143 / 202
空似
しおりを挟む
有紀は今日一日で三軒の家を回る。流石に一日中付け回しはすまい。
有紀と別れて、洋史は学校へは行かなかった。下宿に戻り、平助の部屋を訪問する。蕗子の写真が欲しかったのだ。
心配ではあるが、有紀は一人暮らしではない。両親が一緒なのだし、近所も藤次のことは知っている様子だから、そうそう危険はあるまい。
そうと分かっても、有紀を守るのは自分でありたいと、洋史は思った。近くで、体だけではなく、心も。
その為には、直通と蕗子の関係を詳しく知る必要がある。万一主義に関わっていたなら、小柴一家をも巻き込んでしまう可能性があるのだ。それだけは避けたかった。
平助は起きたばかりらしく、大きな欠伸をしながら扉を開けた。
「洋史はいつ如何なる時も着衣に乱れなく、髪一本跳ねず、流石は津川医師の息子だな」
ちょっとばかり不快な気持ちにさせられたが、平助に悪気が無いのは分かっていた。寧ろ誉め言葉のつもりであろう。
他人から見れば優秀な医師である永吾は、父親として自慢できる対象なのだ。
「朝早くから申し訳ありません。また、女優の写真を貸して貰えませんか?」
平助は頭を掻きながら、入れ。と言いながら笑った。
「また挿絵か。どんな女がいい?」
「目の大きな美人を」
少し考えて付け足す。
「できれば大部屋女優が」
プロマイドの束を手にした平助が振り返った。
「大部屋女優?」
「はい。主演級の女優だと華がありすぎて、真実味が無いように思われるのです」
「ふぅん、そういうもんか」
平助が得意とするのは神話の女神であるから、どんなに美しかろうと何ら問題はない。美しければ美しいほど、神々しさが増すというものである。
平助は万年床の上にどっかと座ると、写真をポイポイと洋史の足元に放り出し始めた。洋史も畳の上に座り、それらを集めて目を通す。
美しいが華に欠ける美人達。
主演級の女優と美しさの面では負けていないであろうが、どう説明すればいいのか、何かがごく僅か足りず、その他大勢となってしまう女優達。
自信だろうか、個性だろうか。美しいのだが何かが足りないのだ。
「お、そうそう洋史、この女見てみろ」
面白いものを見つけた時の声である。洋史は素直に視線を平助の手元に向けた。
有紀と別れて、洋史は学校へは行かなかった。下宿に戻り、平助の部屋を訪問する。蕗子の写真が欲しかったのだ。
心配ではあるが、有紀は一人暮らしではない。両親が一緒なのだし、近所も藤次のことは知っている様子だから、そうそう危険はあるまい。
そうと分かっても、有紀を守るのは自分でありたいと、洋史は思った。近くで、体だけではなく、心も。
その為には、直通と蕗子の関係を詳しく知る必要がある。万一主義に関わっていたなら、小柴一家をも巻き込んでしまう可能性があるのだ。それだけは避けたかった。
平助は起きたばかりらしく、大きな欠伸をしながら扉を開けた。
「洋史はいつ如何なる時も着衣に乱れなく、髪一本跳ねず、流石は津川医師の息子だな」
ちょっとばかり不快な気持ちにさせられたが、平助に悪気が無いのは分かっていた。寧ろ誉め言葉のつもりであろう。
他人から見れば優秀な医師である永吾は、父親として自慢できる対象なのだ。
「朝早くから申し訳ありません。また、女優の写真を貸して貰えませんか?」
平助は頭を掻きながら、入れ。と言いながら笑った。
「また挿絵か。どんな女がいい?」
「目の大きな美人を」
少し考えて付け足す。
「できれば大部屋女優が」
プロマイドの束を手にした平助が振り返った。
「大部屋女優?」
「はい。主演級の女優だと華がありすぎて、真実味が無いように思われるのです」
「ふぅん、そういうもんか」
平助が得意とするのは神話の女神であるから、どんなに美しかろうと何ら問題はない。美しければ美しいほど、神々しさが増すというものである。
平助は万年床の上にどっかと座ると、写真をポイポイと洋史の足元に放り出し始めた。洋史も畳の上に座り、それらを集めて目を通す。
美しいが華に欠ける美人達。
主演級の女優と美しさの面では負けていないであろうが、どう説明すればいいのか、何かがごく僅か足りず、その他大勢となってしまう女優達。
自信だろうか、個性だろうか。美しいのだが何かが足りないのだ。
「お、そうそう洋史、この女見てみろ」
面白いものを見つけた時の声である。洋史は素直に視線を平助の手元に向けた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!
胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。
主に5大国家から成り立つ大陸である。
この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。
この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。
かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。
※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!)
※1話当たり、1200~2000文字前後です。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
黄金の魔族姫
風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」
「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」
とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!
──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる