殺された人形

岡倉弘毅

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 畳の上で目が覚めた。時刻は既に九時半。

 里美は、皺だらけの服を洗濯物に加える有紀を見て、楽しそうに笑った。何度か呼んだけど、起きなかったわね。と。

 幸い行彦は既に家を出ていた。

 里美の作ってくれたおにぎりを二つ食べて、慌てて用意し、家を飛び出す。

 平助の下宿に、時間通り辿り着いた。平助は既に下宿の前で待っていた。手には写真を持って。

「なにを見せようってんだい?」

「写真、三月に一枚やっただろう? どの写真だ?」

 持っていたのは、有紀の写真。全てが見えるようにして、平助が近づけてくる。有紀は無言のまま、一枚を指差した。

「やっぱりな」

「なにが?」

「後ろに写っている男女を見ろ」

 平助から受け取ると、言われる通りに見た。

 書生のような格好をしている、髪を撫で付けた男。傍らには上流の奥様らしい、着物姿の女を連れている。

 あまり褒められた組み合わせではないなと思いはするものの、平助がなにを言いたいのかが分からない。

「その男、よく見てみろ」

 改めて見直してみる。

 すると、男にも女にも見覚えがあることに気付いた。
 
 髪型のせいで分からなかったが、男は三月、女は馨の妻、康子やすこに似ている。

「どういうことだい?」

「俺に聞かれてもわからんよ。

 俺としては知り合いの三月と、康子さんが親しげに歩いてたなんざ、若様に知られちゃ楽しくない話だからなぁ」

「自分が写っていると気付いて、三月はあたしの元から写真を回収したってことかい?」

「まぁ、そういうことなんだろうな。

 もし、他の写真だったら、別人だと思ったろうが、予想通りだったってことだな」

「なに考えてんだい? 二人共」

 浮気者には、嫉妬深い者も多いと聞く。馨は、妻が若い男と密かに会っていると知ったらどうなるだろう。

「そう言えば……」

「なにかあったのか?」

「……いや……」

 三日前、康子が留守であったことを三月は知っていた。ついうっかり、口を滑らせたのだろう。

 うっかり口を滑らせるようでは、秘密を守り切るなど無理に違いない。早々に別れさせなければ三月はもちろん、康子も、平助も不幸を辿ることになるだろう。

「三月に直接言った方がいいんだろうな」

「これ、貸してくれないか?」

「いいが、どうする?」

「三月にはあたしが言うよ。できる限り早く」

 写真をポケットに仕舞い、有紀は平助に背を向けた。
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