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藤次
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「現在四畳半ですべてを賄っていますからね。六畳あれば広いくらいです。有紀だって部屋が必要でしょう?
あちらの四畳半を寝室にして……」
言い終わってすぐ発言の意味に気づき、静かに動揺してしまった。洋史の動揺に有紀がまた、頬を染める。
「ち……近い内にここの荷物はどかしてくれるから……」
視線を逸らしながら言う。
「有紀……」
肩に手を置き、顔を近づける。有紀は顔を仰向けると、目を閉じた。
そっと唇を寄せる。
有紀の言葉を思い出す。直通の為を思って身を引き、蕗子は心変わりをした振りをしたのではないのか。
近くで見守るだけが愛なのではない。そう考えたのではないのだろうか。直通を傷付けてでも、守りたかったのかもしれない。
唇を離して、有紀を抱き締める。
やはり。と思う。やはり近くで見守りたい。愛しているからには、一緒にいたい。直通も同じ気持ちだったのだろう。例え自分の為を思っての行為だとしても、許せなかったのかもしれない。
心変わりか。
自分への愛を失ったのか?
どんな状況であっても貴女と共にいたいとの、僕の気持ちを理解してくれないのか?
どちらにしても、苦しいに違いない。
直通の為にも、幸せになろうと、有紀を幸せにしようと、最も大事な温もりを抱き締めながら心の中で誓った。
帰り道、なにやら背後に人の気配を感じ、下宿への道を外れて彷徨っていた。
一時間ほど闇雲に歩いていると、小柴家の近所に戻っていると気付く
これ以上無駄に時間を過ごすのはありがたくはない。だからと言って、下宿を知られるのも躊躇した。
「何方でしょう?」
声をかけると漸く、男は姿を現した。思った通り、行彦の叔父だという男である。
「お前こそ何もんだ?」
品の無い問いかけに答える言葉を、洋史は持ち合わせていなかった。
「まぁ、何もんでもいいや。あいつに話付けてくれないか? 有紀にとって良い話なのに行彦の奴ははなっから相手にしやがらない」
やはり、目的は有紀らしい。良い話とはどういう話なのか? 男にとって良い話なのは間違いあるまい。
「お断り致します」
なにおぉ! と、威嚇染みた大声を出す。暗がりに相手を脅そうとすれば、怒鳴るか暴力に訴えるしかあるまい。
近くの家の扉が開く音が聞こえた。
あちらの四畳半を寝室にして……」
言い終わってすぐ発言の意味に気づき、静かに動揺してしまった。洋史の動揺に有紀がまた、頬を染める。
「ち……近い内にここの荷物はどかしてくれるから……」
視線を逸らしながら言う。
「有紀……」
肩に手を置き、顔を近づける。有紀は顔を仰向けると、目を閉じた。
そっと唇を寄せる。
有紀の言葉を思い出す。直通の為を思って身を引き、蕗子は心変わりをした振りをしたのではないのか。
近くで見守るだけが愛なのではない。そう考えたのではないのだろうか。直通を傷付けてでも、守りたかったのかもしれない。
唇を離して、有紀を抱き締める。
やはり。と思う。やはり近くで見守りたい。愛しているからには、一緒にいたい。直通も同じ気持ちだったのだろう。例え自分の為を思っての行為だとしても、許せなかったのかもしれない。
心変わりか。
自分への愛を失ったのか?
どんな状況であっても貴女と共にいたいとの、僕の気持ちを理解してくれないのか?
どちらにしても、苦しいに違いない。
直通の為にも、幸せになろうと、有紀を幸せにしようと、最も大事な温もりを抱き締めながら心の中で誓った。
帰り道、なにやら背後に人の気配を感じ、下宿への道を外れて彷徨っていた。
一時間ほど闇雲に歩いていると、小柴家の近所に戻っていると気付く
これ以上無駄に時間を過ごすのはありがたくはない。だからと言って、下宿を知られるのも躊躇した。
「何方でしょう?」
声をかけると漸く、男は姿を現した。思った通り、行彦の叔父だという男である。
「お前こそ何もんだ?」
品の無い問いかけに答える言葉を、洋史は持ち合わせていなかった。
「まぁ、何もんでもいいや。あいつに話付けてくれないか? 有紀にとって良い話なのに行彦の奴ははなっから相手にしやがらない」
やはり、目的は有紀らしい。良い話とはどういう話なのか? 男にとって良い話なのは間違いあるまい。
「お断り致します」
なにおぉ! と、威嚇染みた大声を出す。暗がりに相手を脅そうとすれば、怒鳴るか暴力に訴えるしかあるまい。
近くの家の扉が開く音が聞こえた。
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