殺された人形

岡倉弘毅

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上野 二

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 問おうとしたが、こちらに走って来る三月の姿を目にして、口を閉じた。時計を確認すると、一時には三分ほど早かった。

 仕事以外では三月も着物を常着としている。藍色の着物は、三月にはあまり似合っていない。

「お待たせしました。あれ? 津川さん」

「散歩の途中ですよ。お邪魔でしたら帰りますから、仰って下さい」

 三月は勢いよく首を横に振ると、手に持っていた白い紙袋を持ち上げた。

「飴食べませんか? 露天で美味しそうなの見付けて」

 口を広げた紙袋を差し出されて、とっさに有紀はそれを拒むように跳ね飛ばし、逆の手で鼻と口を押さえた。

 三月の手から離れた紙袋から、三四粒の肉桂にっき飴が零れる。

「ご……ごめん」

 なにが起きたか理解できぬらしい三月は、じっと有紀を見つめている。

 ただ一人冷静な洋史は、袋を拾い上げて、口を何度か折り曲げて三月に握らせ、

「匂いが駄目なのでしょう。有紀は草花の匂いにも敏感ですからね」

 土に汚れた肉桂飴を拾い上げると、さりげない態度でちり紙に包み、懐に仕舞った。

「そうだったの? ごめんなさい」

「三月君のせいじゃありませんよ」

 涙が目を、うっすらと潤す。なにが原因かは分からぬが、手が震える。記憶のどこかで、恐怖を感じていることだけは理解できた。

『……の子か、残念だね……』

 閉じ込められた記憶が、蓋を少しだけ開いて、有紀に教える。どうやら洋史の言う通り、匂いが原因であるらしい。

 肉桂の独特の匂い。

「有紀、大丈夫?」

「歩こう」

 なんとか手を口から離して、ふらつく足を叱りながら、有紀は必死の思いで笑んでみせた。

「不忍池にいかないかい?」

「いいですね」

 階段を下りて、不忍池に向かう。

 どうやら三月にとっても洋史がいてくれる方が楽らしく、しきりに話し掛けている。

 弁天堂に行き、三人が三人、銘々にお賽銭を放り込むと、手を併せた。

 二人はなにをお願いしているかは知らぬが、有紀は小さな頃の記憶を思い出させて下さい。と。

 近くに人がいる場所で、一昨日の三月の言葉を人前ですれば、注目を免れまい。有紀は弁天堂の裏、人気の無い場所を選んで歩いて行った。

「昨日はどうでした? 伯爵家のお坊ちゃまのお守りは」

「男と一つの部屋に二人きりでしょう? 危なくなかった?」
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