72 / 202
不義 二
しおりを挟む
寧ろ社交界の方が、異性関係は乱れていると聞く。その気になれば幾らでも、偽りの愛を囁いてくれる相手はいるはずだ。わざわざ平民を相手にする必要はなかろう。
「貴女、もう三月さんとは友達でもないのでしょう? それなら心配する必要もないのではありませんこと?
もしかして、嫉妬してらっしゃるの?」
「絶交したからどうでもいい。と思えるなら、もっと楽に生きられるでしょうね。
心配なんですよ、三月が」
康子は有紀に背を向け、歩き出す。有紀は急いで後を追った。
「貴女はとても、頑なな人なのね。とても生きづらいのではないのかしら?
もっとお気楽になさった方がよろしいわ」
「余計なお世話です」
感情的な有紀の声に満足したのだろうか、康子の嘲笑するような声が聞こえた。
康子の目には、有紀はさぞかし愚かに見えることだろう。有紀から見て、康子が愚かに見えるように。
心配だとはいえ、これ以上踏み込む必要はないだろう。色事に関しては、他人がとやかく言ったところで、本人達がのぼせ上がっている間はなにを言ってみても効果は無い。
その人の為とお節介を焼いてみても、邪魔をしているようにしか思われないだろう。友人として未練が残っていようと、離れるしかない。
互いに、自分が正しいのだと思っているからには、歩み寄る術はもうない。
緑美しい庭園の中に存在する康子はこんなにも清純に見えるのに、どうして罪を犯し続けるのを良しとできるのか。
不義という甘やかな罪は、人生に飽き飽きした人間を、阿片のような危険な誘惑で惹き付けるのだろうか。
それにしても、相手の愛情を疑いながら、どうして離れようとしないのか。有紀にはそれがなによりも不思議だった。
綺麗に纏められた康子の茶色い髪は、陽に透けて美しく輝く。この髪を、三月の前で乱したことはあるのだろうか。
(あの子供子供した三月が?)
カフェには、男の客しか来ない。その中において三月は、可愛らしい弟であろう。
その中に混じる有紀も自然、そんな三月の姿を目にすることになる。いわゆる。外面しか見てこなかった有紀に、現実は辛い。
「さっきの話、良人の前でなさってもよろしくてよ」
離縁されても構わないと思っているのか、馨の心の広さを信じているのか、康子の口調に無理はない。
「貴女、もう三月さんとは友達でもないのでしょう? それなら心配する必要もないのではありませんこと?
もしかして、嫉妬してらっしゃるの?」
「絶交したからどうでもいい。と思えるなら、もっと楽に生きられるでしょうね。
心配なんですよ、三月が」
康子は有紀に背を向け、歩き出す。有紀は急いで後を追った。
「貴女はとても、頑なな人なのね。とても生きづらいのではないのかしら?
もっとお気楽になさった方がよろしいわ」
「余計なお世話です」
感情的な有紀の声に満足したのだろうか、康子の嘲笑するような声が聞こえた。
康子の目には、有紀はさぞかし愚かに見えることだろう。有紀から見て、康子が愚かに見えるように。
心配だとはいえ、これ以上踏み込む必要はないだろう。色事に関しては、他人がとやかく言ったところで、本人達がのぼせ上がっている間はなにを言ってみても効果は無い。
その人の為とお節介を焼いてみても、邪魔をしているようにしか思われないだろう。友人として未練が残っていようと、離れるしかない。
互いに、自分が正しいのだと思っているからには、歩み寄る術はもうない。
緑美しい庭園の中に存在する康子はこんなにも清純に見えるのに、どうして罪を犯し続けるのを良しとできるのか。
不義という甘やかな罪は、人生に飽き飽きした人間を、阿片のような危険な誘惑で惹き付けるのだろうか。
それにしても、相手の愛情を疑いながら、どうして離れようとしないのか。有紀にはそれがなによりも不思議だった。
綺麗に纏められた康子の茶色い髪は、陽に透けて美しく輝く。この髪を、三月の前で乱したことはあるのだろうか。
(あの子供子供した三月が?)
カフェには、男の客しか来ない。その中において三月は、可愛らしい弟であろう。
その中に混じる有紀も自然、そんな三月の姿を目にすることになる。いわゆる。外面しか見てこなかった有紀に、現実は辛い。
「さっきの話、良人の前でなさってもよろしくてよ」
離縁されても構わないと思っているのか、馨の心の広さを信じているのか、康子の口調に無理はない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる