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第032話 〈怪蟲飛蜘蛛〉の討伐報酬
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俺はたぶん、この世界に来て初めて、本物の絶望を感じていた。
蛇に食われそうになった時よりも、蜘蛛に体を穴だらけにされた時よりも、胸中に去来する悲しみは遥かに大きかった。
「ど、どうして……こんなことに……」
目の前には、真っ黒な塊になった飛蜘蛛の死体が転がっている。
手で表面を撫でてみるが、ほとんど炭になっていて、生前の面影はどこにもない。
「こ、これじゃあ……素材の採集なんてできないじゃないか……」
俺の気も知らないで、ロロがとなりでニコニコ微笑みながら、俺に褒めてもらおうと頭を差し出している。
「ロロ、すっごく頑張ったよ! 今度はげぇってしてないし! だから頭撫でて!」
「……あぁ……ロロ……。お前、ほんとに頑張ったなぁ……偉かったぞぉ……」
「えへへ~! ロロ強い? ねぇ、ロロ強い?」
「はは……。そりゃあもう、死ぬほど強いよ……」
ロロの頭を撫でると、体から大量の魔力がロロへ流れていくのを感じた。
あれだけの威力の《消滅弾》を撃つと、さすがにほとんど魔力が残らないみたいだな。
まぁ、当然か……。
『幸太郎様。鑑定の結果、〈怪蟲飛蜘蛛(かいちゅうとびぐも)〉の死体の中に、僅かですが素材の残留を確認しました』
何!?
頭の中に、鑑定結果の素材イメージが流れ込んでくる。
それをもとに、すかさず《空間製図》で解体作業を始めた。
「《空間製図》、転写! 《精密創造》で素材をクラフト!」
炭と化した死体の中から、ポン、ポン、ポン、と三つの素材が飛び出し、となりにあった小さな岩の上に並ぶように出現した。
一つは、見覚えのある翡翠色の宝石。もう一つは、飛蜘蛛の外皮と同じ黄色い、半透明の鉱石のような見た目をしていて、そして最後に飛び出したのは、黄土色をした球体だった。
〈[SS級]ドライアドの蜜玉〉(複製不可)
ドライアドの体内で、数百年の歳月をかけて極稀に生成される石。優れたエネルギー源で、摂取した者は己の限界を超えて成長できる。成分となったドライアドの蜜のせいか、舐めるとほんのりと甘みがある。
〈[S級]ドライアドの魔鋼装甲〉(複製不可)
〈ドライアドの蜜玉〉から抽出されたエネルギーが硬質化した貴重なもの。とてつもない硬度を誇るため、加工には向いていない。
〈[A級]飛蜘蛛の魔核〉(複製不可)
外部エネルギーを魔力に変換し、ある程度保存することができる。
おっ!?
魔核あるじゃん! 燃え残ってるじゃん!
ラッキー! これでタダ働きじゃない!
なんだぁ、落ち込んで損したなぁ。
で、蜜玉の方は、飛蜘蛛に完全に吸収されずに残ったってことか。
〈ドライアドの魔鋼装甲〉ってやつは……見た目は綺麗だけど、使い道はなさそうだな。
なんにしろ、魔核さえ手に入ればこっちのもんだ。
『警告します。〈飛蜘蛛の魔核〉は《消滅弾》の影響で、内部を大きく損傷しています。このまま使用すると、完全に破損する恐れがあります』
えっ!? マジかよ!
強すぎるのも問題だなぁ……。
どうにかできないのか?
『魔核の修復には専門的なスキルが必要になります』
修復? そんなこともできるのか?
