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第三章 もっと動く六月
44.おいしいね!
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「先輩、昨日の球技大会、お疲れさまでした」
翌日の昼休み、生徒会室へ入室するなりそう切り出すと、先輩は眉を八の字に歪めた。
「昨日は、ごめんね。手伝わせちゃって……」
「いえ、いいんですよ。重いものは男に持たせとけばいいんです」
にこりと笑いながら答えてから、はっと後悔する。安元先輩と同じことを言ってしまったあああぁぁぁ!!
こんなことじゃ、いつまでたってもあのひとを超えられないっ!
心の中で七転八倒していると、先輩がふふっと柔らかく笑う。それは、二番煎じのセリフしか言えない俺への苦笑ではなく、どこか照れたような……。
「わたし、ゴウくんが手伝うって言ってくれたとき、本当に嬉しかったよ」
囁くように紡がれた声はどことなく色っぽくて、俺は直立不動になってしまった。
「い、いえ、たまたま見かけただけなので……」
「でも、一生懸命走ってきてくれたでしょ?」
「いえ、駆け足程度です」
「え~? けっこうハァハァしてなかった?」
「し、してません」
先輩にはすべてお見通しだったみたいだけれど、俺はすまし顔で否定した。先輩はくすくすと笑い、俺のために椅子を引き出してくれる。
「えーと……、開会式の挨拶、キマってましたよ!」
腰掛けながら、昨日感じたことを告げる。聴衆の態度は最悪だったが、それでも先輩の姿は本当に凛として、きれいだった。
生徒会のことをあれこれと知った今、さらに思う。先輩をより美しく輝かせているのは、生徒会長としての職務を全うしようとする強い意志だ。
「ありがとー! 真面目すぎて退屈じゃなかったかな?」
先輩はニコッと笑って、かわいらしく首をかしげる。
「いやそんなことないです。緊張したり噛んだりしなくて、さすが先輩、って感じでした!」
「えへへ、どうもどうも」
「人前に立つのは、慣れてるんですか?」
「まあ、昔っからいろいろねー。中学のときはスピーチコンテストとか出たことあるし。あと、ママから声の出し方のレッスンとか受けたこともあるよ」
へぇ、と俺は感嘆の声を漏らす。
「すごいですね。お母さん、そういう指導系の職業なんですか?」
「ううん、ただのデザイナーだけど、学生時代は演劇とか合唱やってたらしいよ」
「そうなんですか」
デザイナーってだけでなんだかすごいけれど、人前に立つような部活動をしていた、っていうこと自体が俺にとっては超尊敬モノだ。そんなお母さんの血を継いでいるからこそ、先輩も肝が据わっているんだろうな。
それから先輩にお弁当を渡すと、いつものように満面の笑みを見せてくれる。
「昨日は久しぶりにコンビニのおにぎりだったけど、やっぱりゴウくんのお弁当の方が何億倍もおいしいね。ホント、朝から楽しみだったよ!」
「あ、ありがとうございます」
何億倍って……。身に余る褒め言葉に、俺は照れて頬を掻いた。
今日の弁当のメインは、豚バラと大根の炒め物。甘辛く味付けしてあるから、ごはんにすごく合うと思う。
あとは、昨日瑛士に食べさせたのと同じ、タラコ入りの卵焼き。そしてほうれん草ともやしのおひたし、ゆうべの残りの春巻きだ。
「大根おいしいね!」
と、先輩は豚バラ大根とごはんをすごい勢いで胃に収めていった。合間合間に他のおかずをつまみ、そのたびに表情を輝かせて感想を言ってくれる。
「卵焼きって、無限のバリエーションがあるね。まさかたらことも合うなんて……」
「そうですね。今日のはめんつゆで和風にしてありますけど、チーズや大葉と合わせてもいいですよ」
「うっ、全部の組み合わせを食べてみたい……」
