美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

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第四章 知る七月、八月

62.打ち上げ花火、先輩と見るか、友人と見るか その3

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「一年の分際で上級生を呼び出すなんて、いい度胸ね~」

 待ち合わせ場所に最初に姿を現したのは、なぜか鞘野さやの先輩だった。
 白地に牡丹ぼたんの柄の浴衣を着ていて、いつもポニーテールにしている髪はお団子になっている。

 正直言って、かわいい。うかつにもドギマギしてしまった。
 それは、俺から少し離れたところで野次馬と化している友人たちも同じらしく、ぽかんと口を開けて鞘野先輩を見つめていた。

「ああ、メッシーくんったら、お友達にあきらを見せびらかしたかったのね~!」
「ち、違いますよ、勝手について来たんです! で、ともえ先輩はどうしたんですか?」
「もうすぐ来るわよ、ホラ」

 鞘野先輩の視線を追うと……一生懸命にこちらへ向かってきている先輩の姿が見えた。歩みがぎこちないのは、慣れない下駄のせいなんだろう。

「ゴウく~ん、お待たせ」

 あと数日は聞けないと思っていたその声を聞けただけで、俺の胸はいっぱいになる。

 しかも浴衣姿の先輩は、俺の妄想の何百倍もお美しくあらせられた。長身痩躯に紺色の浴衣がめちゃくちゃ似合っている。
 ショートヘアを耳の上で編み込んで、大きな花飾りでとめている。手には小さなかごバッグ。下駄の鼻緒は赤色で、爪にはピンクのマニキュア。もともと大きな目がさらに際立って見えるのは、化粧の効果だとわかった。

 普段と雰囲気の異なる先輩の姿に、俺は──いや、俺たち一同、言葉を失った。

「あ、あの、その。わざわざすみません。えっと、浴衣姿が見たくて……」
「そうなんだ!」

 噓偽りない俺の言葉に、先輩が満面の笑みを浮かべた。同時に上がった花火の光に照らされて、その笑顔がよりいっそう輝く。

「ありがとう! だいぶ気合入れてきてから、そう言ってもらえて嬉しい!」

 と、くるりと一回転する先輩の姿は、俺にはあまりにも刺激的だった。魂が抜けちまう……。

「ね、みっちゃんと色違いなんだよ。かわいいでしょ!」

 そう言って鞘野先輩と横並びになる先輩。二人の身長差は二十センチ近くあるんじゃないだろうか。のっぽとおチビの美女コンビは、なかなか絵になっていた。

「は、はい、すごくいいと思います……」

 照れまくりながら答えると、鞘野先輩がぷっと噴き出した。俺の動揺っぷりが滑稽だったんだろうが、ほっといてくれ。

「ねぇゴウくん、せっかくだからなにかおごってあげるよ」

 唐突な先輩の提案に、俺は戸惑う。

「い、いや、いいです! っていうか俺がおごりますよ。わざわざ来てくれたんですし」
「だーめ、いつもお世話になってるんだから。友達もいっぱいいるみたいだし、ベビーカステラでいいかなぁ?」
「いや、あいつらのことはお気になさらず」

 ぶんぶんと首を横に振ると、先輩はあろうことか俺の背後の野次馬どもへと声をかけた。

「え~? みんなもベビーカステラ食べたいよねぇ?」

 すると野郎どもは互いにおどおどと目を見合わせてから、

「いえ……」「大丈夫です……」「へへ……」

 と、もごもご言い始めた。ただでさえ女慣れしていないのに、こんな美人に気さくに話しかけられたら、そりゃ陰キャ丸出しになっちまうよ。

「遠慮しないで!」
「じゃあ、お願いします」

 口火を切ったのは、瑛士だった。それから俺へ向けて、シッシと手を振る。

「ほら、二人で行ってこい」
「瑛士……」

 友の心配りに感動したのも束の間、全員の目の中に、『リア充死ね』と言わんばかりの殺気が宿っていることに気が付いた。ああ、間違いなくあとでフルボッコにされる……。

 鞘野先輩もニヤニヤしながら、「よろしく~」と手を振っている。このひとは結局、俺と安元先輩、どっちの味方なんだろう。ただ楽しんでるだけなんだろうか。

 釈然としないまま、先輩と二人きりで露店の方へ向かう。慣れない下駄のせいで小股になっている先輩に合わせて、ゆっくりと、ゆっくりと。

 あれ、これって、妄想が現実のものになってないか?
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