『はい』
なら、あとで魔核を修復できそうな人を探してみるか。
このまま使えないんじゃもったいないし、できればそのスキルも複製しておきたいしな。
リシュアが、不思議そうに蜜玉を見つめて、
「幸太郎さん、結局、その宝石はなんだったんですか?」
「これ、ドライアドの持ち物だってさ。で、さっきの蜘蛛は、これを狙ってここまでやってきたらしい」
「ドライアド様の!? そ、そうだったんですか……」
はぁ……。結局、今すぐクラフトできるような素材は手に入れられなかったな……。
「あの……幸太郎さん……」
「ん?」
「幸太郎さんに助けてもらったことは本当に感謝しています。けど……」
リシュアは少しうつむきがちになると、俺のコートの端を指でつまんで、懇願するように囁いた。
「……どうか、もっと自分を大切にしてください」
「自分を大切に?」
「……幸太郎さんは、さっきの戦闘で死んでいてもおかしくありませんでした」
「あー……。うーん……。けど、そもそも俺が飛蜘蛛をエデンで仕留めきれてればこんなことにはならなかったわけだし……」
「エデンの調査クエストは複数の冒険者で行われていたはずです。幸太郎さんが責任を負う必要はありません。ただ、私はあの時、本当に幸太郎さんが死んじゃったと思って……それで……」
……まぁ、ほんとに死んじゃったんだけどね。
けど、リシュアは本気で俺のことを心配してくれているんだな……。
リシュアの頭をぐしぐしと撫でると、リシュアは「あわわわわっ」と頬を赤く染めた。
「ちょ、ちょっと幸太郎さん! 恥ずかしいです! 恥ずかしいです!」
「あっ! わ、悪い……。つい、ロロと同じ感じで……」
「うぅ……」
赤くなった頬を冷ますように、リシュアがパタパタと手で顔を仰いでいると、遠くの方から声が聞こえてきた。
「おーい! リシュア!」
「リシュアちゃーん!」
あの二人……。
たしか、最初に飛蜘蛛に襲われてた、『ウォーム・カーネーション』のメンバーだな。
リシュアも二人の姿に視線を移し、「おーい」と手を振り返した。
二人は足早に近寄って来ると、飛びつくようにリシュアの胸に顔を埋めた。
「リシュア! 無事でよかった!」
「わぁーん! リシュアちゃーん!」
「よしよし。二人とも、怪我はない?」
「あぁ……。リシュアのおかげだ……」
「わぁーん!」
人気者だなぁ、リシュア。
リシュアは泣きじゃくる二人をひとしきりなだめると、
「幸太郎さんがあのモンスターを倒してくれたおかげで、私も助かったの」
それまでリシュアの胸の中で泣いていた二人は、ふとこちらを見ると、まるでゾンビのようにふらふらと近寄ってきて、今度は俺の胸に飛び込んできた。
「ありがとう! 幸太郎!」
「わぁーん! ありがとう!」
勢いよく飛びつかれたせいで、「ぐふっ」と妙な声が喉から漏れ、俺の体は仰向けに倒れてしまった。
「いてて……。ちょっと二人とも、重いんだけど……」
と、上半身を起こそうとすると、ロロがにんまりと笑顔を作ってこちらを見下ろしているのに気がついた。
「ロロ……?」
「ロロもやるー!」
「おい! 待――ぐはっ!」
な、何故……顔の上に……。
すると、ロロに視界を奪われた中で、遠くの方からチグサの声が聞こえてきた。
「おぉい! 幸太郎殿! 無事か!? こっちはなんとか……って、なんだこの状況は……」
俺が聞きたいよ……。
◇ ◇ ◇
チグサが、ふーむ、と感慨深そうにロロを見つめて、
「先ほど空に伸びた黒い光線……。あれがまさかロロ殿の仕業だったとは……」
「えへへ~。ロロすごいでしょ!」
「うむ! すごい!」
「うふふ~。じゃあ特別に頭撫でてもいいよ! ほんとはロロの頭撫でていいのは幸太郎だけなんだけど、特別だよ!」
