殺された人形

岡倉弘毅

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 以前、有紀と会うのはカフェが主で、常に親しい芸術仲間がいた。親しい人と会話している時は、有紀も笑顔であるから誰も何とも思わぬだろうが、洋史と二人の時には笑顔を収め、愁いを帯びた表情を見せることもあった。

 その表情は、程度の差はあれ、レストランでの蕗子らしき女と共通するものがある。

 テーブルの上に置かれた左手。弦楽器を演奏する際に邪魔になるからと常に深爪をしているが、それでも普通の婦人に比べても爪が長い。

 ふと、レストランでの記憶が呼び起こされた。蕗子らしき女がシュー・ア・ラ・クレームを千切っていた手も、爪の形が良く、深爪ではなかった分、有紀よりも長かった。

 ただ、向こうの方が少々手が大きかったのではあるが。

 好きな食べ物など取り留めのない話をしながら、有紀を観察する。じっくりと見れば、あまり似ていない。

(二人が腹違いの姉妹である可能性も無きにしも非ずか……)

 もしそうだとしても、有紀と蕗子に面識はなかろうし、親同士も知らぬであろうからには、何の手掛かりにもならない。

 有紀の父親が誰かは言わなかった。と、行彦は言ったが、見当はついているだろう。お屋敷に行儀見習いに行っていたのであれば、当主の手が付いたと考えるのが普通だ。

 行彦に聞いても答えはすまい。近所の人間なら知っているかもしれない。洋史の頭には、田所の人の良さそうな表情が浮かんでいた。


 有紀を送り届け、食事を頂いてから下宿に戻った。藤次はあれから、姿を現していない様子だったが、油断はできない。

 明日の朝も迎えに行く約束をしてきた。その際に持って行く荷物を風呂敷に纏めると、写真を見始める。

 美を誇る女優達。皆美しくはあるが、それぞれに違っている。大きな目が魅力的な者もいれば、切れ長な目に色気を漂わせる者も。

 大部屋女優の中で、蕗子は目立って美しかった。しかし、華においては、どっこいどっこいである。一人だけで写真に写る主役級の女優とは比較すべくもなかった。

 主役級の女優は美しいだけではなく、可愛らしかったり、頼りなさげな、男の庇護欲を掻き立てる様子を持ち合わせてもいた。
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