長瀬萬請負 其の四 〜嘗ての友〜

岡倉弘毅

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江古田

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 相良は帳面を開くと、隼人と圭の前に置いた。

(江古田正司。経済学部。東京出身。父親は杉坂伯爵家の運転手)

 その後、弓道の試合での輝かしい結果が並ぶ。

「これ……」

 圭が帳面を指さした。

(試合の前日右手の平に怪我を負い、代わりに長瀬隼人が出場し、三位入賞)

「あぁ、どういうわけか、江古田が俺でなくては駄目だと言い張って、仕方なく出たんだ」

「情けない話だが、江古田の代わりになれる選手がいなくてね。長瀬君の実力は江古田も認めていたから」

 あの時、隼人は興味もなかったので、詳しく江古田の怪我の理由を聞きはしなかったが、酔っ払って近くで飲んでいた見知らぬ男に突っかかり、喧嘩になったのだと今知った。

 他に気になったのは、華族を嫌っていたとの表記。

 不良で、誰かれ構わず喧嘩を吹っかけていたが、華族家の人間には漏れなく絡んでいたようだ。

「一度理由を問うたが、華族は特権を持ち、不要な財産を持ち、全てが不公平な存在だと感情的に吐き捨てた。

 それきりなにも言わなかったが、憎んでいると言った方が相応しい様子だったね」

 相良の言葉に圭は格別な反応しない。

 周囲はまだ、圭を華族として特別な存在と認識する傾向があるものの、本人はもう、平民の意識なのだろう。

 犯罪についての研究をしているのだから、相良も勿論、圭の正体に気付いてはいるだろう。それでも素知らぬ振りで言ってのけるのが流石である。

「卒業の際に就職はしなかったのですね?」

「あぁ。

 成績は良くなかった。しかし、頭が悪かったわけじゃない。真面目に生きるのが好きではなかっただけだ。

 定職にも就かず、実家から援助も期待できない不良が、実業家として名を馳せる。絶対に有り得ないとは言わないが、そうそうあることではない。

 彼の住んでいる屋敷だって、維持するだけでもかなりの金食い虫だろうことは想像に難くない。

 資金は何処から出たのか?

 今回の事件を考えれば、彼は私が考えていた以上の問題を起こしているのではないだろうか。

 逮捕できて、警察はやれやれと安堵の溜息を吐いているだろうが、本当に江古田の事件はこれで終わるのだろうか」

 例の響く声が、さっきとは打って変わって緊張を孕ませている。
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