「で、では……」
ぎこちなく頭を撫でるチグサと、頭を撫でてもらってまんざらでもないロロ。
平和だなぁ……。
ふと、リシュアが興奮した様子で俺にたずねた。
「と、ところで幸太郎さん! さっきのあれはどういうことですか!?」
「さっきのあれ……?」
「もうっ! とぼけないでくださいよ! 〈聖域薬〉ですよ! 〈聖域薬〉!」
「あぁ、あれか……。《無限複製》、〈聖域薬〉」
すると一瞬で、手のひらの上に〈聖域薬〉が複製された。
「これのことか?」
小瓶に入った〈聖域薬〉を手渡すと、リシュアはわなわなと肩を震わせてそれを睨みつけた。
「や、やっぱり、どう見ても本物の〈聖域薬〉……。こ、これ、幸太郎さんは自由に作り出せるんですか?」
「ある程度はな。《無限複製》、〈聖域薬〉」
ぽん、ぽん、ぽん、といくつも〈聖域薬〉を複製すると、リシュアは半ば呆れながら、
「そ、そんな、ところてんみたいに……」
「〈聖域薬〉って、そんなに珍しい薬なのか?」
「えぇ。それはもう……。〈聖域薬〉は大地に豊作をもたらす薬として、とても高価な値段で取引されている代物で、今現在、〈聖域薬〉を調合できるのは、『ディバル商会』という巨大な商業ギルドだけなんです。それがこんな簡単に生み出せるとなれば……」
「ま、別に問題ないだろう。売り歩くわけでもないし」
「う、う~ん、どうでしょうか……」
改めて、ぎこちなくロロの頭を撫でているチグサに向き直り、
「それで、町の様子はどうだった? 怪我人は?」
「うむ。それなら問題ない。幸い、大怪我を負った者はいなかったし、幸太郎殿が置いていってくれた〈全快薬〉で、皆快方に向かっている。無事だった冒険者ギルドの職員たちや、外壁の建設にあたっていた作業員たちが手分けして手伝ってくれたから、手早く済んだ。エデンの中で凶暴化している他のモンスターの討伐は、エデンに残った冒険者連中に任せてきた」
「ドライアドの様子はどうだ?」
「幸太郎殿が渡した〈全快薬〉は飲んでいたようだが、容体は芳しくなかった……。もしかすれば、もう……」
会話を聞いていたリシュアが、慌てた様子で口をはさんだ。
「や、やっぱりドライアド様に何かあったんですか!?」
「うむ……。実は、かなり衰弱していた……。おそらく、毒の影響をもろに受けたのだろう……」
「そ、そんな……」
さっき手に入れた〈ドライアドの蜜玉〉……。
あれって要はエネルギーの源みたいなもんなんだよな?
蛇に食われそうになった時よりも、蜘蛛に体を穴だらけにされた時よりも、胸中に去来する悲しみは遥かに大きかった。
「ど、どうして……こんなことに……」
目の前には、真っ黒な塊になった飛蜘蛛の死体が転がっている。
手で表面を撫でてみるが、ほとんど炭になっていて、生前の面影はどこにもない。
「こ、これじゃあ……素材の採集なんてできないじゃないか……」
俺の気も知らないで、ロロがとなりでニコニコ微笑みながら、俺に褒めてもらおうと頭を差し出している。
「ロロ、すっごく頑張ったよ! 今度はげぇってしてないし! だから頭撫でて!」
「……あぁ……ロロ……。お前、ほんとに頑張ったなぁ……偉かったぞぉ……」
「えへへ~! ロロ強い? ねぇ、ロロ強い?」
「はは……。そりゃあもう、死ぬほど強いよ……」
ロロの頭を撫でると、体から大量の魔力がロロへ流れていくのを感じた。
あれだけの威力の《消滅弾》を撃つと、さすがにほとんど魔力が残らないみたいだな。
まぁ、当然か……。
『幸太郎様。鑑定の結果、〈怪蟲飛蜘蛛(かいちゅうとびぐも)〉の死体の中に、僅かですが素材の残留を確認しました』
何!?