身悶えする先輩に、俺は「任せてください」とこぶしを掲げる。先輩が食べてみたいと言ったものは、絶対に忘れない。
「この春巻きは、近所の総菜屋のものなんですけど、我が家のお気に入りなんです」
「そうなんだ」
先輩は興味深げに、半分にカットした春巻きを齧る。
「あ、野菜がたっぷり入ってる」
「キャベツがたくさん入ってて、食感がいいんですよね」
「うん、そうだね! 噛みごたえもあるし、食物繊維たっぷりとれそう」
ぺろりと完食したあと、しまったという顔をするのはいつものこと。
先輩はお気に入りのおかずを食べると、たまに理性を失くしてしまう。大切に少しずつ食べてくれるのも嬉しいけれど、無心でがっついてくれるのもすごく嬉しい。
それ以前に、こうして先輩とお昼をご一緒できることが超絶嬉しい。
喜びに胸を焦がしながらも、昨日の安元先輩との会話を思い出す。俺の不用意な行動一つで、ゲスな噂話が流れて、この関係が終わってしまうかもしれないのだと思うと薄ら寒くなる。
「ゴウくん、わたしは完全に悟りを得たよ! これはほうれん草だよね!」
おひたしを食べた先輩が意気揚々と言うから、俺の不安はあっという間に吹き飛んだ。
「正解です」
「うん、小松菜とはぜんぜん味が違うから、もう絶対に間違えないと思う」
「スーパーで買うときは見分けがつきますか?」
あえて意地悪な物言いをすると、先輩はぎくりとしたような顔をする。
「えーと……そう言われるとわかんないかも……」
ああ、このしゅんとした顔もいいっ! お互いにからかったりからかわれたりするのって、いいよなぁ。
「値札に明記してあるし、見た目もぜんぜん違うからすぐにわかりますよ」
「そ、そっか……」
と、先輩は不安そうに目線を泳がせた。
ん? ほうれん草と小松菜の見た目がわからない程度の不安にしては、ちょっと過剰すぎるような……。
先輩は急に静かになって、残ったおかずを平らげるまで口を開かなかった。いきなりどうしたんだろう。
翌日の昼休み、生徒会室へ入室するなりそう切り出すと、先輩は眉を八の字に歪めた。
「昨日は、ごめんね。手伝わせちゃって……」
「いえ、いいんですよ。重いものは男に持たせとけばいいんです」
にこりと笑いながら答えてから、はっと後悔する。安元先輩と同じことを言ってしまったあああぁぁぁ!!
こんなことじゃ、いつまでたってもあのひとを超えられないっ!
心の中で七転八倒していると、先輩がふふっと柔らかく笑う。それは、二番煎じのセリフしか言えない俺への苦笑ではなく、どこか照れたような……。
「わたし、ゴウくんが手伝うって言ってくれたとき、本当に嬉しかったよ」
囁くように紡がれた声はどことなく色っぽくて、俺は直立不動になってしまった。
「い、いえ、たまたま見かけただけなので……」
「でも、一生懸命走ってきてくれたでしょ?」
「いえ、駆け足程度です」
「え~? けっこうハァハァしてなかった?」
「し、してません」
先輩にはすべてお見通しだったみたいだけれど、俺はすまし顔で否定した。先輩はくすくすと笑い、俺のために椅子を引き出してくれる。
「えーと……、開会式の挨拶、キマってましたよ!」
腰掛けながら、昨日感じたことを告げる。聴衆の態度は最悪だったが、それでも先輩の姿は本当に凛として、きれいだった。
生徒会のことをあれこれと知った今、さらに思う。先輩をより美しく輝かせているのは、生徒会長としての職務を全うしようとする強い意志だ。
「ありがとー! 真面目すぎて退屈じゃなかったかな?」
先輩はニコッと笑って、かわいらしく首をかしげる。
「いやそんなことないです。緊張したり噛んだりしなくて、さすが先輩、って感じでした!」
「えへへ、どうもどうも」
「人前に立つのは、慣れてるんですか?」
