上 下
25 / 68
第5章 繋ぐ日々

【黎明既】

しおりを挟む
 ところで俺はとんでもなく負けず嫌いだ、
いい歳して若い世代と対等に張り合おうとしたり

好きな人に対しては何らかの形で
"こんなにも好きなんだ"と自分を主張したい、

例えばアイドルなどで推しが存在するとして
その推しに対しても自分しか出来ない何かで
存在をアピールしたい、と言う

非常に子供じみた発想。

その思考はこの世界、そう風俗嬢に対しても
同様であることに気づいた。

 当然、勤続3ヶ月の新人とは言え
さりーには俺を含めて既に何人もの常連客が存在していて

むしろ俺なんぞまだ駆け出し程度と言える。

そんな中で存在感を示すなど至難の技、

しかしどうだ?

会うのはまだ2回目でありながら
俺の存在はさりーの中で
それなりに認知されているのではないだろうか?

ありきたりな話題やプレイに終始するだけでは
生まれない何か…

そもそも俺は小説のネタ探しにこのお店に来た

出会った風俗嬢をテーマに小説を書く常連客など
他にいるだろうか?

むしろ俺はしっかり頭のネジが1本も2本も外れた
イカれてる男だと言えるだろう、

さりーの記憶の1ページに割り込むには
十分すぎるほどの資質はあるかも知れない。

 しかし俺の最大のウィークポイント、
それは負けず嫌いから生じる小さな嫉妬心や
ちょっとしたことで不安を生み出すネガティブな性格

感性が鋭いから、と自画自賛しているが
これが何よりも厄介な代物だ。

だからこそさりーとのトークのやり取りは
会えない時間を埋め合わせる最大の武器

しかしそれも俺のひとりよがりではなく
さりーもまた楽しんでなければ意味がない。

2度目の情事の翌日、早速さりーからトークと

前回同様、お礼メッセージに加え
口コミに対しての返事も届いた。

「私もめっっっちゃ楽しかったですよぉぉ!」

その文章を見た瞬間、ホッと胸を撫で下ろした。

喋り過ぎて引かれてなかっただろうか?
趣味の話題が多くて退屈だったのでは?

色んな心配をしていたが全て杞憂だった、
そう思わせてくれた。

 子供みたいにはしゃいでる姿に
母性本能をくすぐられた、とか

翌日謎に発動した筋肉痛を笑われたり

事前に俺の制作活動について
しっかりチェックしていたことを

ーせっかく会いに来てくれるなら
まず相手(敵)を知る、これスパイの鉄則!
(スパイは自ら名乗らない)

そう語る言葉の選び方ひとつひとつに
ユーモアのセンスが長けていて

そんなところも俺の感性を程よく刺激してくれる。

とにかく好印象な点は前回同様揺るがなかった。

面白いな、そして何だか独特のセンスを感じる

そして何だか自分と似た部分を感じるな…
これはさりーも同じことを考えていたかも知れない。

お礼メッセージでは
ー素敵なプレゼントもありがとうございました

と、渡したCDのことにも触れてくれたり

ー仲のいい友達に会ってる感覚…激しく同意です!
だって○○(音楽のことと思われる)好きの私たちは親友!

など、俺の心をくすぐる内容が記されていた。

 彼女の発する言葉はどこか俺の琴線に触れて
何とも言えない心地よさを与えてくれる。

その中には歌詞や小説の表現にも活用出来そうな
そんなフレーズも多く

受け取るインスピレーションが予想以上、
俺のキャパを大きく上回る予感がした。

ーこれはその都度その都度
そのひとつひとつを克明に記しておかないと

きっと追い付かなくなる…

それは大いなる損失だと感じた。

 そこで俺は「レイナ」の続編のアイデアと並行して
さりーと過ごした時間を文章として残すことを決意する。

そのタイトルは「期間限定フレンズ」
正に言い得て妙だと納得するほどしっくりしていた。

サブタイトルは
“魔法使いはスパイだった”

その語源は言わずもがな、
これまでのさりーの言動に由来しているのは
おわかりだろう。

小説掲載の許可に関してはさりーからの了承をもらい

こうして「レイナ」続編と並行して執筆することになる
実録版「さりー物語」を書く日々が始まった。
しおりを挟む

処理中です...