頭の中に、鑑定結果の素材イメージが流れ込んでくる。
それをもとに、すかさず《空間製図》で解体作業を始めた。
「《空間製図》、転写! 《精密創造》で素材をクラフト!」
炭と化した死体の中から、ポン、ポン、ポン、と三つの素材が飛び出し、となりにあった小さな岩の上に並ぶように出現した。
一つは、見覚えのある翡翠色の宝石。もう一つは、飛蜘蛛の外皮と同じ黄色い、半透明の鉱石のような見た目をしていて、そして最後に飛び出したのは、黄土色をした球体だった。
〈[SS級]ドライアドの蜜玉〉(複製不可)
ドライアドの体内で、数百年の歳月をかけて極稀に生成される石。優れたエネルギー源で、摂取した者は己の限界を超えて成長できる。成分となったドライアドの蜜のせいか、舐めるとほんのりと甘みがある。
〈[S級]ドライアドの魔鋼装甲〉(複製不可)
〈ドライアドの蜜玉〉から抽出されたエネルギーが硬質化した貴重なもの。とてつもない硬度を誇るため、加工には向いていない。
〈[A級]飛蜘蛛の魔核〉(複製不可)
外部エネルギーを魔力に変換し、ある程度保存することができる。
おっ!?
魔核あるじゃん! 燃え残ってるじゃん!
ラッキー! これでタダ働きじゃない!
なんだぁ、落ち込んで損したなぁ。
で、蜜玉の方は、飛蜘蛛に完全に吸収されずに残ったってことか。
〈ドライアドの魔鋼装甲〉ってやつは……見た目は綺麗だけど、使い道はなさそうだな。
なんにしろ、魔核さえ手に入ればこっちのもんだ。
『警告します。〈飛蜘蛛の魔核〉は《消滅弾》の影響で、内部を大きく損傷しています。このまま使用すると、完全に破損する恐れがあります』
えっ!? マジかよ!
強すぎるのも問題だなぁ……。
どうにかできないのか?
『魔核の修復には専門的なスキルが必要になります』
修復? そんなこともできるのか?
『はい』
なら、あとで魔核を修復できそうな人を探してみるか。
このまま使えないんじゃもったいないし、できればそのスキルも複製しておきたいしな。
リシュアが、不思議そうに蜜玉を見つめて、
「幸太郎さん、結局、その宝石はなんだったんですか?」
「これ、ドライアドの持ち物だってさ。で、さっきの蜘蛛は、これを狙ってここまでやってきたらしい」
「ドライアド様の!? そ、そうだったんですか……」
はぁ……。結局、今すぐクラフトできるような素材は手に入れられなかったな……。
「あの……幸太郎さん……」
「ん?」
「幸太郎さんに助けてもらったことは本当に感謝しています。けど……」
リシュアは少しうつむきがちになると、俺のコートの端を指でつまんで、懇願するように囁いた。
「……どうか、もっと自分を大切にしてください」
「自分を大切に?」
「……幸太郎さんは、さっきの戦闘で死んでいてもおかしくありませんでした」
「あー……。うーん……。けど、そもそも俺が飛蜘蛛をエデンで仕留めきれてればこんなことにはならなかったわけだし……」
「エデンの調査クエストは複数の冒険者で行われていたはずです。幸太郎さんが責任を負う必要はありません。ただ、私はあの時、本当に幸太郎さんが死んじゃったと思って……それで……」
……まぁ、ほんとに死んじゃったんだけどね。
けど、リシュアは本気で俺のことを心配してくれているんだな……。
リシュアの頭をぐしぐしと撫でると、リシュアは「あわわわわっ」と頬を赤く染めた。
「ちょ、ちょっと幸太郎さん! 恥ずかしいです! 恥ずかしいです!」
「あっ! わ、悪い……。つい、ロロと同じ感じで……」
「うぅ……」
赤くなった頬を冷ますように、リシュアがパタパタと手で顔を仰いでいると、遠くの方から声が聞こえてきた。
「おーい! リシュア!」
「リシュアちゃーん!」
あの二人……。
たしか、最初に飛蜘蛛に襲われてた、『ウォーム・カーネーション』のメンバーだな。
リシュアも二人の姿に視線を移し、「おーい」と手を振り返した。
二人は足早に近寄って来ると、飛びつくようにリシュアの胸に顔を埋めた。
「リシュア! 無事でよかった!」
「わぁーん! リシュアちゃーん!」
「よしよし。二人とも、怪我はない?」