「まあ、昔っからいろいろねー。中学のときはスピーチコンテストとか出たことあるし。あと、ママから声の出し方のレッスンとか受けたこともあるよ」
へぇ、と俺は感嘆の声を漏らす。
「すごいですね。お母さん、そういう指導系の職業なんですか?」
「ううん、ただのデザイナーだけど、学生時代は演劇とか合唱やってたらしいよ」
「そうなんですか」
デザイナーってだけでなんだかすごいけれど、人前に立つような部活動をしていた、っていうこと自体が俺にとっては超尊敬モノだ。そんなお母さんの血を継いでいるからこそ、先輩も肝が据わっているんだろうな。
それから先輩にお弁当を渡すと、いつものように満面の笑みを見せてくれる。
「昨日は久しぶりにコンビニのおにぎりだったけど、やっぱりゴウくんのお弁当の方が何億倍もおいしいね。ホント、朝から楽しみだったよ!」
「あ、ありがとうございます」
何億倍って……。身に余る褒め言葉に、俺は照れて頬を掻いた。
今日の弁当のメインは、豚バラと大根の炒め物。甘辛く味付けしてあるから、ごはんにすごく合うと思う。
あとは、昨日瑛士に食べさせたのと同じ、タラコ入りの卵焼き。そしてほうれん草ともやしのおひたし、ゆうべの残りの春巻きだ。
「大根おいしいね!」
と、先輩は豚バラ大根とごはんをすごい勢いで胃に収めていった。合間合間に他のおかずをつまみ、そのたびに表情を輝かせて感想を言ってくれる。
「卵焼きって、無限のバリエーションがあるね。まさかたらことも合うなんて……」
「そうですね。今日のはめんつゆで和風にしてありますけど、チーズや大葉と合わせてもいいですよ」
「うっ、全部の組み合わせを食べてみたい……」
身悶えする先輩に、俺は「任せてください」とこぶしを掲げる。先輩が食べてみたいと言ったものは、絶対に忘れない。
「この春巻きは、近所の総菜屋のものなんですけど、我が家のお気に入りなんです」
「そうなんだ」
先輩は興味深げに、半分にカットした春巻きを齧る。
「あ、野菜がたっぷり入ってる」
「キャベツがたくさん入ってて、食感がいいんですよね」
「うん、そうだね! 噛みごたえもあるし、食物繊維たっぷりとれそう」
ぺろりと完食したあと、しまったという顔をするのはいつものこと。
先輩はお気に入りのおかずを食べると、たまに理性を失くしてしまう。大切に少しずつ食べてくれるのも嬉しいけれど、無心でがっついてくれるのもすごく嬉しい。
それ以前に、こうして先輩とお昼をご一緒できることが超絶嬉しい。
喜びに胸を焦がしながらも、昨日の安元先輩との会話を思い出す。俺の不用意な行動一つで、ゲスな噂話が流れて、この関係が終わってしまうかもしれないのだと思うと薄ら寒くなる。
「ゴウくん、わたしは完全に悟りを得たよ! これはほうれん草だよね!」
おひたしを食べた先輩が意気揚々と言うから、俺の不安はあっという間に吹き飛んだ。
「正解です」
「うん、小松菜とはぜんぜん味が違うから、もう絶対に間違えないと思う」
「スーパーで買うときは見分けがつきますか?」
あえて意地悪な物言いをすると、先輩はぎくりとしたような顔をする。
「えーと……そう言われるとわかんないかも……」
ああ、このしゅんとした顔もいいっ! お互いにからかったりからかわれたりするのって、いいよなぁ。
「値札に明記してあるし、見た目もぜんぜん違うからすぐにわかりますよ」
「そ、そっか……」
と、先輩は不安そうに目線を泳がせた。
ん? ほうれん草と小松菜の見た目がわからない程度の不安にしては、ちょっと過剰すぎるような……。
先輩は急に静かになって、残ったおかずを平らげるまで口を開かなかった。いきなりどうしたんだろう。
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