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根付
「失礼な男だね。八田家の婿?」
「そうだよ。学生時代から厭な奴でね」
運転しながらも、怒りは治まらない。
「ところで、俺をなんだと思ったんだい? 妙な言い方だったが」
「俺は学生時代から、どんなに誘われても遊びに行かなかったから、男色だと思っているのだよ」
「なるほど。短絡的な考えの男なのだね。
まぁ、落ち着きたまえよ。あぁいうくだらない人間の為に、時間を割くのは勿体ないというものだ。忘れてしまうのが一番だよ」
山上の言葉は尤もだった。
分かっていながらも、怒りを忘れられないのだ。どうしても許せぬ男。怒りを隠せぬ隼人に、山上はそれ以上なにも言わなかった。
家に戻ると、客が来ていた。刑事の大森である。食卓を挟んで圭と勇一郎、大森が真剣な顔を突き合わせていた。
「どうしたの? やけに緊張感漂ってるけど」
「お帰りなさい。お邪魔してます。
実は、今朝、遊郭で遊女が殺されましてね。その女、夕べ、中里さんが買った女でして」
「勇一が容疑者なの?」
大森は大きく頭を横に振った。
「いいえ。中里さんを女が送り出す姿は、複数の人間が目撃しています。
中里さんが帰ってすぐ、その女を買った男がおりましてね。店の者は断ったらしいですが、男がしつこかったらしくって。
それを知った女が、承諾したので、部屋に通したそうです」
「じゃあ、なぜ」
「いえ実はその男、学生服姿で、女にしてもいいほど、綺麗な顔をしていたそうで、こんな物を落としてましてね」
大森が取り出したのは、根付けだった。紅葉が三つ重なった意匠で、裏にはK・Aと彫られている。
「有名な根付け彫りの作品だと、うちの若いのが気付いて、聞きに行きましたらね、麻上さんに贈った物だと」
今朝、圭はこの家から一歩も出ていない。それは三人が証言できるから、あまり心配する必要はあるまい。
「本当なの?」
「はい、これは私の物です。少し前になくしてしまっていて」
「いつ頃?」
「なくなったと気付いたのは、七月だったと思います。小銭入れに付けていたのですが……」
見れば紐が切れている。
「念の為に聞くけど、今まで一度でも遊郭に行ったことは」
「ありません」
「じゃあ、その根付けを拾った人物が、うっかり忘れていったか、あるいは、麻上君に恨みがあって、わざと置いていった」
「そうだよ。学生時代から厭な奴でね」
運転しながらも、怒りは治まらない。
「ところで、俺をなんだと思ったんだい? 妙な言い方だったが」
「俺は学生時代から、どんなに誘われても遊びに行かなかったから、男色だと思っているのだよ」
「なるほど。短絡的な考えの男なのだね。
まぁ、落ち着きたまえよ。あぁいうくだらない人間の為に、時間を割くのは勿体ないというものだ。忘れてしまうのが一番だよ」
山上の言葉は尤もだった。
分かっていながらも、怒りを忘れられないのだ。どうしても許せぬ男。怒りを隠せぬ隼人に、山上はそれ以上なにも言わなかった。
家に戻ると、客が来ていた。刑事の大森である。食卓を挟んで圭と勇一郎、大森が真剣な顔を突き合わせていた。
「どうしたの? やけに緊張感漂ってるけど」
「お帰りなさい。お邪魔してます。
実は、今朝、遊郭で遊女が殺されましてね。その女、夕べ、中里さんが買った女でして」
「勇一が容疑者なの?」
大森は大きく頭を横に振った。
「いいえ。中里さんを女が送り出す姿は、複数の人間が目撃しています。
中里さんが帰ってすぐ、その女を買った男がおりましてね。店の者は断ったらしいですが、男がしつこかったらしくって。
それを知った女が、承諾したので、部屋に通したそうです」
「じゃあ、なぜ」
「いえ実はその男、学生服姿で、女にしてもいいほど、綺麗な顔をしていたそうで、こんな物を落としてましてね」
大森が取り出したのは、根付けだった。紅葉が三つ重なった意匠で、裏にはK・Aと彫られている。
「有名な根付け彫りの作品だと、うちの若いのが気付いて、聞きに行きましたらね、麻上さんに贈った物だと」
今朝、圭はこの家から一歩も出ていない。それは三人が証言できるから、あまり心配する必要はあるまい。
「本当なの?」
「はい、これは私の物です。少し前になくしてしまっていて」
「いつ頃?」
「なくなったと気付いたのは、七月だったと思います。小銭入れに付けていたのですが……」
見れば紐が切れている。
「念の為に聞くけど、今まで一度でも遊郭に行ったことは」
「ありません」
「じゃあ、その根付けを拾った人物が、うっかり忘れていったか、あるいは、麻上君に恨みがあって、わざと置いていった」
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