「あぁ……。リシュアのおかげだ……」
「わぁーん!」
人気者だなぁ、リシュア。
リシュアは泣きじゃくる二人をひとしきりなだめると、
「幸太郎さんがあのモンスターを倒してくれたおかげで、私も助かったの」
それまでリシュアの胸の中で泣いていた二人は、ふとこちらを見ると、まるでゾンビのようにふらふらと近寄ってきて、今度は俺の胸に飛び込んできた。
「ありがとう! 幸太郎!」
「わぁーん! ありがとう!」
勢いよく飛びつかれたせいで、「ぐふっ」と妙な声が喉から漏れ、俺の体は仰向けに倒れてしまった。
「いてて……。ちょっと二人とも、重いんだけど……」
と、上半身を起こそうとすると、ロロがにんまりと笑顔を作ってこちらを見下ろしているのに気がついた。
「ロロ……?」
「ロロもやるー!」
「おい! 待――ぐはっ!」
な、何故……顔の上に……。
すると、ロロに視界を奪われた中で、遠くの方からチグサの声が聞こえてきた。
「おぉい! 幸太郎殿! 無事か!? こっちはなんとか……って、なんだこの状況は……」
俺が聞きたいよ……。
◇ ◇ ◇
チグサが、ふーむ、と感慨深そうにロロを見つめて、
「先ほど空に伸びた黒い光線……。あれがまさかロロ殿の仕業だったとは……」
「えへへ~。ロロすごいでしょ!」
「うむ! すごい!」
「うふふ~。じゃあ特別に頭撫でてもいいよ! ほんとはロロの頭撫でていいのは幸太郎だけなんだけど、特別だよ!」
「で、では……」
ぎこちなく頭を撫でるチグサと、頭を撫でてもらってまんざらでもないロロ。
平和だなぁ……。
ふと、リシュアが興奮した様子で俺にたずねた。
「と、ところで幸太郎さん! さっきのあれはどういうことですか!?」
「さっきのあれ……?」
「もうっ! とぼけないでくださいよ! 〈聖域薬〉ですよ! 〈聖域薬〉!」
「あぁ、あれか……。《無限複製》、〈聖域薬〉」
すると一瞬で、手のひらの上に〈聖域薬〉が複製された。
「これのことか?」
小瓶に入った〈聖域薬〉を手渡すと、リシュアはわなわなと肩を震わせてそれを睨みつけた。
「や、やっぱり、どう見ても本物の〈聖域薬〉……。こ、これ、幸太郎さんは自由に作り出せるんですか?」
「ある程度はな。《無限複製》、〈聖域薬〉」
ぽん、ぽん、ぽん、といくつも〈聖域薬〉を複製すると、リシュアは半ば呆れながら、
「そ、そんな、ところてんみたいに……」
「〈聖域薬〉って、そんなに珍しい薬なのか?」
「えぇ。それはもう……。〈聖域薬〉は大地に豊作をもたらす薬として、とても高価な値段で取引されている代物で、今現在、〈聖域薬〉を調合できるのは、『ディバル商会』という巨大な商業ギルドだけなんです。それがこんな簡単に生み出せるとなれば……」
「ま、別に問題ないだろう。売り歩くわけでもないし」
「う、う~ん、どうでしょうか……」
改めて、ぎこちなくロロの頭を撫でているチグサに向き直り、
「それで、町の様子はどうだった? 怪我人は?」
「うむ。それなら問題ない。幸い、大怪我を負った者はいなかったし、幸太郎殿が置いていってくれた〈全快薬〉で、皆快方に向かっている。無事だった冒険者ギルドの職員たちや、外壁の建設にあたっていた作業員たちが手分けして手伝ってくれたから、手早く済んだ。エデンの中で凶暴化している他のモンスターの討伐は、エデンに残った冒険者連中に任せてきた」
「ドライアドの様子はどうだ?」
「幸太郎殿が渡した〈全快薬〉は飲んでいたようだが、容体は芳しくなかった……。もしかすれば、もう……」
会話を聞いていたリシュアが、慌てた様子で口をはさんだ。
「や、やっぱりドライアド様に何かあったんですか!?」
「うむ……。実は、かなり衰弱していた……。おそらく、毒の影響をもろに受けたのだろう……」
「そ、そんな……」
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あれって要はエネルギーの源みたいなもんなんだよな?
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