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父さん
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「それは、あたしの為についた噓だろう?
もう、忘れようよ。あたしも、父さんのことは忘れるつもりだから」
「忘れられますか?」
洋史らしからぬしつこさに、有紀は一瞬戸惑いを感じた。てっきり、「そうですね」という返事が戻ってくるとばかり考えていたので、言葉に詰まり、妙な空白が生じた。
「忘れられないのでしょう? そのままにしておいて、大丈夫ですか?」
歩き始める。
洋史もなにも言わず、歩を進め始めた。
「大丈夫だよ。忘れられる。忘れられるくらいには、大人になったつもりだよ」
「そう」
それきり、洋史はなにも言わなかった。大して遠くない道のりを、急ぎもせず歩く。
月明かりに照らされ影を成す。
離れて歩く二人。影は、寄り添って見えた。
「有紀!」
予想していたが、家の前には行彦が待ち構えていた。しまった。と思った時には洋史が足早に行彦に近づき、目の前で止まった。
「申し訳ありません。僕が、有紀さんを今まで引き留めていました」
深く頭を下げる洋史に、行彦は言葉を失ったらしく、は、はぁ。と、次の言葉を発せずにいる。
じっと洋史を眺め、一つ、大きく息を吐いた。
行彦は、視線だけで洋史を頭の先から足の先まで見渡した。
「夕飯はまだだろう? 食べて行きなさい」
「いえ、そんな」
「どうぞ、入ってちょうだい」
不穏な空気を察したのか、里美も出て来て明るい声で促した。
「今夜はおうどんにしたの。沢山あるから遠慮しないで」
行彦は、二人が入ってくるのが当たり前。とばかりに、家の中に消えた。
「年頃の娘を持つ父親の気持ち、分かってあげて」
こっそりと、里美の優しい声。
「では、失礼致します」
堅い性格の洋史と、怒り中の行彦とでは、楽しい夕食は望めそうにないな。と、心の中で思うが、自業自得である。洋史を巻き込んでしまったと、申し訳なくも感じていた。
有紀を気遣ってくれたのだろう、胃に負担が掛かりづらく、食べやすいうどんと、野菜や魚の天ぷらが、美味しそうに並んでいる。
行彦は無言のまま、自分の隣に座るよう指示し、洋史は素直に従った。
有紀は里美の手伝いをしつつ、様子を見ると、いつも通り背筋を伸ばして座る洋史を、行彦はやや顔を傾けて盗み見ている。
あ。と、小さく声を立て、慌てて洋史が立ち上がる。何事かと思ったら、
「遅くなって申し訳ありません。津川洋史と申します」
もう、忘れようよ。あたしも、父さんのことは忘れるつもりだから」
「忘れられますか?」
洋史らしからぬしつこさに、有紀は一瞬戸惑いを感じた。てっきり、「そうですね」という返事が戻ってくるとばかり考えていたので、言葉に詰まり、妙な空白が生じた。
「忘れられないのでしょう? そのままにしておいて、大丈夫ですか?」
歩き始める。
洋史もなにも言わず、歩を進め始めた。
「大丈夫だよ。忘れられる。忘れられるくらいには、大人になったつもりだよ」
「そう」
それきり、洋史はなにも言わなかった。大して遠くない道のりを、急ぎもせず歩く。
月明かりに照らされ影を成す。
離れて歩く二人。影は、寄り添って見えた。
「有紀!」
予想していたが、家の前には行彦が待ち構えていた。しまった。と思った時には洋史が足早に行彦に近づき、目の前で止まった。
「申し訳ありません。僕が、有紀さんを今まで引き留めていました」
深く頭を下げる洋史に、行彦は言葉を失ったらしく、は、はぁ。と、次の言葉を発せずにいる。
じっと洋史を眺め、一つ、大きく息を吐いた。
行彦は、視線だけで洋史を頭の先から足の先まで見渡した。
「夕飯はまだだろう? 食べて行きなさい」
「いえ、そんな」
「どうぞ、入ってちょうだい」
不穏な空気を察したのか、里美も出て来て明るい声で促した。
「今夜はおうどんにしたの。沢山あるから遠慮しないで」
行彦は、二人が入ってくるのが当たり前。とばかりに、家の中に消えた。
「年頃の娘を持つ父親の気持ち、分かってあげて」
こっそりと、里美の優しい声。
「では、失礼致します」
堅い性格の洋史と、怒り中の行彦とでは、楽しい夕食は望めそうにないな。と、心の中で思うが、自業自得である。洋史を巻き込んでしまったと、申し訳なくも感じていた。
有紀を気遣ってくれたのだろう、胃に負担が掛かりづらく、食べやすいうどんと、野菜や魚の天ぷらが、美味しそうに並んでいる。
行彦は無言のまま、自分の隣に座るよう指示し、洋史は素直に従った。
有紀は里美の手伝いをしつつ、様子を見ると、いつも通り背筋を伸ばして座る洋史を、行彦はやや顔を傾けて盗み見ている。
あ。と、小さく声を立て、慌てて洋史が立ち上がる。何事かと思ったら、
「遅くなって申し訳ありません。津川洋史と申します」
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