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美木多
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写真を十枚借りて、平助の部屋を出た。次は銀座のレストラン『西洋軒』に向かう。
『西洋軒』で見た蕗子と思われる女を、従業員は知らなかった。あれだけ目立つ美人であれば、男ばかりの仕事場であるから、一度でも客として訪れていたなら誰かが覚えていただろう。
では、男の方はどうか。もしかしたら男を知っている者がいるかもしれない。そちらから蕗子を見つけることが出来はすまいかと考えたのだ。
『西洋軒』は開店時間が十一時。十時前の今は一番忙しい時間かもしれないが、閉店まで待つ余裕はなかった。
幸い、美木多がいた。テーブルの上に花瓶を五つ並べて花を飾っている最中だった。
「あぁ、あの日いらしったお客様」
美木多は知っている様子だった。が、当然ではあるが顧客の名前やら肩書やらを滑らかに喋るような男ではない。
「どうしてあのお客様を?」
何処となく警戒しているような声であった。
「あの美しいご婦人を描きたいと思ったのです」
美木多には洋史を見つめた。何度か絵について話をしたから、洋史が人物を描きたがらなかったことも知っている。不自然だと洋史自身思わないでもなかったが、他の理由が浮かばなかった。
「君には美しい恋人がいるでしょう」
「勿論、有紀も描きます。
しかし、その、何と言いますか……有紀の絵を展覧会に出すのは躊躇します。僕の恋心を公言しているような気持にさせられるのです」
考えついた言い訳ではなかった。正直な気持ちであった。カンバスの中の有紀はきっと、見る人に洋史の気持ちを語りかけるに違いないのだ。
静かに、しかし、激しい愛情を貴女だけに……と。
美木多の目が和らいだ。洋史は自分が赤面していることを理解していた。鏡が無いので見ることはできないが、頬の辺りが熱を帯びているのが分かった。
「そうなのですね。
君のことは信頼しているけれど、お客様のことを勝手に喋るわけにはいきません。ですから、あの方から君に連絡して頂くというのはどうでしょう?」
男が断ればそこまでだろう。
洋史は安堵したとばかりの笑顔を作った。
「ありがとうございます。それでは、僕の下宿の電話番号を……」
『西洋軒』で見た蕗子と思われる女を、従業員は知らなかった。あれだけ目立つ美人であれば、男ばかりの仕事場であるから、一度でも客として訪れていたなら誰かが覚えていただろう。
では、男の方はどうか。もしかしたら男を知っている者がいるかもしれない。そちらから蕗子を見つけることが出来はすまいかと考えたのだ。
『西洋軒』は開店時間が十一時。十時前の今は一番忙しい時間かもしれないが、閉店まで待つ余裕はなかった。
幸い、美木多がいた。テーブルの上に花瓶を五つ並べて花を飾っている最中だった。
「あぁ、あの日いらしったお客様」
美木多は知っている様子だった。が、当然ではあるが顧客の名前やら肩書やらを滑らかに喋るような男ではない。
「どうしてあのお客様を?」
何処となく警戒しているような声であった。
「あの美しいご婦人を描きたいと思ったのです」
美木多には洋史を見つめた。何度か絵について話をしたから、洋史が人物を描きたがらなかったことも知っている。不自然だと洋史自身思わないでもなかったが、他の理由が浮かばなかった。
「君には美しい恋人がいるでしょう」
「勿論、有紀も描きます。
しかし、その、何と言いますか……有紀の絵を展覧会に出すのは躊躇します。僕の恋心を公言しているような気持にさせられるのです」
考えついた言い訳ではなかった。正直な気持ちであった。カンバスの中の有紀はきっと、見る人に洋史の気持ちを語りかけるに違いないのだ。
静かに、しかし、激しい愛情を貴女だけに……と。
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「そうなのですね。
君のことは信頼しているけれど、お客様のことを勝手に喋るわけにはいきません。ですから、あの方から君に連絡して頂くというのはどうでしょう?」
男が断ればそこまでだろう。
洋史は安堵したとばかりの笑顔を作った。
「ありがとうございます。それでは、僕の下宿の電話番号を……」
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