このままだとじっとしていたら、いつリシュアを狙われてもおかしくない……。
転移魔法陣は作成に時間がかかるし、それに、人を転送させるのにもさらに時間がかかる……。
背後で、リシュアが不安そうに穴の開いた俺の肩を見つめている。
「幸太郎さん……。か、肩が……」
「肩の傷は問題ない。それより、奴は音でこちらの様子をうかがっている。できるだけ静かにして、俺から離れるな」
「は、はい……」
土の中で飛蜘蛛が這いずっているわずかな感触がある。
奴は、まだ近くにいる。
どうする……。
どうすれば……。
……ん? 待てよ?
メーティス、今、獲得に失敗したスキルの中で、《麻痺毒同化》ってやつがあったよな?
それって具体的にはどういう能力なんだ?
『《麻痺毒同化》は、毒に侵された水や土の中に自らの体を潜り込ませる効果を持っています』
ということは、毒がなければ、奴は土の中に身を隠せないということか……。
『その通りです』
毒を消せるものは……たしか……。
「《無限複製》、〈土壌浄化薬〉!」
手の中に〈土壌浄化薬〉が出現すると、リシュアが驚いたように声を上げた。
「そ、それはもしかして、私が作った〈土壌浄化薬〉ですか?」
「そうだ。あいつは毒に侵された土の中でしか移動することができない。だからこれで、土の中の毒を消して、あいつを地上に引きずり出す!」
「そ、それは無理です! その〈土壌浄化薬〉では、この辺りに広がっている毒の効果は消せません!」
メーティス、できるか?
『この〈土壌浄化薬〉をもとに、〈モモリアの花〉、〈コウの草〉、〈濃藍彼岸花〉を調合することで、〈怪蟲飛蜘蛛〉の毒に効果のある〈聖域薬〉がクラフト可能です』
〈モモリアの花〉、〈コウの草〉、〈濃藍彼岸花〉って……どれもロロがそこらへんで拾ってきた薬草じゃないか。
そう言えばロロのやつ、精霊に言われて拾ったって言ってたけど……。
『どうやらその精霊たちは、この辺りの毒を幸太郎様に解毒させようとしていたようですね』
意外と抜け目ないな、精霊ってやつも……。
まぁいい。
素材は揃った。
「〈土壌浄化薬〉、〈モモリアの花〉、〈コウの草〉、〈濃藍彼岸花〉を調合し、〈聖域薬〉をクラフト!」
リュックの中に入っていた〈モモリアの花〉、〈コウの草〉、〈濃藍彼岸花〉が、手に持っている〈土壌浄化薬〉へ次々と吸い込まれ、淡い光を帯びていく。
そして、その光が治まると、手の中には金色に輝く〈聖域薬〉が入った小瓶が出現した。
〈[S級]聖域薬〉
聖なる気が宿った薬液。土地にかけられた呪いや毒を消し去る。この薬を散布した土地には、その後一年間の豊作が約束される。
リシュアが、完成した〈聖域薬〉を見て目を丸くしている。
「そ、そそ、それはまさか〈聖域薬〉ですか!?」
「あぁ。今調合した。これで、毒を一掃する!」
「あ、あ、ありえません! こんな一瞬で〈聖域薬〉を調合するなんて!」
そんなに珍しいのか、この薬……。
メーティス。これはS級だが、複製は可能だよな?
『可能です』
なら――
「《無限複製》、〈聖域薬〉!」
突き出した手から、大量の〈聖域薬〉の中身が雪崩のように放出され、次々と土地を金色に染め始めた。
後ろにいたリシュアが、足元に飛び散った〈聖域薬〉を見ながら、
「あわわわわ! 〈聖域薬〉をこんなに大量に!」
〈聖域薬〉が地面に溶け込み、数秒が経過すると、目の前の土がボコボコと盛り上がりはじめ、ついにはボンッ、と音を立てて土がそこら中に飛び散った。
そしてそこから、《麻痺毒同化》の効果を失い、土に埋もれていた飛蜘蛛が追われるように姿を現した。
よし! 今だ!
《火事場の馬鹿力》の効果が出ている今なら、俺の剣でもこいつを殺せる!
すぐさま飛蜘蛛に接近し、渾身の力を込め、持っていた剣を飛蜘蛛の顔めがけて振り抜いた。
だが、ガキンッ、と耳障りな音が響き、俺の剣は勢いよく弾き飛ばされてしまった。
なに!?
改めて飛蜘蛛に視線を戻すと、その外皮に先ほどまで与えた傷は一切なく、しかも、全身にまるで水晶のような光沢が生まれていたのだ。
まさかこれは、硬質系の新たなスキル!?
しまった! 蜜玉を摂取したことによる成長効果がまだ続いていたのか!
ドスン、ドスン、ドスン、とガラ空きになった俺の体に、飛蜘蛛の足が突き刺さっていく。
「がはっ!」
口から真っ赤な血が飛び散り、手から力が抜けて、持っていた剣がポトリと地面に落ちた。
薄らいでいく意識の中で、リシュアの悲鳴に似た叫び声が聞こえてくる。
「幸太郎さん!」
なら、その効果が出てくる前にトドメを――
そう思い、剣を振り上げたが、俺が攻撃を放つことはなかった。
何故なら、飛蜘蛛がそのまま、まるで地面に沈み込むように姿を消してしまったからだ。
馬鹿な!
地面の中へ消えただと!?
まさか、蜜玉の効果で新しい能力を手に入れたのか!?
だが、《天啓》の矢印はまだあいつを捉えて――
「な、なんだ、これは……」
表示されている《天啓》の矢印が、まるで電波障害にでもあっているかのようにビリビリと揺れていて、ついにはプツンと途切れてしまった。
『〈怪蟲飛蜘蛛〉が、探知阻害スキルを手に入れた可能性があります』
探知阻害スキル……。そんなものも存在するのか……。
ということは、今は自分の五感を頼りに敵を探すしかない……。
地面からの気配を伺いながら、後ろにいるリシュアを庇っていると、視界の先で心配そうにこちらを見つめている二人の人影を見つけた。
しまった! あれは、最初に飛蜘蛛に狙われていた『ウォーム・カーネーション』のメンバーの二人!
リシュアが心配で逃げていなかったのか!
「走れぇ! 逃げろぉ!」
ズンッ、と右肩に痛みが走り、見てみると、土中から突き出した飛蜘蛛の足が、俺の右肩を捉えていた。
ぐっ……。
しまった……。向こうに気を取られて……。
深々と突き刺さった敵の足を握りしめながら、青ざめた顔をしてこちらを見つめている二人にもう一度声をかける。
「いいから逃げろ! 早く!」
そう言うと、ようやく二人はこの場から去っていった。
バキッ、と鈍い音がして、またどこかに攻撃を受けたのかと飛蜘蛛に視線を戻すと、驚いたことに、俺の指が、握りしめていた飛蜘蛛の足の硬い外皮に食い込んでいた。
なんだ……この力は?
あの硬い外皮を突き破って指がめり込むだなんて……。
まさか、これが《火事場の馬鹿力》の効果か?
怪我が回復してもまだ発動しているのか。
それまで俺を貫くように力が込められていた飛蜘蛛の足が、怯んだようにサッと引き、また土の中へ潜っていった。
く、くそ……。
せっかく身体強化されていても、こう土の中に潜られたんじゃ対処のしようがない……。
いったいどうすれば……。
『《探知阻害》、《自然治癒》、《瞬歩》を獲得。《完全覚醒》の効果で、《探知阻害》は《逆探知》にランクアップ。《自然治癒》は《超速再生》に、《瞬歩》は《電光一閃》に統合されました。《音探知》、《強麻痺液》、《即喰》、《麻痺霧》、《麻痺無効》、《麻痺毒同化》、及び、全ステータス値は、体の構造に大きな差があるため、獲得に失敗しました』
《無限複製》の効果で敵のスキルを複製した?
そうか、何気に飛蜘蛛に触れるのはこれが初めてだったのか……。
メーティス、《火事場の馬鹿力》の効果時間は?
『《火事場の馬鹿力》の効果時間は約五分です』
足を切断できたのは、空中からの落下エネルギーがあったからだ。
けど、《火事場の馬鹿力》があれば、地上にいながらにして敵に致命傷を与えられる。
効果が続いているうちに手を打たないと……。
このままだとじっとしていたら、いつリシュアを狙われてもおかしくない……。
転移魔法陣は作成に時間がかかるし、それに、人を転送させるのにもさらに時間がかかる……。
背後で、リシュアが不安そうに穴の開いた俺の肩を見つめている。
「幸太郎さん……。か、肩が……」
「肩の傷は問題ない。それより、奴は音でこちらの様子をうかがっている。できるだけ静かにして、俺から離れるな」
「は、はい……」
土の中で飛蜘蛛が這いずっているわずかな感触がある。
奴は、まだ近くにいる。
どうする……。
どうすれば……。
……ん? 待てよ?
