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事情
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洋史は平助に借りた写真を、テーブルの上に置いた。森本が息を呑むのが分かった。
「高島洋子と名乗っていた女優でした。大部屋女優で仕事が少なくなったのを気に病んでいた時、共産主義の人間に、自分達が国を動かすようになれば、映画も国営になるからお前を主演女優にしてやると言われ、協力するようになったようです。
弱っていた為に、その気になってしまったのでしょう。すぐに後悔し始め、組織を抜けようと考え、家に戻ろうとしたものの戻れず、途方に暮れている時に弟と出会ったのだと、生前弟と親しくして下さっていた人から聞きました。
高島洋子の地元でしたから、彼女が主義組織に入っていたことは、その界隈では公然の秘密でした。
弟が高島洋子と親しくなるのを、止める人も少なくなかったようです。しかし、二人はどうやら、手に手を取って新天地を目指す約束をしていたらしいと……。
しかしどうやら彼女が、何も言わず弟の元を去り……」
「まさか君の弟さんは自ら……」
「いいえ、弟の死は事故でした。溺れる子供を助けて、力尽きたのです。
弟の遺品である本から、彼女の心変わりを疑うような言葉も見つかりましたが、恐らく、巻き込むまいとして去ったのだと、周りの人達も考えていたようです。
心変わりでも構わない。ただ、弟の死を伝えたい。
同時に僕の事情もあります。
弟と親しかった人達から、主義者に弟のことは知られていようから、似ている僕が巻き込まれるのではないかと心配されています。
結婚を考えていますので、相手の家族を巻き込むようなことがあってはなるまいと、調べているのも事実なのです」
森本は大きく溜息を吐くと、思い出したようにサンドウィッチを頬張り出した。さっきのお上品な食べ方とは違って、怒りを噛み砕いているような風に見えた。
紅茶を流し込むと、きつく目を閉じ、私は……と、声を絞り出した。
「彼女が既婚者であろうと、恋人がいようと主義者であろうと構わない。今の私が持つ全てを失っても構わない。
彼女が欲しいのだ! 彼女と一緒に居たいのだ!」
本当に少年のようだと思った。後先構わぬ感情だけの恋愛。
相手の女が自分には欠片の感情も持っていないと自覚していながら、どうしてそれほど熱く想えるのか。
「君を信頼している」
「高島洋子と名乗っていた女優でした。大部屋女優で仕事が少なくなったのを気に病んでいた時、共産主義の人間に、自分達が国を動かすようになれば、映画も国営になるからお前を主演女優にしてやると言われ、協力するようになったようです。
弱っていた為に、その気になってしまったのでしょう。すぐに後悔し始め、組織を抜けようと考え、家に戻ろうとしたものの戻れず、途方に暮れている時に弟と出会ったのだと、生前弟と親しくして下さっていた人から聞きました。
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しかしどうやら彼女が、何も言わず弟の元を去り……」
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「いいえ、弟の死は事故でした。溺れる子供を助けて、力尽きたのです。
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心変わりでも構わない。ただ、弟の死を伝えたい。
同時に僕の事情もあります。
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森本は大きく溜息を吐くと、思い出したようにサンドウィッチを頬張り出した。さっきのお上品な食べ方とは違って、怒りを噛み砕いているような風に見えた。
紅茶を流し込むと、きつく目を閉じ、私は……と、声を絞り出した。
「彼女が既婚者であろうと、恋人がいようと主義者であろうと構わない。今の私が持つ全てを失っても構わない。
彼女が欲しいのだ! 彼女と一緒に居たいのだ!」
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「君を信頼している」
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