メーティス、今、獲得に失敗したスキルの中で、《麻痺毒同化》ってやつがあったよな?
それって具体的にはどういう能力なんだ?
『《麻痺毒同化》は、毒に侵された水や土の中に自らの体を潜り込ませる効果を持っています』
ということは、毒がなければ、奴は土の中に身を隠せないということか……。
『その通りです』
毒を消せるものは……たしか……。
「《無限複製》、〈土壌浄化薬〉!」
手の中に〈土壌浄化薬〉が出現すると、リシュアが驚いたように声を上げた。
「そ、それはもしかして、私が作った〈土壌浄化薬〉ですか?」
「そうだ。あいつは毒に侵された土の中でしか移動することができない。だからこれで、土の中の毒を消して、あいつを地上に引きずり出す!」
「そ、それは無理です! その〈土壌浄化薬〉では、この辺りに広がっている毒の効果は消せません!」
メーティス、できるか?
『この〈土壌浄化薬〉をもとに、〈モモリアの花〉、〈コウの草〉、〈濃藍彼岸花〉を調合することで、〈怪蟲飛蜘蛛〉の毒に効果のある〈聖域薬〉がクラフト可能です』
〈モモリアの花〉、〈コウの草〉、〈濃藍彼岸花〉って……どれもロロがそこらへんで拾ってきた薬草じゃないか。
そう言えばロロのやつ、精霊に言われて拾ったって言ってたけど……。
『どうやらその精霊たちは、この辺りの毒を幸太郎様に解毒させようとしていたようですね』
意外と抜け目ないな、精霊ってやつも……。
まぁいい。
素材は揃った。
「〈土壌浄化薬〉、〈モモリアの花〉、〈コウの草〉、〈濃藍彼岸花〉を調合し、〈聖域薬〉をクラフト!」
リュックの中に入っていた〈モモリアの花〉、〈コウの草〉、〈濃藍彼岸花〉が、手に持っている〈土壌浄化薬〉へ次々と吸い込まれ、淡い光を帯びていく。
そして、その光が治まると、手の中には金色に輝く〈聖域薬〉が入った小瓶が出現した。
〈[S級]聖域薬〉
聖なる気が宿った薬液。土地にかけられた呪いや毒を消し去る。この薬を散布した土地には、その後一年間の豊作が約束される。
リシュアが、完成した〈聖域薬〉を見て目を丸くしている。
「そ、そそ、それはまさか〈聖域薬〉ですか!?」
「あぁ。今調合した。これで、毒を一掃する!」
「あ、あ、ありえません! こんな一瞬で〈聖域薬〉を調合するなんて!」
そんなに珍しいのか、この薬……。
メーティス。これはS級だが、複製は可能だよな?
『可能です』
なら――
「《無限複製》、〈聖域薬〉!」
突き出した手から、大量の〈聖域薬〉の中身が雪崩のように放出され、次々と土地を金色に染め始めた。
後ろにいたリシュアが、足元に飛び散った〈聖域薬〉を見ながら、
「あわわわわ! 〈聖域薬〉をこんなに大量に!」
〈聖域薬〉が地面に溶け込み、数秒が経過すると、目の前の土がボコボコと盛り上がりはじめ、ついにはボンッ、と音を立てて土がそこら中に飛び散った。
そしてそこから、《麻痺毒同化》の効果を失い、土に埋もれていた飛蜘蛛が追われるように姿を現した。
よし! 今だ!
《火事場の馬鹿力》の効果が出ている今なら、俺の剣でもこいつを殺せる!
すぐさま飛蜘蛛に接近し、渾身の力を込め、持っていた剣を飛蜘蛛の顔めがけて振り抜いた。
だが、ガキンッ、と耳障りな音が響き、俺の剣は勢いよく弾き飛ばされてしまった。
なに!?
改めて飛蜘蛛に視線を戻すと、その外皮に先ほどまで与えた傷は一切なく、しかも、全身にまるで水晶のような光沢が生まれていたのだ。
まさかこれは、硬質系の新たなスキル!?
しまった! 蜜玉を摂取したことによる成長効果がまだ続いていたのか!
ドスン、ドスン、ドスン、とガラ空きになった俺の体に、飛蜘蛛の足が突き刺さっていく。
「がはっ!」
口から真っ赤な血が飛び散り、手から力が抜けて、持っていた剣がポトリと地面に落ちた。
薄らいでいく意識の中で、リシュアの悲鳴に似た叫び声が聞こえてくる。
「幸太郎さん!」
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